従業員が心身の故障等により労務の提供ができなくなったら、会社は、「債務不履行」を理由に、一方的に解約(すなわち解雇)することができる。無論、解雇以外に問題を解決する方法があるのなら、まずそれらの手段を講じるべきであり、そうした解雇回避努力を尽くさない解雇は「権利の濫用」として無効となりうることは覚えておかなければならないが。
ところで、これは私傷病による労務不能の場合であって、それが業務に起因する傷病による場合は、話が違ってくる。労務不能の原因を作った当事者たる会社からの一方的な解約は許されないからだ。これに関し、労働基準法第19条は「療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない」と、解雇制限を設けている。
ここで注意を要するのは、「療養のために」という部分だ。逆に言えば、傷病が治癒した場合は当然として、症状固定(現代の医療水準に従って治療をしてもこれ以上は改善しないという状態)に到った場合も、30日を経過すれば解雇制限が解除されることになる。
例えば、創傷面が完全に塞がって、しびれ等の神経症状のみ残しているようなケースで、医師からペインクリニックへの移行を指示されることがある。本人にしてみれば「お医者さんに行って注射してもらう」という行為はそれまでと変わらないとしても、それが“治療”として行われなくなったのなら、解雇の対象となってしまうのだ。もし会社が当該従業員を解雇すると決めたなら、人事担当者としては、本人がこれを認識できていない可能性もあることを踏まえて、丁寧に説明する必要があるだろう。
ちなみに、「療養開始後3年を経過した場合に打切補償を支払って解雇できる」とする労働基準法第81条は、労災保険を使った事案には適用されないこととされている。これについては賛否両論あり、最高裁上告中の係争事案があるので、判決の行方を注視していきたい。
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