シャンテ サラのたわ言・戯れ言・ウンチクつれづれ記

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LSI 製造は金食い虫だからでは済まない

2024年05月10日 | テクノロジふ~ん
左は熊本県菊陽町で完成した TSMC の第1工場 (3月12日 クーリエ・ジャポン記事)。 右は 18兆円余り (1174億ドルを ¥155/$ 換算) の受託生産規模で、うち 10兆円余りを TSMC が占めます (3月11日 nippon.com 記事)。
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最近 TSMC (台湾積体電路製造) 絡みの記事が増えているように感じます。

日本政府の補助金を受けた TSMC は熊本に半導体工場を建設して1年半経ち、今春 工場の開所式を迎えました。 本格稼働は今年 24年末とされています。 ええっ? 半年以上も経たないと製品が作れないの? すぐに製造できないの? 半導体の製造ってそんなに時間が掛かるの? 普通の人にしてみれば疑問だらけですよね。 ごもっともです。
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半導体といっても、 TSMC が製造するのは LSI (大規模集積回路) です。 半導体には 単純な個別トランジスタなどから、車載用半導体、イメージセンサ、メモリ、CPU (中央処理装置) など色んな種類がありますが、大雑把にいうと 車載用半導体やイメージセンサは中規模、メモリや (スマホ用) CPU は大規模集積回路となります。

TSMC が製造するのは、主に大規模型の CPU (アップル向けなど) や GPU (グラフィック処理装置でエヌビデア向けなど) などの集積回路です。 これらは個別トランジスタを数億個も内蔵しますから 製造する工程数が数百もあり、24時間工場を稼働させても 材料を仕込んでから、数百工程を経て最終工程に至るまでに ざっと3ヶ月から半年もの長い時間が掛かります。



左から 各種ウェハー、加工されたシリコン・ウェハー、写真中央の黒色の正方形が集積回路。
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しかも TSMC 熊本が製造する半導体は前工程といわれるもので、後工程は台湾の別工場で行いますから、さらに時間を要し、最終的な半導体製品となるのには3ヶ月~半年以上掛かるというわけです。

前工程とはシリコン・ウェハー (丸い円盤状の基板 上左写真) 上に、所定数量の回路を形成するまでの工程です (上中央)。 後工程とは前工程が終わったウェハーを所定数量ごとに切り分け、パッケージに封止し (上右)、基板に組み込める最終製品にする工程です。
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別例で 今川焼を焼く工程を考えると __ 練った小麦粉を焼けた鉄板の丸い型に垂らし (①)、アンコを丸型に適量入れ (②)、丸型の底側が焼けたら1個ずつ針でひっくり返して もう片面を焼く (③)。 たったの3工程 10分ほどで製品が出来ます。
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今川焼を焼く設備は、鉄板の丸い型とガス加熱装置くらいのものですが、LSI 製造の設備は 純水装置からクリーンルーム用の大型エアコン、数十もの専用製造装置が必要になります。 しかも1台数億円から数百億円もしますから、全設備を合わせると数千億~1兆円近くにもなります。

日本の LSI 製造工場は数世代前・2008年以前の 40ナノメートル (nm) の設備のままですから、それより微細な 28nm や数ナノの LSI は作れません。 それらをどうやって調達しているかというと、TSMC などの受託製造の会社に発注・調達して 更に周辺回路を付け加え ルネサスやソニーなどが、自社製品としてトヨタ自動車や他の顧客に販売しているのです。 因みに ソニーが販売するのは、主にイメージセンサでカメラ部分に相当し、販売先はアップルや他のスマホメーカーで、そのシェアは世界の約半分です。

なぜ日本のメーカーが 28nm 以下の微細な LSI を作らないかというと、自前で作るよりも TSMC など受託製造の会社 (ファウンドリー) から購入した方が安価だったからです。 これは欧米でも同様です。 しかも 数千億~1兆円もの設備を掛ける必要もありませんから、投資負担も不要になるのです。
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でも 最近は、わざわざ 数千億~数兆円もの設備投資費用の掛かる最先端半導体工場を国内に建設しようと、政府が補助金を出して 半導体会社を後押しする動きが日欧米で高まってきています。

例えば 千歳市に建設中の日本の半導体製造会社 ラピダスは27年に最先端の 2nm の半導体を量産する予定で、政府の支援額はすでに1兆円近い規模になります。

なぜ そういう動きになっているかというと、以下は “製品製造の経済合理性” とは全く次元の違う話しです __ 受託製造の会社は台湾や韓国に集中しています (冒頭円グラフ参照)。 台湾や韓国は中国に近いという “地政学上の要因” があります。

近年 米国と中国は貿易のみならず 政治的な対立が生じており、特に 中国は台湾を自国に吸収・統一する野望を隠さなくなってきています。 加えて ここ数年 多くの自動車会社が、車に内蔵する半導体不足が原因で製造が思うようにならなくなってきました。

もし 台湾が中国に吸収されてしまったら、自動車のみならず IT 機器や防衛宇宙産業でも使う要 (かなめ) となる半導体が容易に入手できなくなる可能性が出てきたのです。 そうなったら 世界中が中国に “首根っこを掴まれる” のも同然の状態になってしまうのです。

中国が日欧米 他の民主主義の国々と同様の “価値観や法体系” を持つ国かとよくよく考えると、そうではないだろうと結論づけられます (最近の中国の “反スパイ法” の成立を見れば一目瞭然です)。 そういう中国からの影響を排除しようとするのは自然な行動です。

だから 最悪の事態が起こっても、その影響を避けようと、たとえ 莫大な費用が掛かっても自前で半導体製造工場を確保しようという動きになっているのです。 

今日はここまでです。

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