高野京介『ロックマン』感想&レビュー【俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい】 | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。




●俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい

元うみのて(とかげ日記読者にはおなじみ)、現在はゲスバンドとSuiseiNoboAzのギタリスト高野京介の6曲入りデビューアルバムのレビュー。

このアルバムは、音源が配信されておらず、CDの形態のみの発売だが、そのCDもSold Outとなっている。(なぜか岡山市の「ながいひる」という古書店で店舗販売用在庫が2枚だけあるようだが)。タイトル曲の「ロックマン」は配信とYouTubeで聴けるので、聴いてみて気になった方はCDの在庫復活かサブスク配信を待っていてほしい。


👆アルバム『ロックマン』試聴トレーラー

小沢健二の歌に以下の歌詞のポエトリーリーディングがあるが、高野さんもまさに詩人!(シェルターとはライブハウス「下北沢シェルター」のことだろう。ミュージシャンも詩人なのだ。)

下北沢珉亭 ご飯が炊かれ 麺が茹でられる永遠
シェルター 出番を待つ若い詩人たちが
リハーサル終えて出てくる

小沢健二「アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)」


うみのて笹口騒音さんの天衣無縫で、かつ洗練された手つきの歌詞ではなく、高野さんの書く歌詞はもっと凸凹した歌詞だ。だが、逆にそれが生々しいリアリティを帯びている。編集はしているだろうがフラット気味に聴こえる歌唱とあわせ、ごろっとした生野菜を食べている気分だ。生々しいからこそ高野さんのフィーリングが痛いほどに伝わってくる。

では、一曲ずつ見ていこう。

一曲目「motion」でフェイドインしてくる始めからX JAPAN並みに壮麗なサウンド。後半は女性のポエトリーリーディングがそこに乗るが、リリカルな聴き心地に安堵する。これから何が始まるのだろうと期待させる理想的な導入部の一曲目だ。(音源の一曲目で女声のポエトリーリーディングが披露されるのは、夜に駆ける【バンド名】の「白昼夢」を個人的に思い起こさせた。)

#2「バンドをやめる日」。このギターの気だるい響きと感傷は、きのこ帝国のアルバム『渦になる』を僕に想起させた。一曲目がおそらく高野さんと関わり深いライブハウス「新宿motion」がタイトルの由来であり、最後の曲「朝が嫌」も多くのバンドマンの生息地「阿佐ヶ谷」が元ネタだと思われるので、この曲「バンドをやめる日」も(というかこのアルバムのどの曲も)、高野さんの私小説的な要素がある。「いつまで無職でいるの」「どうして東京来たの」という歌詞がリアル。そして、歌詞がない箇所でギターに熱く語らせるのも私小説的だ。

#3「1997」。イントロから艶やかで凛とした鍵盤の音に耳を奪われる。ピアノが演出するこのロマンティシズムはゲーム音楽由来か。筆者の僕もそうだが、1997年は高野さんの青春時代(厨二病時代)だろう。「X GLAY LUNA SEA 黒夢 ラルク」という、バンド名の固有名詞が羅列される歌詞が高野さんの青春時代、またの名のヴィジュアル系全盛時代へリスナーを連れ込んでいく。

#4「I Love You」。かつて、この曲名で「僕は君を振る」という歌詞の曲が存在しただろうか? この屈託こそ、高野さんの神髄。

LUNKHEADの名曲「月と手のひら」の歌詞で「いつか君のその手は/違う誰かを幸せにする」というラインがあるが、相手の幸せを願って別れるという行為の尊さに泣けてくる。

リード曲の#5「ロックマン」。歌詞に登場する「ときメモ」、「ドラクエ」、「ファイナルファンタジー」、そして曲名の「ロックマン」。ゲーム好きの自己ゆえのロックソング(存在証明)を鳴らす。痛切なシャウトに胸を焦がす名曲。

音楽リスナー歴も浅くない身(耳)として、心に伝えようとする音楽はすぐに分かる。この音楽は心に伝えようとしている。たとえ、このコード進行がくるりのパクリでも。自分の伝えたいフィーリングは、自作他作問わず自分がお気に入りのコード進行の時に乗りやすい。



ラストの曲#6「朝が嫌」 。歌謡曲的な臭みがあるが、ノスタルジックな歌メロや間奏の女声コーラスはジブリの往年の名曲のような求心力があって心地よい。歌詞カードから飛び越えてくるような絶唱は僕の心の壁を何層も突き破ってきた。ギター演奏についても悪目立ちに技巧を見せつけようとせず、ストレートに気持ちを伝えようとする演奏がかっこいい。

本作でギタリストとしてサポートしている「壊れかけのテープレコーダーズ」の小森清貴さんにはMCや演奏のたたずまいからまっすぐな誠実さを感じる。高野京介さんも誠実だと思うが、小森さんとは違う誠実さだ。もっと俗っぽく不潔で、だけど高貴で優しい、そんなカオスな誠実さの魅力が高野さんの音楽と姿勢にはある。

うみのての「SAYONARA BABY BLUE」のMVにおいて、主人公の女性が入水自殺を遂げる描写(多分そう)があるが、それとは対照的に、フライヤーで同じく海辺に立つ高野さんはこれからも「生きる」ことを辞めないだろう。不潔な魂だって生きていてよいのだ。その生き方は最高にロックであり、その生き方を貫く高野さんは最高の「ロックマン」なのだ。

いつか出るだろう二作目が楽しみだ。



Score 9.4/10.0
↑現時点において2024年最高スコア。

💫関連記事💫こちらの記事も読まれたい❣️💁
【面白ライブレポ】高野京介と1997年「ロックマン」レコ発ワンマン@渋谷ラママ🎮🪨
👆高野京介さんの伝説のワンマンライブの追体験はいかがですか!?

ポエトリーリーディングの名曲7選を聴いてくれ✒️🌙
👆高野京介さんの所属するSuiseiNoboAz(ボアズ)の曲の紹介も! このブログ『とかげ日記』で一番の人気記事。

うみのて『IN RAINBOW TOKYO』感想&レビュー(2013年)🌊🌈
👆高野さんが過去に在籍していたバンド「うみのて」の傑作についてのレビューです。