ガンダム00放映当時から、ソレスタルビーイングのやろうとしていることが『沈黙の艦隊』に似ているという話はネット上で散見されていた。『沈黙の艦隊』とは、かわぐちかいじ氏作の漫画で、潜水艦を題材に核戦争や世界の政治情勢に問題提起して一時期話題になった作品だ。1990年代の連載当時から読んでいて、個人的には絵柄も含めて結構好きなコミックス。

それを先日久々に最初から通して読み直して、改めて「今さら」だが00と沈黙の艦隊の類似点などを書いてみたくなった。沈黙の艦隊は単行本にして全32巻もあるので、その詳細をここで説明し切れないが、興味がある方は実際に読んで見るか、ウィキベディア等で概要を読んでみていただければと。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

まず沈黙の艦隊は、日米が極秘裏に共同開発した最新鋭原子力潜水艦「シーバット」を中心に展開するストーリーになっている。シーバットは、その建造そのものが物語の(劇中の事件の)発端となっている存在である。シーバットはある種の非合法的なグレーさを抱えた存在でもある。というのも、本来非核三原則で核兵器保有をしないと公約している日本が、米国との共同とは言え核魚雷を撃てる原潜を建造し、その乗組員も自衛官(つまり日本人)を選ぶというプロジェクトだからだ。

これは即ち、建前上は米軍を隠れ蓑にしつつ、実質的に日本が原潜を保有しようという日米両政府の非公式な目論見なのだ。当然、非核三原則の手前、この件は国民はおろか議会の承認も得ているはずがなく、全ては裏で行われていることである。主旨としては別に地球制服などのあからさまな悪事を企んでのものではなく、日米安全保障等も含めた新たな国際戦略の一環なのだろうが、この事がその後の大きな問題へと発展していくわけである。

このシーバットの乗組員として選ばれたのが、海上自衛隊所属の潜水艦「やまなみ」の全乗組員で、「やまなみ」の艦長である海江田四郎がこの物語の主人公である。シーバットの存在自体が極秘の存在である為、シーバットの乗組員自体も搭乗にあたって極秘の存在でなければならない。シーバットは日本の原潜としては名目上存在しないことになっており、日本人の乗組員も本来存在してはならない。

その為、「やまなみ」の乗組員はシーバットに乗組む前に、存在自体を抹消する偽装工作を命じられる。「やまなみ」は、日本近海を航行するロシア原潜と作為的に衝突事故を起こし沈没する。その際、乗組員は全員脱出しているのだが、報道等の公式発表で全員死亡という扱いになる。これにより海江田以下76名の乗組員は、この世に存在しないはずの、極秘の身分になったわけだ。極秘の任務を遂行する為に、家族にも同僚の自衛官仲間達からも、実情を知られていない存在になった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

00におけるソレスタルビーイング(CB)においても、そのメンバーには似たような構造がある。CBは世界に先んじたテクノロジーを保有しているが、それを支えてきた科学者や技術者は、絹江・クロスロードらが調査したように、どうやら過去に行方不明になった各分野の権威達だったと思われる。それがCBエージェントによる拉致的なものなのか、それとも自らCBの理念に賛同し家族や社会的立場を捨ててまでCBに合流したのかはわからない(多分後者だとは思うが)。しかし、極秘の使命を帯びて活動する為に、死亡ないし失踪扱いで世の中から存在を消したという点では、「やまなみ」の乗組員達との共通点がある。

ただ、海江田以下シーバットの乗組員となることを受け入れた者達は、日米の思惑のまま忠実に命令に従うだけの兵卒ではなかった。ただの自衛官としての任務だけで家族すら捨てたわけじゃない。彼らには彼らなりの心に秘めた使命感と目的があった。

世界屈指の高性能を誇る艦にして、非公式ながら日本初の原子力潜水艦でありながら、華やかな進水式すら行えないシーバットは、まずは米海軍所属扱いで、試験航海に臨む。しかし、その最中海江田達は反乱を起こし、米軍の指揮下を独自判断で離れる。シーバットは海江田を国家元首とし、乗組員を国民として戦闘国家「やまと」と名乗り、日本からもアメリカからも独立すると宣言。米海軍は当然それを素直に認めるはずもなく、シーバットを脱走艦として処理しようとする。しかし、「やまと」はその高性能と海江田の巧みな操艦と戦術により米海軍を翻弄。その後米国ならず、ロシア海軍原潜も交えて数々の追撃を受けるも、全て退けて存在し続けた。

世界最高クラスの性能を持つシーバットと、潜水艦艦長としての海江田の戦術と手腕は、単艦で世界の軍と渡り合えるポテンシャルを世界に示したわけだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

シーバットは、00におけるガンダムほど圧倒的な高性能というわけではない。CBほど飛び抜けて世界に先んじた先進テクノロジーが、日米にあるわけじゃないからだ。だが、それでも米軍の豊富な原潜運用ノウハウに、日本の各種テクノロジーと世界有数の造船技術を組合わせた、世界最高クラスの性能を持つ軍用潜水艦であるのは間違いない。

シーバットは外殻に強靭なチタン合金と無反響タイルを採用し、最大潜行深度は1250m、エンジン出力はスペック上6万馬力(実測値8万馬力らしい)、水中航行最高速度は実質50ノット超を誇る。魚雷発射管は8門備えられ、対戦攻撃用Mk48魚雷とハープーンを射出可能。それぞれ通常弾頭と核弾頭どちらにも対応。エンジンやスクリューは敵から発見されにくいよう静穏性にも配慮された設計になっている。

これらは、一つ一つは世界に類を見ない唯一無二の高性能というほどではない。しかし、それら世界最高水準の性能がシーバットには一通り全て揃っており、日米の最新技術の粋を集め、日本側の出資だけでも32億ドル(当時のドルレートだと相当な巨費)を投じられて完成度の高い艦に仕上がっている。それ故物語中で、シーバットに太刀打ち出来る高性能艦は世界でも僅かな数しか存在しない。その意味では、シーバットは00における4機のガンダム同様に、少数ながら強力な戦闘力を持つ特異な存在だと言える。

いまだ一つになれない世界に対して、楔を打ち込む存在になる為に。最新鋭原潜シーバットを有する独立戦闘国家「やまと」が、その高い戦闘力で世界に変革を誘発する…という、00のオープニングナレーション的な展開を見せるのが、「沈黙の艦隊」という物語だ。