諒が目を覚ますと、ベッドのライトは点いたままで…まだ朝の5時…
集合時間の10時まではまだ時間があった。
とはいうものの、気づけば自分も麻也もあられもない姿で、
さらには毛布も何もかけていない状態…
(いやいや、風邪をひいたらヤバいじゃん…)
麻也が気持ちよさそうに寝ているのでよかったが…
そして、自分の喉も大丈夫そうなので安心しながら、
急いで麻也に毛布をかけてやった。
そして、自分も右隣のスペースに体を滑り込ませた。
思えば昨夜も麻也は薬を飲んではいない。今日のライブに備えてのことだ。
それでもこれだけ眠っているのだから、自分の技術もかなり貢献しているのか…
(…でも、俺も、任務を完遂したらあっという間に眠っちゃったんだよな…)
でも麻也にその後叩き起こされもせず、
こうして麻也も眠っているところを見ると、
麻也の方もまぁあの一回で満足してくれたのだろう。
(でも麻也さん優しいから、俺を起こすのが嫌だったのかも…)
と、すると、俺の寝顔を見ながらひとりで…とよからぬ想像も浮かんだが、
それどころではないと、少しでも麻也が深く眠れるようにと諒は明かりを消した。
暗い中、少しでも寝ようと諒は目を閉じたが…
嫌なことに気づいた。
(このままじゃいくらなんでもマンネリになっちゃうかな…)
何しろ仕事が忙しい割には、麻也王子の閨でのご奉仕の回数が異常に多くなっている。
さらには絶対に麻也を満足させなければいけないわけで…
確かに麻也を上りつめることができれば、それで充分なわけだけれど…
(…飽きられないようにもっとバリエーションも考えるべきだろうな…)
この忙しいのに…とさすがの諒もやや苦痛に思った。
そして、自分でもびっくりしていた。
麻也とのベッドに少しでも苦痛を感じるなんて…
(…でも、愛されたい王子の麻也さんにも、こんなカラダ優先の状態が、いいわけないし。)
だが…
(…ステージでのラブシーンもやめた方がいいかねえ…)
…新鮮な気持ちを保ってもらうためには、メンバーや身内スタッフに麻也を預けて、自分と一緒にいない時間を作った方がいいかも…
しかし諒はそこでやっぱり恐れていたことを認めざるを得ない。
(…麻也さんが他の人のところへ行ってしまったらどうしよう。たとえそれが快楽のためだけにしても…)
昔のハリウッド俳優の中には麻也のような状態になった奥さんを、
奥さんに憧れていた後輩の俳優に押し付けたなんていう話も聞いたことがある。
さすがに諒はそんなことはしないし、麻也に対してはパートナーとして責任を持とうとは思っているけれど…
(…麻也さんの過去が怖い…)
前のバンドで、今とは比べ物にならないほど小さなライブツアーだったのに、
麻也は群がってくるたくさんの女たちと遊んでいたというし…
そして、もしかすると所属していた会社の社長とも何かあったかもしれないし…
たくさんの人間が動く中で、麻也が隙をついて、あるいは誰かに手引きでもさせたら…
(…オトコという可能性もあるし…)
関係者が連れてきて楽屋にやってくる男性ファンの中にも、メンバーに「恋をしている」と感じる人は多い。
年齢も職業もばらばらで、業界やお水関係だけとは限らない。
スーツをビシっときめたサラリーマンとか、さらに固い仕事らしい人も…
「…まあメンバー全員売約済みですから…ごめんなさい~って感じだよねえ…」
と、メンバーだけの時、話している。
でも、麻也が自分以外の男性に運命を感じてしまったらどうするのだろう。
(でも、でも…)
いくらなんでももう眠らなきゃ、とは思う。でも眠れない。でも眠らなきゃ…
(…あ、恭一さん…)
麻也の過去を知る、麻也の大親友。そして、諒との関係の理解者…
あの人になら何でも言える。尋ねられる。
できるわけもないが、「明日恭一さんに電話する」と、自分に約束してみた。
…少し安心…
でもまだ足りない。諒は思い余って、携帯から恭一にメールした。
ー恭一さん、プライベートでお会いして聞いて欲しいことがあります。オフの日にまた電話します…
…送信ボタンを押したところで、ようやく睡魔が下りてきてくれた…