2009/04/18

不本意な死、不本意な生

 終末期医療のあり方が議論されている(終末期医療のあり方に関する懇談会)。リビングウィル(生前の意思)を尊重した延命治療の中止に関する法制化をすべきかどうかの議論だ。
 医療関係者、とりわけ治療の責任を持つ医師からは法制化を求める声が大きくなっているという。回復の見込みが少ない患者への延命治療に対する人・労力と医療費の問題を考えると、重大な責任を背負う医師が法制化を求める思いも分かる気がする。
 一方で法律家からは、人の死の問題を法律で扱うことに違和感を感じている。これまで、延命治療中止を行った医師が法廷の場に立たされることはあっても、大きな罪を背負わされたことはない。人の死は法を超えた倫理的判断で考えるべきことであって、法律で決めるべきことではない、ということだ。
 個人的には医療や福祉、法律の問題ではなく、患者本人と家族の生き方の問題であって、医療関係者や福祉関係者に責任が及ばない、法律とは異なる、何かしらの配慮があればいいのではないかと思う。そのために重要なことは、まずはすぐの対応策として法的拘束力のないガイドラインが整備されること、そして長期的な対応策として死について意識するためのインフラ整備としての(学校)教育の検討ではないかと思う。(厳密に言うと異なるが)宗教の根ざしていない日本だからこそ、教育関係者を含めて議論することが必要な気がしている。

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2008/09/21

病院の存続か、医療の存続か。

 後期高齢者医療制度の見直し、そして医師不足など医療をめぐる問題は政治問題にも直結し、医療に関する政策姿勢が国の首相を選ぶ判断材料の一つになろうとしている。そういった医療をめぐる問題で深刻なのが医師不足に端を発すると言われる地方の医療崩壊だ。先日、千葉県銚子市が市立病院を突然廃院するとの発表があり話題となったが、今や自治体自体に財源がなくため、病院経営どころではないということだ。

 ところで、地方の医療崩壊の原因に臨床研修医制度・医師不足をあげ、国はその研修制度の見直しと医師の養成を大幅に増やす方向で検討に入っているのだが、果たしてそれで問題は解決されるのだろうか?比較的医師が多いと言われている徳島や福岡においても「医師が足りない」という声をよく聴く。そして、そういった県の医療費は比較的高く、病院数も多い。さらに詳しくみてみると、小規模クラス(100床以下)の病院が多く、大規模クラス(400床以上)の病院が少ない傾向にある。ようするに、地域内で医療資源が効率的に配分されておらず、競い合って疲弊している、ということではないだろうか。地域医療連携など診療報酬上で評価され、地域医療計画においても盛り込まれ、公立病院改革においてもネットワーク化などの必要性が推進されている。
 病院単体の生き残りから、地域と住民の安心と安全のための地域医療の生き残りという観点、すなわち病院崩壊から医療崩壊の防止に向けて、一般市民も考えて「行動」しなければならない、と、確実に近づく衆議院議員総選挙を前に思った。

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2008/05/06

はずれた予想が教えてくれた管理のコト

 「そんなに時間が足りないというのなら、好きなようにやればいい。きっと何にもできないだろう」、初めはそう思っていたが、それは良い意味で期待を裏切られる結果となった。

 とある病院でおこなわれた職務満足度調査、よくありがちな質問項目と一緒に設けられていた自由記載欄。その欄に多くのスタッフが書いていた「もっと時間があれば満足なケアができるのに」という言葉。それほどまでに思っているのなら、一日フリーの時間を与えてみようじゃないか。それで、どこまで満足のいくケアができるのか。時間の使い方やスタッフの満足と患者の満足のギャップなどに気づいてくれる、一種のショック療法になれば。そうして始まった、一人のスタッフがその勤務帯で自由に動けるローテーション。当初思い考えていたショック療法としての効果はなく、「満足なケア」の実現に向け、何の指示を受けることなく活動を始め、それが仕事のやりがい作りに役立つという効果を引き出した。
 日頃のルーチンワークの中で何とはなしに気になっていた患者のもとに足を運び、行き届いていなかった清潔ケアなどに次々に取り組む。他の患者に不公平感を感じさせないために周囲への配慮や説明と同意が必要であることを忘れてはならないよう注意しつつ、どこか満たされていなかった職務満足感を充実させていった。そして、時間配分についても旅行のスケジュールを組み立てるかのように、どこか楽しんでマネジメントをしているようだった。当然だが、患者そしてその家族も悪い気はしない。
 管理者は自分が少し恥ずかしいと感じたという。スタッフをどこか信じていなかったこと、そして管理が自己満足になっていたという事実に遭遇して。

 病院においてもワーク・ライフ・バランスの重要性が叫ばれ、こうした取り組みは一つの解決策になるのかもしれないが、個人的には、基礎となるケアに対する前向きな意識付けや職場風土があってこそだと思う。何の下準備もなく、ただフリーの時間を与えたところで、多くの病院でこういった成果が上げられるかといえば、私は難しいだろうと思う。まずは、管理者として臨床現場を支援・バックアップするために何が必要で、何が出来るのか、改めて考えてみることが大事だろう。自己満足な管理になっていることはないかの気づきを得るためにも。そして、スタッフを信じること、任せることで職場風土という下準備はできるのだろう。

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2008/02/11

地域医療連携の最終出口

 地域医療機関や介護施設との連携以前に院内での連携がまずは大事、MSWも確かに必要とされるけども連携において重要なのは患者の症状も医学的知識もある看護師、連携パスは確かに標準的な流れもわかってチェックリスト的な役割も期待できるからあるに越したことはないが結局は地域連携というのは患者個人のネットワークでそのネットワークが複数存在しているというもの、などひとしきり地域連携に携わっているその医師は熱く語ってくれた。
 
 そして最後に言った、2,050年頃には国内人口のほとんどは東京・名古屋・関西に集中する。現在でも、すでに人口の約半数はその3つの地域に集中している。こうして地域医療連携をやっているけど、実は多くの地方の病院は連携をしながら撤退の時期を伺っているようなものなんだろうなと思うよ、と。

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2008/01/05

タライマワシ ノ アトで

 「ところでさぁ、あんまりいい気分はしないね。ジェネリックってようするに二番煎じのことなんだろ?」
 駅の階段で転び骨折、救急車で整形外科の病院に運ばれて手術を受け、リハビリ病棟へ行き、療養病棟・介護老人保健施設を経由して自宅で療養生活がはじまったばかりのその人は言った。自宅には奥さんが一人、3人の子供は家族を持ち遠くで暮らしている。連携医療の重要性は確かに分かるが、患者さんにとっては単なるたらい回しに思われることもある。あまり体が丈夫ではない奥さんのことを考えると、もうしばらく施設に居たい思いもあったが、在宅サービスの説明を受け、帰ってきた。やっぱり自宅はいいものだと思う反面、まだ骨折部位や心臓に抱える持病のことを考えると医療・介護の専門職者が常にいるわけではない日常生活にはやや不安もあるという。

 そしてはじまった在宅療養。ホームヘルパーさんや訪問看護師さんの働きぶりには本当に感謝していると言うが、首をかしげるようなことがあったとあるエピソードを語ってくれた。
 ある日訪れたホームヘルパーさんから「冷蔵庫にあるもので料理を作りましょうか」と言われた。たいして腹は減っていなかったのだが、善意からの言葉と受け取り、了解した。そしてできた料理は食べやすい大きさにカットされていたりと配慮は感じるのだが、やや堅く、美味いとも言えるものでもなかったが、何も言わずそのまま食した。ホームヘルパー(2級)の養成教育では料理に関するカリキュラムや実習などはなく、事業所での教育やその人の経験などに頼るものとなっているのが現状で、ホームヘルパー個人や事業所単位で技量にバラツキがある。また、いつも使っている台所とは異なるわけで、その場その場での臨機応変な対応が求められるわけだが、料理については何かしらの継続教育はあってよいと個人的に思うし、事業所の差別化にも係わってくるように感じている。その翌日のこと、奥さんは血相を変えて買い物から家に戻ってきた。「ホームヘルパーさんが言っていたわよ、たいして材料もないのに食事を作らされて困った、て」、近所の方からそう言った話しをされたそうだ。サービス利用者の個人情報保護の観点からも問題があると言えるが、そんなことよりも今でも家事をやっている奥さんとしては「作らされた」という言い方が許せなかった。言うまでもなく、新しい事業所と契約することとなった。当の本人は別にそれほどでも、善意もあったことだろうし、と気にはしていない様子。なお契約解除した事業所は、その直後、ワケあって、今は、看板が変わった。

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○褥瘡予防について聴いて学ぶ
 ーヴォイニッチの書棚 2007年12月20日配信号よりー
 〜日本人の褥瘡危険要因【OHスケール】による褥瘡予防 第二版

2007/12/10

危機への備えとリーダーの感性

 ”建物全体が大きく揺れ、天井から水が滝のように落ち、壁ははがれたその時、『ああぁ私は死ぬんだなぁ』とそう思った時、目の前の患者さんのベットが動かないようにしっかりつかみ、とても冷静になっていたことを感じました”
 
 大きな震災を体験した看護師の語りには、教科書などの読み物の類では伝わらない臨場感と有資格者としての責任感を感じる。

 時間、日にちは経過して続々とボランティアなどの支援者がやってくる。復興は進む。しかし、災害時の対応についてはいろいろと事前にマニュアルも整備していたのだが、ボランティアの受付や対応などは計算外だった。復興はさらに進む、善意はひっきりなしにやってくる。入院医療にも急性期・回復期・慢性期とあるように災害復興にも急性期・回復期・慢性(安定)期がある。ボランティアする側にもそれ相応の知識がなければ善意は空転してしまいかねないものだ。そしてもう一つの計算外があった。ついつい高齢者に対してはいつも以上に配慮がいってしまい、いつもは高齢者が一人でできることに対しても「動かないでいいです。私がやりますから」と言ってしまう。結果、褥瘡ができてしまった高齢者が多数見受けられた。ただでさえ栄養状態も低下していく災害の現場、そして不活発な生活。善意というものは難しいものだ。
 とにかく情報が欲しい、災害の現場でスタッフは口々に言った。「知らない」ということこそが一番の不安だった。地震ではなく戦争が始まったのではないか、日本国中すべてがこのような状態なのではないか、そう思った人もいる。携帯ラジオ、そしてホワイトボードへの書き込み情報はケアするスタッフの安心となった。つい忘れがちになってしまうだろうが、ケアするスタッフも同じ被災者である。管理者には、そこに働く者の幸せや生活を守る責任がある。被災者へのケアと同様に、管理者には同じ被災者としてのスタッフへのケアが重要なのだ。そして、震災後においても心のケアが重要なことは言うまでもない。

 やがて日常が戻ってきたある日のこと、「死ぬと分かっていても、私たち医療者は危険な現場にでも飛び込んでいくべきなのでしょうか」とあるスタッフが管理者にこんな質問をした。その管理者は言った「まずは自分自身の安全を確認した上で判断すること。あなたが生きていることで、もっと多くの人が救えることがあるでしょう。安全が確認できないのなら、行くことを私が絶対にひきとめます」。その質問をしたスタッフは災害の現場でひょっとしたら、そういった場面に遭遇したのかもしれない。そう察知した管理者の言葉が助けになったのだろう、にこやかに今日も働いている。もし逆の回答をしていたら...。リーダーシップとは危機的状況で発揮するものだ。


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2007/11/04

11月は児童虐待防止月間です



 昨年に引き続き、今年もオレンジリボン運動の活動に少しでも貢献できるよう、僅かではありますがこのサイトやメルマガの広告や執筆、投資活動などで得られた収益の一部を寄付いたしました。

 2007年11月4日、ネットでいろいろと調べものをしていたら、兵庫県の病院の院内保育士さんが日常的に乳幼児をたたいたり、「メタボ」などのあだ名をつけていた、といった報道を目にしました(「院内保育士、乳幼児たたく...兵庫県立淡路病院」)。医療の現場で起きていたということにショックを感じました。医療や福祉というのは、社会のインフラでもあり、その地域に住む人にとっての安全や安心を保障するものだと私は思っています。保育士の方も何かしらのストレスを抱えていたのだろうとは思われますが、行われた行為は許されるものではありません。児童虐待を防止するためにも、親や保育士さんの心の健康、そして子を育てることを中心とした社会の仕組みのあり方について、もっと考えなければいけないですね。

 オレンジリボン運動が児童虐待防止を核に、その周辺問題について社会が「考える」きっかけとなればいいですね。
 オレンジリボン運動にご関心もたれましたら、この記事に貼付けてありますバナーから公式サイトをご閲覧ください。

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