今回はスリラー仕立てのダークファンタジー「ナイトメア・アリー」(2021年)。
ギレルモ・デル・トロ監督が罪深き男の運命を描きます。
"Filem NIGHTMARE ALLEY" Photo by Budiey
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1939年。オクラホマの田舎から出てきた無一文のスタン(ブラッドリー・クーパー)は、ある町でふらりと入った見世物小屋で無残な「獣人」ショウを観ます。
その夜、獣人の脱走を解決したスタンをオーナーのクレム(ウィレム・デフォー)が気に入ります。
スタンは見世物小屋に雇われ、読心術ショウのジーナ(トニ・コレット)と夫のピート(デヴィッド・ストラザーン)の手伝いを始めます。
スタンはピートに教えを請い、そのテクニックを会得してゆきますが、ピートからはテクニック=コールド・リーディングを「死者との交流に悪用するな」と釘を刺されます。
ピートはスタンの重ねる嘘が罪なき人達を傷つけ不幸にするから、と注意するんです。
一方、電気人間ショウのモリー(ルーニー・マーラ)に惹かれたスタン。
彼はピートの門外不出のノートを手に入れてモリーと二人で見世物小屋を出てゆきます。
2年後、ニューヨークでセレブ相手の読心術ショウで人気となったスタンは、有力者の判事から死者との交信を大金で依頼され…。
…というお話。
ギレルモ・デル・トロらしさ全開です。
おどろおどろしくも甘美な御伽噺。
あるいはチープでスタイリッシュな三文小説的世界観です。
普通の女性モリーとは、スタンはあまりに住む世界が違うと思うんです。
それくらいスタンは悪く罪深き男です。
スタンはニューヨークで心理学博士のリッター(ケイト・ブランシェット)と出会いますが、スタンは彼女を自分と同じ種類の人間だと感じる。
でもどう考えてもリッターの方が一枚も二枚も上なんですけどね。
男が女にハマり、相手を分っていると思い込んでも、実際には全く分かっていない。
ファムファタールの特徴なんじゃないですかね。
本作は往年のフィルム・ノワールの香りが漂いますが、フィルムノワールと言えばブロンドのファムファタールは欠かせません。
リッターはまさにファムファタールです。演じたケイト・ブランシェットが上手すぎで怖かった。
スタンは何も無い男です。ただ、ルックスが往年のクラーク・ゲーブルに似ていてハンサムで華がある。
だから相手は「この男には見込みがある」と思う。
これがリッターが言う「スタンが騙しているんじゃなく、相手が勝手にスタンに騙されているだけ」ということなんです。
今までも一線を越えて悪に手を染めてきたスタンですが、心の奥底でその自らの罪の記憶はあれども同じことを繰り返すのです。
恩人を裏切り、忠告を無視して大金のためにタブーを軽々と超える。
スタンは罪悪感に涙することさえないんです。その点でスタンはエズラよりも悪党かもしれません。
後味の悪い結末はまさに因果応報。カルマです。
「自分は他人より優れている」なんていう考えに憑りつかれたら終わり、です。
その幻想を本当ものなんだ、と思い込んだ時、その人は現実を見失う。
この悪夢の袋小路~ナイトメア・アリーに一度堕ちたら抜けることは中々出来ません。
そこは一見、甘美で魅惑の見世物小屋ですから。
因果応報とはいえ、後味の悪さは「エンゼル・ハート」も伝説的作品ですね。
ミッキー・ローク渋すぎ&ロバート・デ・ニーロの怪演も。