福井県の大学の体育館でBは今日もバドミントンの練習を重ねていた。来る日も来る日もバドミントン漬けの毎日だった。それを顧問監督のXと試行錯誤しながら培ってきた。
B:「サイドストロークの打ち方は?」
X:「スライスショットやワイパーショットがある」
B:「スピンネットの返球方法は?」
X:「ラケットを速いスピードで振り切って高いロビングを打つと、返球できる可能性が高まる。打点を落とし、少しでもスピンがゆるくなった状態で打ったほうがいい」
そうしたBの質問に真摯に答える顧問のXがいた。顧問監督のXもバドミントンのいくつかの本を精読し、Bの向上に余念がない。それだけ顧問監督のBとこれまで二人三脚で歩んできた。
X:「ネットショットにはスピンネット、クロスネット、ヘアピンなどがある」
B:「そうですね。あとはロビング。ドライブ、ハイバック。スマッシュ」
そうした知識と技術、体力がハーモナイズされてくると、まさに鬼に金棒となるのだが、まだ試合で「勝つ」ために必要な何かをBもXも追い求めていた。
練習編の本を読む顧問監督のXはある定理を導き出した。
X(V.O.):「スタミナ向上を狙ったノックで、動く時間が長いのはなぜ?」
Xは心の中でそう思った。
X:「ノック練習ではスピード向上を狙ったノックを最初に行い、そのあと続けてスタミナ向上のノックを行うのが一般的。5~7種目を組み合わせて、30分前後でオールアウトになるようにしたらいい。ダブルス専門の選手もこの条件で実施すべき。ダブルスもラリー時間が長くなりテンポも速くなってきている。試合終盤にスタミナ切れを起こさないように同じ条件で実施するのがいいだろう」
そうしたことをXは念仏のように唱えながら、Bに言った。
X:「B。次の土曜日に練習試合を組んだ。今の現在地を図る上で、いいと思った」
B:「えっ?そうなんですか?」
X:「練習試合だから、思い切って行け」
B:「あっ、はい」
そう言って、Bは次の土曜日に練習試合をすることになった。度胸試しにもなるし、何よりも自分の現在地を知る上で、願ってもない舞台だ。今の自分がどこまで通じるか。それを知ることは重要なことだ。
X:「B。バドミントンも大切だが、今は就活生だろ?」
B:「はい。でも、まだこれといって自分の将来が描けていません」
X:「そうか…」
B:「ですので、今は自分探しに必死ですし、専門のゼミのほうの勉強も頑張っているところです」
X:「そうか。何かあったら相談に乗ろう」
B:「ええ。ありがとうございます」
そう言って、顧問監督のXは知り合いの企業に推薦状を書くことぐらいはすると言った。Bにとっては何よりも厳しい就活戦線の中で、一つでもいいので、内定先があるだけでも精神安定剤になる。
その後、Bは友人たちと合流し、恋バナでつかの間のひとときを過ごしていた。
友人④:「B。好きな人のタイプについて」
B:「好きになった人がその時のタイプの方なので…。一貫性はないかもしれないですね」
友人⑦:「草食系か、肉食系か」
B:「好きになった相手のタイプによって、草食系にも肉食系にもなる」
友人④:「イヤだ、B。それ、面接バッチリじゃない」