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防災は最大の予防医療

2016年05月31日(火)

月刊「公論」6月号の連載は、防災について書いた。→ こちら
熊本では21年前の阪神とまったく同じ光景が繰り返されていて悔しい。
何度経験しても政治は学ばないので、一人ひとりが学んで備えるしかない。
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公論6月号    防災は最大の予防医療
       阪神、東北の教訓を熊本にどう活かす  長尾和宏
 
 
21年前の阪神から熊本を想う

 4月14日から熊本県を中心に起きている断続的な地震で被災されている多くの方および犠牲になられた方に心から哀悼の意と表しお見舞いを申し上げます。断続的に続いている余震は、今なお被災者に大きな精神的不安を与えている。21年前、私は市立芦屋病院の勤務医として阪神大震災を経験した。だから今回の倒壊家屋のテレビ映像を少し観るだけでも、当時の暗い記憶がフラッシュバックして涙が溢れてくる。21年が経過してもあの日の記憶はまだ薄れていないことに自分でも驚いている。東日本大震災の被害は津波が中心であったが、熊本の震災は阪神大震災と同様、家屋倒壊型である。加えて余震恐怖型である。

阪神の経験から、現在(4月21日)現在もまだ倒壊家屋の生き埋めになっている人がいるはずである。震災後7日目でも生きて“掘り出された人”が運ばれてきた。マスコミは「48時間が勝負」とそれ以降は生存確率が厳しいとの印象を与えているが、実際は人は飲まず食わずでも7~10日間生きられることを知っておきたい。

直ちに重傷者の救命治療に当たる災害派遣医療チーム(DMAT)など多数の医療チームが続々と現地に入り、超急性期および急性期の医療活動が展開されている。しかしその陰にはまったく報道されていない弱者たちがたくさんいることを阪神の経験から知っている。介護施設や在宅患者さん、特に在宅で人工呼吸器をつけている患者さん、また障害や認知症の人たちの日々の生活が気になって仕方が無い。テレビはどうしても避難所や車内に寝泊まりしている人ばかり映し出す。しかし報道の狭間でまったく光が入らないところでSOSを発信している人がたくさんおられるはずだ。阪神でもそうだったので、東北の時は、敢えて救助の手が入っていない場所を探して被災3県を回ったが、やはりおられた。これは「共震ドクター、阪神そして東北」(ロハスメデイア)で述べた。以下、阪神の経験者としてあまり報道されていない2点を記しておきたい。
 

水を介したピロリー菌感染

 被災地では飲料水が不足しているという。そういえば阪神大震災のあとに被災地で胃潰瘍が増加した。腹痛や下血があり内視鏡検査を行うと胃粘膜が荒れたり胃潰瘍ができていた。プライバシーの無い避難生活によるストレス潰瘍と思っていたが、後にピロリー菌の急性感染による急性胃粘膜障害(AGML)であることが判明した。おそらくポリタンク等に分注された飲料水を介してピロリー菌に集団感染したのであろう。

ピロリー菌がいない人の胃粘膜にピロリー菌が急に入って来た時、あたかもインフルエンザやウイルス性急性肝炎のような激しい急性炎症が起きる。ピロリー菌に対する生体の反応はさまざまで、自然治癒する人もいれば、慢性持続感染に移行する人もいる。今後も災害直後は自衛隊の給水車やポリタンクによる配給が行われる時がある。災害時における飲料水の衛生面には充分に配慮しないといけない。
 

マスクでアスベストを予防

次にテレビ画面や新聞報道を観ていて気が付いたことは、現地でマスクをせずに救援活動に従事している人が多いことである。倒壊家屋の多くは古い建物でアスベスト建材が多量に含まれているはずである。それらが撤去作業中などの際に飛散して吸い込んでしまう可能性が充分ある。阪神大震災が起きた1995年当時、中皮腫という病気の存在はおろかアスベストとの関連はあまり知られていなかった。

アスベスト吸入の怖さはそれを吸入して20~30年後に「中皮腫」という難治性の悪性腫瘍が発生することである。我が地元の尼崎では旧クボタ工場から排出されたアスベストに起因する公害中皮腫が大きな問題になっている。2012年に悪性胸膜中皮腫のため亡くなられた小説家の藤本義一さんも阪神大震災当時、西宮市に住んでいて被災地を回られた。その時に吸い込んだアスベストが20年後に藤本さんの命を奪った、と藤本さんの娘さんである中田有子さんも熊本の映像を観ながら警鐘を鳴らしている。以上の2点は今回のような大きな災害時にはつい忘れがちになるだろうが、どうか覚えていて欲しい。
 
 
被災者が被災者を助ける構図

全国から集まった支援物資が上手く配分できないことを阪神や東北で学んできた。しかし今回も救援物資が末端まで行き届かない。行政の力不足を指摘する声もある。しかし本当にそうだろうか。阪神大震災の時、私は公務員(市民病院の勤務医)であった。被災者でありながらも、自分の家も家族もすべて放り出して連日泊まり込んで溢れ返った被災者のための医療活動に従事した。多くの医師や看護師も同様であったが、「被災者が被災者を助ける構図」には当然限界がある。できるだけ早く外部頭脳を構築することが大切だ。

被災地の物的・人的・社会的支援には練られたノウハウと臨機応変な配慮が必要である。刻々と変化する状況に対応するには強いリーダーシップも要求される。そのためには、いちはやく外部から「頭脳」に相当する救援のプロ集団を自衛隊や警察と並んで投入すべきである。救援情報をできるだけ集約しない限り効率が悪くなるのは当然の帰結だ。つまり国家としてのガバナンスが試されるのが大規模災害である。「想定外」という言葉が繰り返し使われるが、そもそも想定外なのものが「災害」である。500回を超える余震が続き、その震源地が移動している現在、九州全体、そして四国や本州も、いや日本全体が自然災害に対して充分に備えないといけない。「防災は最大の予防医療である。防災で何万の命が救える」ことを阪神や東北の震災で学んできた。今回の熊本地震では、これまでの教訓や防災対策が活かせるかどうかが問われている。国家、自治体、町内会、そして家庭単位で防災体制の再確認を行っておきたい。

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この記事へのコメント

防災は最大の予防医療 ・・・・・・ を読んで


長尾先生は今回のブログで、“熊本では21年前の
阪神とまったく同じ光景が繰り返されていて悔しい!
何度経験しても政治は学ばないので、一人ひとりが
学んで備えるしかない!”・・・・・・と記述されています。

指摘はその通りと思いますが、わたし自身21年前
神戸で大震災を経験していますが、そんな当事者で
ある私にしても、東北の大震災&津波被害も熊本の
大震災も、既に自分の中で風化が進んでいます。

一人ひとりが学んで備えるしかない! ことは正論と
は思いますが、その気持ちを継続的に持つ続けること
はなかなか難しいことと感じています。


今回のブログで長尾先生は重要な指摘を2つ行われ
ています。

1つは、“水を介したピロリー菌感染:今後も災害
直後は自衛隊の給水車やポリタンクによる配給が
行われる時がある。災害時における飲料水の衛生面
には充分に配慮しないといけない!” とありますが、
具体的にどのような配慮が必要なのでしょうか?
給水を受けた水を利用するまえに “一度沸騰させて”
から使う必要があるのでしょうか?

2つ目は “アスベスト(断熱材)被害を避けるため
のマスクの着用!” :ビルの解体作業などで空気中
に浮遊するアスベストを吸い込まないようにマスク
をすることは大変に重要なことと思います。 
併せて、衣服に付着したアスベストを家内(居住空間)
に持ち込まないため、室内に入る前に衣服を払う(ブラ
ッシングする)など、他にもするべきことがあるので
しょうか?

そして、今回のブログでは言及されませんでしたが・・・・・

長尾先生がたびたび指摘されておられる “誤嚥性肺炎”
対策:口腔内を清潔にすること、夜寝る前にしっかり
と歯を磨くこと、口をすすぐことの重要性を、今回も
付け加えて戴ければ良かったと思っています。

せっかく大震災を乗り越えて生き抜いた命を、二次災害
で失うことがないように、日常生活のあれこれを今一度
確認(点検)することが大事と思っています。

このような啓蒙は、何度も何度も繰り返し繰り返し情報
を発信して行くことが必要なのだと思います。

また、定期的に同様の情報発信をして戴きますよう、よろ
しくお願いいたします。

Posted by 小林 文夫 at 2016年05月31日 09:30 | 返信

[水を介したピロリー菌感染]
>おそらくポリタンク等に分注された飲料水を介してピロリー菌に集団感染したのであろう。
**これは供給者側の問題点として、医療的に衛生的に対処して頂きたいと思います。

[マスクでアスベストを予防]
**避難袋の中に防塵マスク必携ですね。

[被災者が被災者を助ける構図]
>被災地の物的・人的・社会的支援には練られたノウハウと臨機応変な配慮が必要である。刻々と変化する状況に対応するには強いリーダーシップも要求される。そのためには、いちはやく外部から「頭脳」に相当する救援のプロ集団を自衛隊や警察と並んで投入すべきである。
**賛成です。社協レベルよりもランクアップした災害時の救援プロを養成し、
システム構築をお願いしたいと思います。

行政からの通達、Newsによりますと、災害時の物資運搬等、流通を伴う作業に関してかと思いますが
物流企業と市町村が、災害時動員のための契約を交わしたと読みました。
市長の行動力と決断によっては、何かしらの対策を行い始めているようです。

Posted by 匿名 at 2016年05月31日 11:58 | 返信

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