語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~

2017年08月01日 | 批評・思想
★古賀茂明『日本中枢の狂謀』(講談社、2017 1,700円)
 
 (1)第2次安倍政権の発足以来、政権もひどかったが、報道もひどかった。官邸が圧力をかけたのか、メディアの自主規制だったのか。
 そんな中、ひとり権力と闘っていえるように見えたのが古賀茂明だった。コメンテーターとして出演していた報道ステーションで「I am not ABE」のパネルを掲げたことを記憶している方も多いだろう。その姿は、巨大な風車に立ち向かうドン・キホーテのようにさえ見えた。

 (2)その古賀茂明による『日本中枢の狂謀』は、激越な安倍政権批判、ひいてはメディア批判の書である。政権とメディアが一体となって国民を欺く。その構造を古賀は「狂謀」と呼ぶ。「狂気」としかいえない安倍首相の野望と、そのための「策謀」。
 安倍政権がいかに人命を軽んじているかを示す例としてあげるのは、2015年に発覚した「イスラム国(IS)」の法人事件だ。
 1月20日、後藤健二さんと湯川遙菜(はるな)さんがISに捕らわれた映像が公開された。中東歴訪中だった安倍首相は、「イスラム国と闘う周辺各国に2億ドルの支援を行う」と語り、テレビのキャスターたちは「安倍総理がテロと戦っているときに政府批判をするのはテロリストを利することになります」などと叫んで、政府批判を封殺した。
 なぜ安倍首相は事件の最中に米国の盟友とされる国ばかりを訪ね、ISとの交渉を回避し、人質を見殺しにしたのか。
 <「日本はアメリカと一緒になって中東と戦争をする国になった」というイメージを覆したかった。そのためには「日本人は安倍総理とは違う」ということを世界中に発信する必要があると思った>
 かくして古賀は、問題のパネルを掲げる。報道ステーションの降板はすでに決まっていた。番組を支えていたチーフプロデューサーらの事実上の更迭も決まっていた、という。
 安倍首相の付加書きな言動は、
 <日本が世界の列強の仲間入りすることを目指している>
からだという。人質の命を代償にしてでも「テロに屈せず闘う安倍」をアピールするのは、米国に評価されたい、ひいては軍事力を背景に国際社会で影響力を持つ国になりたいからだ、と。

 (3)読みながら、ここ数年の出来事を思い出すだろう。
 2014年の解散総選挙と集団的自衛権をめぐる欺瞞。
 福島第一原発から流れ出る汚染水と、にもかかわらず原発が再稼働され、原子力ムラが復活している現実。
 メディアもしかりだ。
 ジャーナリストである前に会社員の立場を優先する記者たち。
 報道を骨抜きにする記者クラブ制度。
 テレビ局と新聞社の利権。
 あとは、ふがいない野党でしょ。保身に走る官僚でしょ。こっちはこっちで別の利権にしまみついている連合でしょ。
 いちいち溜飲が下がる真っ当な指摘だが、溜飲を下げている場合ではない。批判の矛先は、独自の候補者を立てられない市民運動や、忘れっぽい有権者にも向けられているからだ。
 冷笑的な気分に喝を入れる、警告と啓発に満ちた本だ。

□斎藤美奈子(文芸評論家)「冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本」(週刊金曜日 2017年7月28日号)
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