因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

動物自殺倶楽部 第3回公演『夜会行』

2024-04-24 | 舞台
*高木登(演劇ユニット鵺的/動物自殺倶楽部)作 小崎愛美理(フロアトポロジー/演劇ユニット鵺的)演出 公式サイトはこちら 下北沢・「劇」小劇場 28日終了 同ユニットこれまでのblog記事(1,2)鵺的、高木登関連→(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21α,22,23,24,25,26
 2021年夏の鵺的の初演(寺十吾演出)はずっと心に残っている(blog通信)。劇作家は初演当時から「若手版をやってみたい、演出を女性にまかせたものを観てみたい」という思いがあったとのこと(公演チラシより)。それが実現の運びとなったのは、観客としても嬉しいことであった。公演直前に赤猫座ちこ(牡丹茶房/動物自殺倶楽部)が体調不良により降板という大変なアクシデントに見舞われたが、アンダースタディの太田ナツキが代役をつとめ、無事に初日の幕が開いたことに敬意を表したい。

 新田みどり(太田)と近藤笑里(木下愛華)が暮らす部屋に、友人の秋元遼子(日野あかり/日本のラジオ)、廣川愛(輝蕗)が訪れる。笑里の誕生パーティなのだ。廣川は新しい恋人を呼んでおり、運命の人だとぞっこん惚れ込んでいるが、その永井理子(寺田結美)は、数か月前まで男性と同棲しており、ある事情を抱えていた。

 たくさんの観葉植物が飾られたり、家具調度はじめ、色彩や音がさまざまに加わっている。たくさんの風船は、はじめは誕生パーティを盛り上げるための楽しい小道具だが、理子と元彼が電話で会話する場面が進むうち、女性たちが一つひとつ風船を割りはじめる。当然大きな音がする。これは理子に対して罵詈雑言を浴びせ、勘違いも甚だしい主張を繰り返す元彼への無言の抗議であり、同時にそれまで女性たちが大切に育んできた友情や愛情、夢や希望が潰されていく無残な現状を表すものでもあるだろう。

 開演前から俳優が舞台に登場すること、同じく終演後も数人が舞台に残ったままであるのは小崎演出の特色であるが、自分にはまだその意図や演劇的効果は計りかねる。またこれは演出なのか、後半の場面において、元彼の発言の酷さから俳優の感情が自然に発露した結果なのかはわからないが、やや泣きが多い印象を持った。

 初演からの改訂がはっきりわかるところは、パーティ前の感染対策についての台詞である。第5類に移行したことから、随分と対策も緩くなってはいるものの、さらなる注意を呼びかける遼子の描写は大変自然である。

 しかし理子の元彼に象徴される(まことに極端な人物であるが)パートナーへの横暴や同性愛者への無理解と勘違いは決して無くなってはおらず、いやむしろ永久に存在するのではないかとさえ思われる。それほど絶望的なのだ。廣川が元彼を叩きのめしたところでこの男が謝罪したり改心するとは思えず、想像を超えた逆襲をされるなど、女性たちはさらに深く傷つくのではないだろうか。

 ずっと同性愛を貫いていた者と、異性愛から移行した者との溝はそうたやすく消えるものではなく、互いを思いやる故に激しい口論になる前半は、彼女たちが単に同じ性的志向の共感だけで結びつき、いつも助け合って支え合う関係ではなく、何かのきっかけで決裂の可能性を秘めていることがわかる。

 それでも本作が客席にもたらす幸福感は確かにある。傷つけ合っても、女性たちはお互いを尊重し、生き方に敬意を払っている。自らに妥協を許さず、懸命に生きているすがたに心を打たれるのだ。

 3年前に出会った女性たちは、違う部屋に新しい顔で登場し、ともすれば再会の懐かしさと情緒に緩みそうな自分の背筋を伸ばしてくれた。今もどこかに女性たちが居て、自分も遠慮しつつ傍らに居る。この実感が本作の魅力であると確信できた一夜であった。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2024年4月観劇と俳句の予定 | トップ | 因幡屋通信75号完成 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事