日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(19-3)

2024年05月08日 02時37分47秒 | Weblog

 理恵子は、野芝に仰向けに寝転んで腕枕をし、青空にポッカリと浮いている小さな淡い白雲が遠くの峰にゆっくりと流れて行くのを、ぼんやりと眺めながら、横に並んでいる織田君の顔をチラット見たあと、かい間見る野球の練習に夢中に励んでいる織田君の姿を思いだしながらも、体調のせいか少しけだるく感じ、眠気に誘われウトウトとして目を閉じていたところ、顔の上に汗臭く重苦しい黒い影を感じ、異変を察知した瞬間避ける間もなく、唇と唇が軽くふれれたあと、頬に暑い息吹きを感じた。
 彼女は一瞬、全身が金縛りにあったように硬直して、静電気が身体中を走りぬけたようで、何も抵抗できずに、なすがままに流れに任せ、彼の顔が離れたあと静かに目を開いたところ、彼が何も言わずに脇に寝転んだので、理恵子は彼の横顔を見つめて
  「どうしたの? わたし、こんなこと、生まれて初めてのことなので、なにがなんだかさっぱり判らないわ・・。もう二度としないでね」
と、少し涙ぐんで囁いたところ、彼は落ち着いた声で
  「僕もはじめてだが、無意識に触れてしまったんだ。理由なんて自分でもよくわからないよ」
  「強いて言へば、弁解になるかもしれないが、さっきの話、僕の言い方が悪くて、理恵が機嫌を壊してしまったのかなぁと思い、それに寂しそうな顔をしていたので、可愛想そなことをしたと思い、ちょっと顔をの覗きこんだけだよ」
と、思うままに答えた。

 理恵子は、彼の胸もとに自分の顔を寄せてYシャツのボタンをいじりながら
  「織田君 やっぱり わたしのこと、少しは好きなの?」
  「わたしは いままで織田君のことを、勉強を教えてくれる優しいお兄さんと単純に思っていたが、今の瞬間、わたしの胸の奥深いところで、織田君のことが好きなんだと、はっきりと気ずいたわ」
  「このようなことをするなんて、わたし達には、いけないことなのかしら?」
と、独り言の様に呟くと、彼は少し間をおいて、彼女の髪の毛をいじりながら
 「そんなことは、無いと思うが・・。僕も 理恵ちゃんは好きだよ」
 「ただし、人使いの激しいことを除けばね」
と、笑いながら答えたので、理恵子は気分を取り戻し
 「そうかなぁ わたし、親しみをこめているつもりなんだけどな~」
 「織田君も、内心は、わたしに頼まれたときは嬉しそうな表情をするじゃない?」
と言い返すと、彼は
 「チエツ! すぐそうなんだから」
と苦笑いし、続けて
 「お互いに、今から脳を患うわことのない様に、もっと大人になってから考えよう」
 「大体、僕は、君が寂しい顔をしたから、君の心を傷つけたと思って、シマッタと思い無意識にして仕舞ったが、気にしないで欲しいなぁ」
と、さりげなく話をそらし、続けて
 「君は僕のどこが好きなんだい」
と言ったので、彼女は
 「何処が好きと急に言はれても答えらないないゎ」 「スキナモンハ スキナンダカラ・・」
と言って、彼の胸の上に顔を埋めて仕舞った。
 織田君は少しとまどって
 「君は大人らしいことを言ったかと思うと、急に子供らしい態度を取り、益々、君の精神的発育状態が判らなくなったわ」
と言って、彼女の背中をさすっていた。

 理恵子は、織田君に手をとられて、二人で立ち上がると、そろって深呼吸をして、自転車のある方に彼の後ろについて歩き出した。
 歩きながら、理恵子は自分の人生がまた一歩前進したような気分になり、肩幅の広い彼の後ろ姿が今までとは違い頼もしく見えた。
 それと同時に、この様なことを節子母さんに、内緒にしておくべきか、或いは素直に話をした方がよいのか、複雑な気持ちになった。
 普段、優しく自分の生活の面倒を見てくれる節子母さんに、隠し立てすることは罪悪感とまでは行かないものの、後ろめたさがあり、さりとて高校生が自然の成り行きとはいえ、恥ずかしいことをした様な気もして、心に不安と迷いを覚えた。

 先に歩く彼の背を枯れた小枝で突っき、彼はどのように考えているのか聞いてみたくなり声をかけたら、彼は後を振り返り、タンポポの花を一本採りニコット笑いながら悪戯っぽく理恵子の面前で廻しながら
  「そんなこと 自分で考えればいいさ」「僕は 将来にわたり、絶対に人に言ってもらいたくないな」
  「二人だけの青春時代の小さい秘密として、胸に仕舞いこんでおいた方が良いと思うがなぁ」
  「僕達の将来のことは神様も判らないと思うが、別々に人生を歩んでも、きっと、楽しい思い出になるかも知れないと思うよ」
と答えたので、理恵子も彼の言う通りに、自分の胸にしまつておくことにした。 
 それに、今後も、時々、訪ねてきて勉強を教えてもらいたいし、彼が来ずらいことになっても困るし、節子母さんにも余計な心配をかけたくもないと思った。

 天国を旅している亡き母には、夜、布団の中でチラット報告しておこう。果たして母はなんと言うかしら・・・
 

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