The Real Chopin × 18世紀オーケストラ ~フランス・ブリュッヘンの想い出に~ | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(3月11日・東京オペラシティ)

コンサートでの使用ピアノはタカギクラヴィア所有の1843年製プレイエル
 

ユリアンナ・アヴデーエワの弾くショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11が素晴らしかった。プレイエルのピアノとモダンピアノの音を比較した印象は、言ってみれば手描きで美しい装飾画が描かれた1800年代のアンティーク食器と、プリント柄の量産された現代の食器の違いのように感じられた。前者はショパンの時代の貴族たちが集うサロンに招き入れられたような優雅な世界が広がる。

 

アヴデーエワの演奏は装飾音や高音の連符の輝きが優雅で煌めくような美しさを持っている。低音も出ており、東京オペラシティのホールでも十分豊かな響きがある。

もうひとつアヴデーエワの演奏で特長的と思ったのは、ピリオド楽器を弾きながら、どこかモダン楽器に通じる思い切りの良さ、流れの良さ、勢いがあること。演奏はピリオドでありながら、モダンの機能性、動きの良さも兼ね備えているように思えた。

 

6-6-4-3-3の編成の18世紀オーケストラは、コンサートマスターカティ・デブレツェニの好リードのもと(楽員に指示を見せるため、特別な高い椅子に座った)、強奏では鋭くインパクトのある響きをつくり、弱奏では繊細で透明感のある音で、ソリストにぴったりと寄り添っていた。

ピリオドのホルンや木管の持つ素朴な味わいが、和やかな雰囲気も醸していた。

 

前半の川口成彦トマシュ・リッテルは、ピリオド楽器そのものの特性を重視しているように感じられた。作品の性格もあるとは思うが、二人の演奏の違いも興味深いものがあった。

川口成彦ショパン:ポーランドの歌による幻想曲 op.1で、端正で誠実な演奏を展開したが、トマシュ・リッテルショパン:演奏会用ロンド「クラコヴィアク」op.14で、弾けるように華やかな演奏を繰り広げた。

 

川口は最初に藤倉大:Bridging Realms for fortepiano (第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール委嘱作品/日本初演)をソロで弾いたが、ショパンのノクターンとガムラン音楽のイディオムがミックスされたような親しみやすい作品が、ショパン:ポーランドの歌による幻想曲に違和感なく繋がっていった。

 

最初に、モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K.55018世紀オーケストラが立奏で演奏した。きりりとして、強奏ではモダン楽器とは異なる荒々しさも感じさせた。聴きなれた作品が新たな顔を見せていた。