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最近、読み直しているんですが、とっくの昔にレビューを書いているかと思ったら書いていないようだったので書いてみます。

池澤夏樹さんの文章に初めて触れたのは、代ゼミに通っていた予備校の時でしたね。

それまで、本なんてものを全く読まないタイプの私でしたが、英語の西谷先生という人の講座で配られる超分厚いテキストの中に、エッセイ的に載せられていました。

確か、芥川賞を取った「スティル・ライフ」という作品の冒頭の部分でしたね。

この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。

世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。

きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

たとえば、星を見るとかして。


美しい。まるで、詩の一節であるかのような、深く哲学的な言葉がわかりやすく語られています。

で、この、「南の島のティオ」という作品は、児童向けに書かれた作品なんですね。

題名の通り、南の島に住んでいるティオという少年の周りのアレコレについて描かれているもの。

この作品の舞台は、ミクロネシアの「ポンペイ島」っていうところがモデルにされているそうで、主人公のティオの家は小さなホテルを経営しており、そこにやってくるお客さんや、島の人、海、空、精霊・・・などとの出来事が、なんとも不思議で夢のある感じで書かれています。


子供向けに書かれた作品なので、当然、非常に読みやすい文章であるわけですが、物語の純粋性というか、透明度というか、世界のキラキラした感じがたまらないんですね。

40過ぎたおっさんでも、その世界観の美しさに感動するわけで、現実世界のリアリティの中に、神様とかオバケとか、精霊とか鬼とか天狗とか、キツネの化けたのとかヘビが化けたのとか、そういった架空の世界のアレコレを大幅に普通に組み込んでいられた子供の頃にこの作品を読んだら、私の心にどれだけ素敵な世界をもっともっと大きく広げて、強く持てたのかな・・・、ってことを思ったりします。

児童文学ですが、説教くさいところは全くありません。

冒頭に「スティル・ライフ」の一節の、

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

たとえば、星を見るとかして。

っていう立場そのままで、物語を紡いでくれています。

この作品は、10編の短編によって綴られているので、非常に読みやすいです。

難点があるとしたら、「環礁」とか、「礁湖」とかっていう、珊瑚で出来た島独特の言葉遣いがあったり、「ピックアップ」とかっていう、よっぽど車に詳しい子供でないと知らないような車種の言い回しがあるところくらいですが、

Atafu


こういう写真を見せてあげれば1発で理解出来ると思います。

それ以外には難しい言い回し等はありませんので。


個人的に、「星が透けて見える大きな身体」っていう章とかは最高に大好きで、何度読んでも、その物語の素晴らしさと文章の美しさにやられてしまいます。

大人が読んでも楽しめる心地よい作品です。









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