<同志社大学の神学部に木谷佳楠(きたにかなん)さんという助教がいます。佳楠という名前はむろん「カナンの地」から来ているから、少なくとも親の代からのキリスト教徒ですね。余計なことだけど、熱心なクリスチャンの娘や息子がかわいそうなのは、ついこういうキラキラネームをつけられちゃうことなんだ。某々イサクとか、何々ダビデとかね。それはともかく、率直に言って、彼女は同志社の神学部で20年に1人ぐらいの逸材です。
アメリカのキリスト教の研究をしているのですが、「一言で言うと、ろくでもないものだ」と。そんな結論の研究です(会場笑)。彼女の博士論文は優れていたので、『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』(キリスト新聞社)という単行本になっています。要するに、日本人はアメリカ映画をいろいろいと受容してきたけれども、原材料をちゃんと見ているのかと。原材料はキリスト教、それも非常に特殊なキリスト教なんだと。2050年までにこの世の終わりがあると信じているアメリカ人がどれぐらいいるか、彼女は統計を持ってきて、40%もいるんだと。そういう連中が受け入れているキリスト教がベースになってアメリカ映画は出来ているんだということを、いろんな映画の実例を挙げて論証していきます。
例えば9・11が起きた後、アメリカ映画では世界破滅ものが増えたわけ。隕石によって破滅するとか、エイリアンによっって破滅するとか、あるいは地球が自転をやめることによって破滅するとか。木谷先生はそれ以前からあった破滅ものなども含めて、その手の映画のリストを挙げていって、アメリカにおける極めて特殊なキリスト教的な概念や、ユダヤ教とキリスト教との関係を詳しく分析しています。
もともと映画って、どうして始まったと思う? 僕は木谷先生の本で初めて知ったんだけど、牧師が始めたんだね。要するに教会でキリスト教の信仰を広め、信者を増やし、信者をより熱心な信者にしていくために、牧師が活動写真を作り始めた。だから映画はキリスト教から始まっているわけです。ところが、そのうちにいくつもの映画スタジオが力を持ち始めて、ハリウッドを映画の都にしていくんだけど、ハリウッドはユダヤ人の拠点でした。
そのため、なんでキリストを殺したユダヤ人がキリストの生涯の映画を作って金儲けしているんだよ、とそんな文句が出始めるようになった。確かに、キリストの物語、聖書の物語は、映画初期からずっと作られ続けてきました。そういう批判もあり、映画会社は生き残るため、自発的に検閲を受け入れるようになります。映画の上では立派な人だけども、実際の俳優たちや作り手たちが麻薬とか殺人とかいったスキャンダラスな事件に巻き込まれる中で、教会からの攻撃をかわすために、いろんな自主検閲をするようになった。
木谷先生の本の中で、1932年と35年のターザン映画のスチール写真を並べていましたが、ジェーン役の女優の肌の露出度は32年の方が高いわけ。ビキニだったのが、35年になると服を着ている(会場笑)。規制がどんどん厳しくなっていったんですね。
さらに、戦後になると東西冷戦とか、いろんな世界情勢やアメリカの国内情勢に、映画界は積極的に関わっていく。そのあたりを説いた本で、神学的にもよくできているし、映画に興味のある人は必ず読んだ方がいい。要するに、映画には<キリスト教のアメリカ型土着>が見られるという主張なんです。そして、クリスチャン・シオニズムも、キリスト教のアメリカ型土着の一つです。>
□佐藤優『ゼロからわかる「世界の読み方」 ~プーチン・トランプ・金正恩~』(新潮社、2017)の「第2部 ゼロからわかる「トランプ後」の世界」の「1 新帝国主義とトランプ --あるいはクリスチャン・シオニズムと黄禍論」から引用
【参考】
「【佐藤優】オランダが『アンネの日記』を必要とした理由 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~」
「【佐藤優】オシントというインテリジェンスの手法 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~」
「【佐藤優】聖書の翻訳 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~」
アメリカのキリスト教の研究をしているのですが、「一言で言うと、ろくでもないものだ」と。そんな結論の研究です(会場笑)。彼女の博士論文は優れていたので、『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』(キリスト新聞社)という単行本になっています。要するに、日本人はアメリカ映画をいろいろいと受容してきたけれども、原材料をちゃんと見ているのかと。原材料はキリスト教、それも非常に特殊なキリスト教なんだと。2050年までにこの世の終わりがあると信じているアメリカ人がどれぐらいいるか、彼女は統計を持ってきて、40%もいるんだと。そういう連中が受け入れているキリスト教がベースになってアメリカ映画は出来ているんだということを、いろんな映画の実例を挙げて論証していきます。
例えば9・11が起きた後、アメリカ映画では世界破滅ものが増えたわけ。隕石によって破滅するとか、エイリアンによっって破滅するとか、あるいは地球が自転をやめることによって破滅するとか。木谷先生はそれ以前からあった破滅ものなども含めて、その手の映画のリストを挙げていって、アメリカにおける極めて特殊なキリスト教的な概念や、ユダヤ教とキリスト教との関係を詳しく分析しています。
もともと映画って、どうして始まったと思う? 僕は木谷先生の本で初めて知ったんだけど、牧師が始めたんだね。要するに教会でキリスト教の信仰を広め、信者を増やし、信者をより熱心な信者にしていくために、牧師が活動写真を作り始めた。だから映画はキリスト教から始まっているわけです。ところが、そのうちにいくつもの映画スタジオが力を持ち始めて、ハリウッドを映画の都にしていくんだけど、ハリウッドはユダヤ人の拠点でした。
そのため、なんでキリストを殺したユダヤ人がキリストの生涯の映画を作って金儲けしているんだよ、とそんな文句が出始めるようになった。確かに、キリストの物語、聖書の物語は、映画初期からずっと作られ続けてきました。そういう批判もあり、映画会社は生き残るため、自発的に検閲を受け入れるようになります。映画の上では立派な人だけども、実際の俳優たちや作り手たちが麻薬とか殺人とかいったスキャンダラスな事件に巻き込まれる中で、教会からの攻撃をかわすために、いろんな自主検閲をするようになった。
木谷先生の本の中で、1932年と35年のターザン映画のスチール写真を並べていましたが、ジェーン役の女優の肌の露出度は32年の方が高いわけ。ビキニだったのが、35年になると服を着ている(会場笑)。規制がどんどん厳しくなっていったんですね。
さらに、戦後になると東西冷戦とか、いろんな世界情勢やアメリカの国内情勢に、映画界は積極的に関わっていく。そのあたりを説いた本で、神学的にもよくできているし、映画に興味のある人は必ず読んだ方がいい。要するに、映画には<キリスト教のアメリカ型土着>が見られるという主張なんです。そして、クリスチャン・シオニズムも、キリスト教のアメリカ型土着の一つです。>
□佐藤優『ゼロからわかる「世界の読み方」 ~プーチン・トランプ・金正恩~』(新潮社、2017)の「第2部 ゼロからわかる「トランプ後」の世界」の「1 新帝国主義とトランプ --あるいはクリスチャン・シオニズムと黄禍論」から引用
【参考】
「【佐藤優】オランダが『アンネの日記』を必要とした理由 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~」
「【佐藤優】オシントというインテリジェンスの手法 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~」
「【佐藤優】聖書の翻訳 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~」