イラン・イスラエルの対決と日米同盟。

4月13日、イラン革命防衛隊が200余りのドローンやミサイルによって
イスラエル国内のイスラエル軍の軍事施設を攻撃。
イスラエルとイランはイラン革命以来長らく敵対関係でしたが、
ついにイランが史上初のイスラエル直接攻撃に踏み切りました。

Flag of Iran
Flag of Israel
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報復の連鎖

この攻撃はシリア国内のイラン大使館が
イスラエル軍によって攻撃され、7人が犠牲になった事への報復
であり、
ハメネイ師は事前に報復を予告していました。
攻撃は限定的であり、ほとんどのミサイルやドローンが
イスラエル軍や同盟国により撃ち落され、
女児が負傷したのみで大きな人的被害は無かったとみられます。
大使館の攻撃は国際法違反であり、
イランは国家の尊厳を守るために何らかの行動を取る必要がありました。

レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派などの親イランの武装勢力は
イスラエル軍によるガザ侵攻以来イスラエルを攻撃してきましたが、
周辺中東諸国は地域の緊張を緩和したいのに
イスラエルに同胞のアラブ人やイスラム教徒が無慈悲に殺害されるのを
眺める事しかできず煮え切らない態度でいます。
そんな中、イランが動いた事に
これらの人々には内心興奮に近いものがあったに違いありません。
実際この攻撃を受け、南部ラファ侵攻は延期となりました。
パレスチナ人はイランによって命の猶予が与えられたことになります。

一方でイランも事態の拡大を望んでおらず、
大使館攻撃の件はこれで手打ちにすると言い、
バイデン大統領もこうしたイランの意図を汲んで
イスラエルがイランへの報復攻撃を行うとしても
アメリカは参加しない旨ネタニヤフに伝え自制を促しています。
しかし、イスラエルはイランへの強力な報復措置を取ると決定し、
イスラエルの行動次第でさらなる報復の連鎖が起こる恐れもあります。

日本の立場

そもそも今回の攻撃はイスラエル軍のイラン大使館攻撃が発端であり、
日本やアメリカをはじめ西側諸国が
ハマスの大規模攻撃を口実としてガザ侵攻に踏み切ったイスラエルには
自衛権の行使であるとして反撃を認めながら
大使館が攻撃された事への報復として行われた今回の攻撃では
情勢をエスカレートさせると一方的にイランへの非難声明を行っているのは
どう考えてもダブルスタンダードでしょう。
アメリカ自身もヨルダンで米兵3人が殺害され、
イエメンのフーシ派を報復攻撃した事は記憶に新しいはずです。

イランがハマスやフーシ派を裏で操っているから
イランにも責任があるというのは暴論もいいところであり、
彼らの動機はイランの指示ではなく
イスラエルによるパレスチナ迫害に対抗する自発的な行為だったでしょう。
ハマスの件でイランを責めるなら
イスラエルを支援するアメリカにもガザ虐殺の責任がある事になります。

欧米がイスラエルの肩を持つ理由は歴史的な背景がありますが、
キリスト教圏でもなく、イランとの歴史的関係も良好な日本が
G7として連名でイランを非難した事は落胆でしかありません。
談話を発表した上川大臣の印象も個人的にはマイナスです。
イランは抑制的でコントロールされています。
事態をエスカレートさせているのは
未だ攻撃の手を緩める姿勢を見せないイスラエル
であり、
そのイスラエルはロシアとは違い来年の大阪万博の出展が認められました。
ウクライナ侵攻はロシアの一方的な侵攻であり、
ガザ侵攻はハマスの攻撃が原因であるからという理由だそうですが、
革命後のイランを初訪問し、中東和平に尽力した故安倍元総理であれば
もっと違う対応ができたのではないかと思ってしまいます。

日米同盟の深化と自主独立

4月8日から14日にかけて岸田総理の国賓訪米があったばかりですが、
ここで岸田総理は安全保障体制の歴史的転換を宣言
岸田内閣では安保三文書を制定し、防衛装備品の輸出に踏み切り、
専守防衛から反撃能力保有への転換を行ってきました。
また防衛費をGDP2%に引き上げ、
世界の安全保障に対して日本がより強力にコミットする事を約束しました。
安倍政権では国内の反発を受けながらも半ば強引に憲法解釈の変更によって
集団的自衛権の一部行使容認に踏み切る平和安全法制を制定しましたが、
ハト派と見られていた岸田政権の方がより強力に再軍備に舵を切っています。

安倍元総理の置き土産でもある日米豪印4カ国によるQuad
経済安全保障を主眼としたもので、対中軍事同盟ではないとして
非同盟主義であるインドを説得した背景がありましたが、
岸田総理の国賓訪米に先立つ3月21日には
アメリカ、イギリス、オーストラリアによるAUKUS
日本と先端技術分野における協力を検討していること明らかにしました。
オーカスはより対中軍事同盟に重きを置いた枠組みです。
昨年にはNATOが東京連絡事務所開設を検討と話題になりましたが、
日米豪印4カ国によるクアッド、対北朝鮮の日米韓に加え、
岸田総理の訪米に合わせ、初の日米比首脳会談が行われました。
フィリピンは台湾の隣に位置しており、
台湾有事を想定したものである事は明らかです。
岸田総理が米上下両院合同会議の演説で名指ししたように
ついに日本は中国と対決する覚悟を決めました。
ヨーロッパにはNATOという連合した多国間軍事同盟が存在しますが、
インド太平洋地域の安全保障は日米が車の両輪、まさに枢軸となり、
目的に応じた多国間同盟築いていく事がはっきりしてきました。

Joe Biden and Fumio Kishida at Beast
大統領専用車ビースト車内での日米首脳のセルフィー

中国の習近平国家主席は岸田総理がアメリカ訪問中の10日に
親中派の馬英九前台湾総統と北京で異例の会談を行いました。
一つの中国原則を確認し、統一について話し合われたとされ、
独立志向の頼次期総統と日米をけん制する目的があったのでしょう。

日本、自衛隊の役割が今後さらに高まる事は必至ですが、
対等な同盟関係と言うのであれば
従属的な関係ではいけないはずです。
実際、フランスはNATOの発足時のメンバーであり、
独立戦争の頃からのアメリカの友人であるにも関わらず、
イラク戦争には反対し、オーカスで無視された時は抗議、
マクロン大統領はNATOの東京連絡事務所設立にも反対しました。
対米従属しない姿勢はドゴール主義とも呼ばれますが、
主権国家として国益を追求するのは当たり前のことです。
しかし、ガザやイランなどの中東情勢において
国益を無視してアメリカの言いなりのまま
自衛隊とアメリカ軍の一体化を進めるのであれば
日本は将来、アメリカ軍の弾除けとして先兵となるだけです。
本来の意味で対等な関係するのなら、
この先に日米地位協定の改定が行われることを切望します。

岸田外交の集大成

Fumio Kishida at the US Congress 20240411 13
上下両院合同会議で演説する岸田総理
(出典:首相官邸

今回の訪米で岸田総理は選挙前最大の仕事を終えたと言っていいでしょう。
外交的な成果が支持率にどれほどの影響があるかは未知数ですが、
得意の英語でのスピーチは非常に完成度の高い物でした。

上下両院合同会議での演説では
年末の大統領選挙を控え、世界的なトランプリスクを抱える中、
アメリカ国民がリーダーとしてのアメリカに疑念と
焦燥感を抱いている点を鋭く指摘
し、
日本もアメリカと共にあるとアメリカを励ましました。
インド太平洋地域における平和と安全のために
アメリカを繋ぎ止める内容でした。
日本の首相の発言が選挙にどれほどの影響を与えるかは分かりませんが、
党派を超えたメッセージだったでしょう。
アメリカを繋ぎ止めたいあまり、やや露骨なリップサービスもありましたが、
「もしトラ」対策として
首脳会談の翌日にはノースカロライナ州のトヨタ工場を訪れ
日本がアメリカ人の雇用創出を行っている事もアピールしています。
岸田総理はバイデンが難色を示し、トランプが反対する
日本鋼鉄によるUSスチールの買収にも前抜きな姿勢です。
アメリカのTPP復帰を望む日本は
安全保障だけでなく経済でも日米の一体化に繋げたいのです。

Fumio Kishida visit to the United States 20240410 29
(出典:首相官邸

日本では核廃絶に関して発言が無かったことをやり玉に挙げられていますが、
夕食会での挨拶でジョークやウンチクを交えながら
軽快に出身選挙区である「広島」を連呼しました。
アメリカで「Hiroshima」は一般的に単なる地名でなく原爆を連想するものです。
バイデンの友人でもあった日系議員のダニエル・イノウエなど
アメリカに渡った日系移民の多くが広島出身である事を紹介する事で
暗に「強制収容」「原爆投下」という負の歴史が脳裏に刻まれます。
岸田総理は政治家としてケネディ大統領を敬愛しており、
ケネディ大統領が訪米した広島出身である池田総理に送った
「太平洋は日本と米国を隔てているのではなく、むしろ米国と日本を結びつけている」
という言葉を引用して日米の和解と連帯を表しました。
また、アポロ計画によって月面着陸を目指したケネディ同様、
岸田総理は21年末に「2020年代後半に日本人を月面着陸させる」と発言していましたが
今回の訪米でアルテミス計画においてJAXAとトヨタが共同開発する月面探査車と共に
日本人2名の月面着陸が正式に決まりました。
一人目は2028年に実施予定で、二人目は2031年の予定です。
実現すればアメリカに次ぐ世界で二番目の快挙になります。
これも一つの成果と言っていいでしょう。

総理の遠い親戚であり、
これまた広島にルーツを持つ日系人ジョージ・タケイが演じる
ヒカル・スールーが登場する宇宙SFドラマ「スタートレック」のセリフ
「誰も行ったことのないところへ果敢に行く」
挨拶は締めくくられました。
ヒロシマ、日米同盟、ケネディ、宇宙
政治家岸田文雄を形成した要素を上手く取り入れた名挨拶でした。
ちなみにヒカル・スールーは日本人とフィリピン人にルーツを持つ
サンフランシスコ出身のアジア系アメリカ人という設定ですが、
日米比首脳会談まで意識していたのかは不明です。

George Takei Sulu Star Trek
ヒカル・スールー
Fumio Kishida at the White House 20240411 02
日米比首脳
(出典:首相官邸

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