語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】臨床で有効なコフート心理学 ~『悪魔の勉強術』~

2018年09月22日 | ●佐藤優
 <そもそもキリスト教は、博愛主義ではありません。「あなたの隣人をあなた自身と同じように愛せ」、これを博愛主義とするのは、間違った解釈です。自己愛のない人は、他人を愛することはできません。
 自己愛をマネジメントできない人との付き合いを考える上で、われわれキリスト教徒は心理学の方向にも目を広げて行かないといけません。日本国内だと、関東では元々フロイト学派の影響が強く、このフロイトから派生したラカンも次第に影響力を増しています。ただフロイト学派の精神科医が臨床の現場に出ると、いろいろ言っても最後は「ちゃんと薬を飲んでくださいね」と投薬に委ねることになってしまう。基本的には脳内の分泌から出てくる問題だという結論だから、いかに薬を飲ませるかが問題で、カウンセリング療法とかはほとんど信用していないのですね。
 現在の心理学の実践の現場では、ハインツ・コフートの自己愛心理学がよく使われています。一昔前はユング、少し下って1980年代のポストモダン以降にはラカンの流行がありましたが、今や心理学の臨床の現場ではコフートの役割が非常に大きくなっている。それは時代との相性もあるのでしょうが、コフート心理学の特徴をひとことで言えば、「自己愛を肯定的に評価する」ということになります。そこでは自己愛のマネジメントがものすごく重要になるわけです。
 日本へのラカンの紹介者として、ポストモダン思想の中心的な役割を果たした斎藤環さんという精神科医とこの前話したときに、「いまや臨床現場ではコフートしか、使えないですよ」と言われてびっくりしたんです。
「先生はラカニアンじゃないんですか」と聞いたら、「いや、それは学術的な発言であって、臨床においては全然ラカンなんか使えないですよ」として、こう言葉を継いだのが印象的でした。
「人間が千年生きているんだったら、ラカンでもなんとかなるかもしれないけれど、人間の寿命が百年程度だったら、フロイトやラカンが言っているような自己愛の解体なんかできません。だから、コフートのように自己愛を認めるところからスタートしないといけない」
 この発言は人間の抱える宿命を孕んでいる大事な指摘ですね。人類は、やはりこの世での救済を求めているのです。>

□佐藤優『悪魔の勉強術 年収一千万稼ぐ大人になるために』(文春文庫、2017)の第1講の「*自己愛を分析する武器としての神学」から引用

 

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