東京演劇アンサンブル 創立70年記念公演Ⅰ「行ったり来たり」@すみだパークシアター倉
東京演劇アンサンブル 創立70年記念公演Ⅰ「行ったり来たり」@すみだパークシアター倉を観劇。東京演劇アンサンブルといえばブレヒトというイメージがあるから、創立70年記念公演の演目としてブレヒト作品ではないもののドイツ人劇作家エデン・フォン・ホルヴァートの音楽劇を選んだというのはいかにも「らしい」公演ではなかったろうか。
エデン・フォン・ホルヴァートの作品を観劇したのは2021年に同劇団が上演した「ウィーンの森の物語」*1に続いて2回目。その公演の時には次のような感想を書いた。
「ウィーンの森の物語」の作者はエデン・フォン・ホルヴァート。第2次世界大戦の直前までオーストリアなどで活躍した劇作家である。東京演劇アンサンブルはブレヒトをはじめとしたドイツ演劇を積極的に上演していることで知られる劇団だ。ブレヒトのような古典にとどまらず最近では現代作家の紹介にも努め、ドイツ演劇上演について広いレパートリーを持っている。
そういう意味ではドイツ演劇の研究者である大塚直(訳・ドラマトゥルク)と組んで、おそらく日本にはこれまであまり紹介されたことがなかった(かもしれない)エデン・フォン・ホルヴァートの作品を上演したことは意義はあることだったかもしれない。
前回に引き続き、演出公家義徳、翻訳・ドラマトゥルク大塚直のコンビによる上演。
「ウィーンの森の物語」は「出来の悪い脚本家が担当したNHKの朝ドラのようで、正直言ってここまでひどいのは視聴者から総スカンを食らいそうだ。不思議なのはそれでもこれは『椿姫』のような悲劇として書かれたものでもなさそうだし、喜劇として上演されていたのかなとも思うけれど、モリエールのようにコメディとして笑えるものというわけでもないし作者の意図がよくわからない」とかなり厳しめな感想を書いたが、今回の「行ったり来たり」はそれと比べるとところどころに風刺要素は入ってはいるものの音楽要素を取り入れたコメディであるという輪郭がはっきりしていることもあり、単純に楽しく見られた。
ドイツのオリジナル上演では音楽もクラシック要素の強い楽曲であったらしいが、今回は音楽をよりミュージカル要素の強いものとし、作品自体もリアルな表現というよりも寓話性の強いものとなっていたことで、現代のミュージカルなどになじんでいる観客にとってはより自然に受け入れられるような娯楽作品に仕上がっていたのではないか。
今回の上演では主演のフェルディナント・ハヴリチェク(永野愛理)はじめ主要な男性登場人物の多くが女優によって演じられていた。しかもそれが役者としての歌がうまいタイプの女優が多いのも好感を持てた理由かもしれない。日本の児童演劇や小劇場演劇ではよくあることだが、原作がこういうタイプのキャスティングであったということは考えにくく、演出公家義徳、翻訳・ドラマトゥルク大塚直によるアイデアであるとするなら、リアルというよりはファンタジー要素の強い舞台の建付けであることもあり、この作品にはうまくはまった配役だったと思う。
出生地と国籍の問題など現代日本の社会問題にもつながるような問題も描かれてはいるのだが、そういう政治風刺的な方向性に引っ張られすぎない立ち位置もよかった。
――二幕構成から成る茶番劇――
(チューリヒ最終版)上演予定時間 2時間10分(休憩なし)
Staff
作/エデン・フォン・ホルヴァート
訳・ドラマトゥルク/大塚直
演出/公家義徳
音楽/monje
衣裳/稲村朋子
音響/島猛
照明/真壁知恵子
宣伝美術/本多敬 永野愛理
舞台監督/永濱渉
制作/小森明子 太田昭Cast
フェルディナント・ハヴリチェク 永野愛理
トーマス・サメク 入国審査官 洪美玉
エーファ その娘 福井奏美
コンスタンティン 同じく入国審査官 雨宮大夢
ムルシツカ 駐在警察官 浅井純彦
ハヌシュ夫人 西井裕美(フリー)
X 右岸の国の政府首相 原口久美子
Y 左岸の国の政府首相 志賀澤子
個人教育者 二宮聡(フリー)
その妻 鈴木貴絵
レーダ夫人 町田聡子
シュムッグリチンスキー 麻薬密輸団のボス 小田勇輔