160605 歌舞伎おはようございます。
「まおまお」で~す。
いつもブログを見ていただきありがとうございます。

今回の書籍の紹介はコレです。

葛西 聖司『僕らの歌舞伎―先取り! 新・花形世代15人に聞く』(淡交社,2016) 1,400円(税別)



この書籍をサクッというと


元NHKアナウンサーの著者が尾上松也さんをはじめとした若手歌舞伎役者15人にインタビューした1冊。
若手役者がどのような稽古をして、役をもらっているかがよく分かります。


目次


まえがき
尾上松也 ―「十年の歳月」を乗り越えて
中村梅枝 ―古風な色香の女形
中村歌昇 ―播磨屋ひとすじの昇り龍
中村萬太郎―着実に階段を上がる若武者
坂東巳之助―古典の力で現代を生きる
中村壱太郎―プリンス&プリンセス・カズ
坂東新悟 ―背を伸ばし、さらに高みへ
尾上右近 ―血が騒ぐ好漢
大谷廣太郎―曾祖父を目指す明石屋の担い手
中村種之助―「初一念」を心に秘めて
中村米吉 ―素顔はおきゃんな姫君
大谷廣松 ―歌舞伎の大きな流れに生きる
中村隼人 ―ハヤブサ万華鏡
中村児太郎―ひたむきに女形の本道を
中村橋之助―国生から橋之助へ
あとがき


歌舞伎役者の若手のインタビュー集


歌舞伎役者を何人ご存じでしょうか?
例えば「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵を演じた二代目中村吉衛門さんや、NHKの大河ドラマの主人公を2回も経験している九代目松本幸四郎さん、ブログなどで人気の十一代目市川海老蔵さんなどがすっと名前が出てくるのではないでしょうか?

当書籍ではそのような超有名な歌舞伎役者ではなく、20代の歌舞伎役者にスポットを当ててインタビューをした1冊です。
10年後、20年後、30年後に読み返すとちょっと面白い「青田刈り」のような内容となっています。

歌舞伎役者の階層


当書籍によると歌舞伎役者にはしっかりとした階層があるといいます。
文化勲章受章者や人間国宝クラスの大看板。
実力の幹部俳優。
個性的な脇役や老練なベテラン。
中堅、花形、若手というような感じ。

その中でも「花形」とは、若さだけでなく、人気、実力が備わった旬の役者を指す言葉。
当書籍に花形として紹介されているのは七代目市川染五郎さん、四代目尾上松綠さん、四代目市川猿之助さん、五代目尾上菊之助さん、十一代目市川海老蔵さん、六代目中村勘九郎さん、二代目中村七之助さんなど。

その次の世代が今回紹介する書籍でインタビューをうけた尾上松也さんなど20代の役者たちとなっています。

歌舞伎役者の役について


実際に歌舞伎を観に行くと、主役以外やメインの脇役以外にちょっとした役というものがあります。
あまり注目をしていなかったのですが、当書籍によるとその役を演じること自体も若手にとってはかなりうれしいようです。

というのもインタビューを受けている若手の家にも関係があります。
ちょうど今月、歌舞伎座では六代目中村勘九郎さんの2人のお子さんが主役の『門出二人桃太郎』という演目が上演中。
このような5歳と3歳の幼児が主役を行えるのは、大きな名跡の直系だからでしょう。

しかし、それ以外の名跡ですとなかなかそのようなチャンスはありません。
もちろんそれだけが理由ではないでしょうが、有名な演目の中では、たとえ端役だったとしても非常に大きなチャンスとなることが分かります。

ある意味、層が厚い歌舞伎役者の中で、チャンスを生かし切ることができなければ、次の役が回ってこないというシビアな現状があります。
そのため全員が本当に端役だったとしても一生懸命演じているのが分かります。
それが舞台を一体化させているのです。

偉大な先人たち


そんな中、若手は幹部俳優からさまざまな教えを受けていきます。
中でも多くの若手俳優から名前が挙がってきたのが、十八代目中村勘三郎さんと十代目坂東三津五郎さんの2人。

この2人はそれぞれに教え方に特徴があるのです。
勘三郎さんは、本番でイマイチだったり、間違ったりしても、「いいんだよ」とフォローし、褒めながら役者を育てていくタイプ。
これに対して三津五郎さんはその人の理解度に合わせて、的確に教えていったといいます。

多くの若手役者がこの2人に対して、本当に恩を感じていることがインタビューから伝わってきます。

この2人については以前に長谷部浩さんの『天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎』という書籍を紹介しましたので、興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか?
若手俳優の証言と符合することがしっかりと書かれています。

歌舞伎役者になるまでの葛藤


大きな名跡の家では、3歳ごろから歌舞伎役者になるための稽古が始まります。
そして、名跡の跡取りとしての自覚を促しながら、自然と歌舞伎役者になっていくような感じでしょうか。

ところが若手役者たちは、それぞれに歌舞伎役者になるということについて、さまざまな葛藤を抱え、それを乗り越えて今に至っています。

先ほど書きました十代目坂東三津五郎さんのご子息である坂東巳之助さんはバンドをずっとやっていたとのこと。
父三津五郎さんとは役者になる、ならない、の日々が続いたそうです。

今までは親が歌舞伎界にいれば、多くの子供は自動的に歌舞伎の道を歩むようになっていると思っていましたので、このような話を知るとかなり意外な感じがしました。

真剣な稽古と壁を乗り越える瞬間


当書籍からは役者としての自覚を持ち、真剣な稽古を子なっていることがよく伝わってきます。

中でも声が出なくなるという役者にとっては、ピンチな状況に何人もの人たちが陥っています。
歌舞伎の場合、マイクなどはついておらず、大きな劇場内に地声でセリフをいっていきます。
そのため、のどをつぶしてしまうことも。

そのような状況の中から、どうすればのどを傷めず、よく通る発声ができるのかなどを学んで壁を乗り越えていく。
それ以外でもひたすら「精進」していることが分かります。


まとめ


当書籍から分かったことは以下のようなことです。
 1.大名跡以外の家では、歌舞伎役者になろうと決めるのが高校生辺りと意外に
  遅い。
 2.どんな役でもそれに対して感謝する謙虚さが伝わってきます。
 3.十八代目中村勘三郎さんと十代目坂東三津五郎さんはやはり偉大な人だった
  ということが分かります。


当書籍を読んだことで、今後の歌舞伎鑑賞で若手の演技にも注目をしようと思いました。
歌舞伎界は本当に層が厚く、だからこそ皆必死で稽古をし、役を得ようとしていることが分かる1冊です。


ランキング評価
読みやすさ  3
情報量    3
情報質    4
価格     3
と言うことで「★★★」です。


次回も見に来てくれると嬉しいです。


励みになるのでポチッと押していただけませんでしょうか?


人気ブログランキング
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ