語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【NHK】「クローズアップ現代」事件 ~メディア・スキャンダル~

2014年08月19日 | 社会
 7月3日、日習近平・中国国家主席が北朝鮮訪問に先立って韓国を訪問し、朴槿恵・韓国大統領と首脳会談した。
 翌日、習国家主席はソウル大学で講演。「中韓両国の人々は戦争の中で、塗炭の苦しみをなめ、国土を破壊され、生死を共にし、助け合った」と日本を批判した。
 これに対して、4日の「ニュースウォッチ9」の冒頭で、大越キャスターは、「日本への厳しい批判はもはや驚くに値しないのかもしれません」と切り出した。
 なぜ、ニュース・キャスターが官房長官のようなコメントを述べたのか?

 後で分かったことだが、どうやら前日(7月3日)、官房長官が出演した「クローズアップ現代」で何かがあったようなのだ。
 「フライデー」(7月11日発売)に、<「クローズアップ現代」で集団的自衛権について突っ込まれた管官房長官側が激怒--安部官邸がNHKを“土下座”させた一部始終>という見出しの記事が掲載された。
 くだんの「クローズアップ現代」では、閣議決定までの経緯を手際よく説明した後、国谷裕子・キャスターと政治部記者が管官房長官に質問をしたのだが、特に目新しい内容も、不始末も見当たらなかった。
 しかし、「フライデー」記事によれば、官房長官側は、予想外に鋭い突っ込みに遭って怒ったらしい。NHK広報はこのような事実はないと否定している・・・・と同誌は伝える。
 どんな質問があったのか?
   「他国を守るための戦争には参加しないのか?」(この場面で国谷キャスターが念を押すと管は「明言します」と答えた) 
   「日米安保条約では抑止力は不足ということか?」
   「国際的な状況が変わったということで憲法解釈を変えていいのかという声もあるが?」
   「密接な関係がある国はその時々の政権が決めるのか?」
   「密接な他国の強力な支援要請を断りきれるのか?」(国谷キャスターは「断りきれる?」と念を押し、管は「もちろん」と応じた)
   「アメリカと一体化すると、アメリカの敵対地域で日本が独自の活動ができなくなるのではないか?」
   「第三国を攻撃することになると、先制攻撃と受け止められる危険性はないか?」
   「解釈変更に対する違和感や不安をどう払拭していくのか?」
 以上が質問のすべてだ。管は懸念のすべてを否定した。が、カメラは管の顔つきが番組の進行につれて、どんどん険しくなっていくのを記録していた。
 キャスターの「念押し」が煩いとでも思ったのか? それが嫌なら公人を辞めるしかない。
 そんなことより、この対談の間、管が「どこの国といえども、一国だけで平和を守れる時代ではなくなってきた」という意味の答えを4回も繰り返したことのほうが問題だ。これは武力行使を否定する国連憲章が掲げる平和主義の精神であり、むしろ集団的自衛権の行使を抑制する文言だ。管は、「安全保障環境の変化」「時代の変化」を呪文のように繰り返せばなんでも通るという「時代錯誤」に、そろそろ気づくべきだ。

 この後のNHKの報道ぶりは、
  ・7月13日のNHKスペシャル「集団的自衛権行使容認は何をもたらすか」・・・・無内容、かつ、「クローズアップ現代」に批判的な政治部がイニシアティブをとったために、いかにも政権への「詫び状」のように見えた。
  ・「クローズアップ現代」で準備中だった「特定秘密保護法」に関する番組が放送予定から消えてしまった。

 7月17日の「ニュースウォッチ9」で、大越キャスターが、「在日コリアン1世の方たちというのは、職を求めて移り住んできた人たちで・・・・」云々とコメントした。
 これに対し、22日の経営委員会で、百田尚樹・委員が「日韓併合直後から強制連行があったように受け取られかねない」と発言した【7月26日付け共同配信記事】。
 こうしたメディア・スキャンダルが跡を絶たないのはなぜか?
 つまるところ、NHK危機の深刻さは、メディアに手を突っ込む「快楽」を覚えてしまった総理大臣の衝動が、メディア構成員たちを自発的隷従に導き、それがやがて視聴者にまで浸透していくという道筋が着実につくられているのではないか。
 しかし、他方、NHKに対する批判の声は、日に日に高まっている。これは、安倍内閣の支持率低下と、何か関係があるのだろうか?

□神保太郎「メディア批評 第81回」(「世界」2014年9月号)の「(1)NHKが危ない!」
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 【参考】
【NHK】が権力に隷従 ~「ニュースウォッチ9」~
【NHK】が危ない! ~組織に漂う負の雰囲気~

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