ホンモノの「法律説」(九州大准教授野澤充先生の論文に触れて)(中止犯減免根拠) | きっと合格してやるっ!!司法試験のブログ

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本記事は、実践的なものではありません。「へぇ~そうなんだぁ」程度で読んでください。
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フランス刑法では、中止犯の要件が備わると、そもそも未遂犯自体が成立しないらしい。

フランス刑法では、「中止犯でないこと」が未遂犯成立の要件になっている。
だから、中止犯だと、未遂ですらなくなってしまう(犯罪不成立)。

なお、日本の刑法は、中止犯は、あくまで「未遂犯としては成立している」けど、刑を減免してあげよう、というものです。

フランスのように、中止行為があると、未遂犯自体が成立しなくなる、ということをどう説明するか。

そもそも犯罪でなくなるんだから、犯罪要件がなくなるんじゃないの?
ってのが素直な考え方と言えましょう。

つまり、中止行為によって、違法性か責任がなくなる、だから犯罪が成立しない、と考える。

これがホンモノの「法律説」らしい。
そして、このように正犯に未遂犯すら成立しないため、正犯の中止行為が当然に共犯に及んでしまう(共犯も不成立)という帰結になり、これを導くことこそが法律説のメリットらしい(共犯が成立しないことを不当だと考えるとデメリットだが)。

「理論刑法学の探究〈7〉」の野澤充「中止犯論の問題点」を読んで初めて知った。

たしかに、犯罪でなくなってしまうんだから、違法性と責任という犯罪の要件との関係で中止未遂を説明するのは当然のことと思える。

受験時代、中止未遂による違法減少・責任減少とか言われて、なんかしっくりこなかった。
違法性が減少したら、犯罪不成立になるんじゃないの?って思ったことあったもの。

日本の刑法は、未遂犯を成立させた上で、減軽するものだから、違法性は減少するが、犯罪が不成立になる程度には減少しない、って説明ってなにか、スッキリしない半端さを感じた。

以上の、法律説の出自からみれば、日本で主張されている法律説、とくに共犯に中止行為が影響しないと考える説は、ホンモノの「法律説」と全く異質です。

野澤先生によれば、このフランスの規定を前提にして提示された「法律説」が、ドイツを経て日本に輸入されたのですが、輸入された際に、法律説の出自があんまり吟味されず輸入されたということのようです。


ですから、野澤充先生は、日本の見解を「法律説」と呼ぶのは間違っていると強烈に主張されます。
 中止未遂を研究されている金澤真理先生が、野澤先生の論文集「中止犯の理論的構造」に対する書評で、野澤先生のように法律説を定義することを念頭にして「法律説の存在可能性をまるっきり否定する」のはどうか、という趣旨のことを述べたことに対し、野澤先生は次のように書かれます。

「これは、もし『法律説の定義自体を改めるべきだ』とする主張であるならば、これは歴史的事実に基づく学問的成果を、事後的に都合良く独自に解釈して構わないのだという主張そのものと言える。」

「『全く異質の内容をもつ』のであるならば、すくなくともそれらを同じ呼称で呼ぶこと自体がためらわれてしかるべきであろうし、また異質の内容を持たせてもかまわないのかどうか、形式的にドイツやフランスから学説の看板だけ借りておいて中身は勝手に日本だけで通用するように考えて構わないということにしてよいものかは疑問なしとすべきではないように思われる」

「どうしても法律説を主張したいのであれば、それはそれで構わないが、ただその際には、法律説という学説が本来伴うべきであった内容を備えるべきである。すなわち『中止犯の場合には法律上の要件が欠けることになり、未遂犯はそもそも成立せず、またそれにより教義の共犯も(共犯の従属性の観点から)成立しなくなる』というのが『法律説』を採用することのメリット(利点)だったのである。
「理論刑法学の探究〈7〉」184頁-185頁


野澤先生は立命館出身ですので、近くの大阪市立大に赴任してきた金澤先生から中止未遂について指導を受けたらしいのですが、そんな関係でも、手厳しく反論するところに、野澤先生の、中止未遂にたいする研究の熱心さが伝わります。

なお、受験としてですが、
野澤先生からすれば誤っているにしても、日本の「法律説」の説明が、現時点では、十分通用するのですから、「違法減少、責任減少」、「法律説」という言葉を用いることに問題はないと思います。
山口先生の危険消滅の説明を用いることや「裏返しの犯罪論」として違法、責任減少と説明するのはいいでしょう。
事例から刑法を考える 第3版241頁では、違法減少、責任減少説について、中身が多義的で学生にとってややミスリーディングとも記載されているところですが大丈夫でしょう)


将来、野澤先生のご活躍により、日本固有の「法律説」はその名称が変更されるかもしれませんが、それまでは、受験上、違法減少、責任減少、共犯には影響しないという、「法律説」の使用は問題ないでしょうね。
野澤先生の「中止犯の理論的構造」を取り上げたリーディングス刑法で、鈴木一永先生は、野澤先生の指摘を前提に「マイナス面を自覚した上で、違法減少、責任減少という犯罪論上の理論に還元した法律説的な説明をとることで『裏返しの犯罪論』といわれる中止犯論における表の犯罪論の知見を活かし、適切な要件論を構築できるプラス面がある、という近時の『法律説』の思考方法にはなお見るべきものがある」とされています。

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野澤先生の中止犯の主張について興味を持たれた方は、「理論刑法学の探究〈7〉」が、なかなか面白しので、購入して読んでみてください。

(2016/7/18)
(2016/7/19 修正 2016/07/20修正)