孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  物量に勝る露軍に対し後退 米の支援再開で立て直し図る 長距離ATACMS実戦投入

2024-05-05 23:16:11 | 欧州情勢

(長距離射程の地対地ミサイルATACMS(エイタクムス)【5月2日 Newsweek】 かなりごっつい兵器です)

【物量に勝るロシア軍の攻勢で後退を余儀なくされているウクライナ】
ウクライナの戦況は、大砲・ミサイルを撃ち合う古典的な「陣取り合戦」的な様相を呈し、物量に勝るロシアが、アメリカの支援が国内の与野党対立で滞りがちなウクライナをジワジワと押しているような状況です。

****ウクライナ総司令官、東部前線「状況悪化」 ロ軍攻勢で後退****
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は28日、東部戦線で部隊が3つの村から新たな陣地に後退したと明らかにした。

通信アプリのテレグラムで「前線の状況は悪化している」と述べ、2月にロシア軍が制圧したアブデーフカの北西およびマリンカの西側が「最も困難」な状況だとした。

ゼレンスキー大統領は28日に米民主党のジェフリーズ下院院内総務と会談し、防空システム「パトリオット」が早急に必要だと強調した。

シルスキー氏によると、部隊はアブデーフカの北の2つの村と、マリンカに近い村に新たな陣地を構えた。これらの地域では、ロシア軍が制圧には至っていないものの「戦術的に一定の成功」を収めているという。

ロシア軍は要衝アブデーフカを制圧後、じりじりと進軍している。

シルスキー氏は、新たな要衝となっているチャソフヤールとその北東の村が「最もホットな場所」とした。ロシア国防省は、チャソフヤール付近でウクライナの反撃を退けたと発表した。

シルスキー氏はさらに、北東部の第2の都市ハリコフへのロシア軍増派を注視していると述べた。ロシアが北部攻勢を準備する兆候はないとしたものの、ウクライナ軍の態勢を強化したと説明した。【4月29日 ロイター】
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「最もホットな場所」チャソフヤールについては、ウクライナ側の見解でも“陥落も時間の問題”とも。

****要衝陥落「時間の問題」 兵器不足、交渉も視野****
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長は4日までに英誌エコノミストの取材に応じ、東部ドネツク州の要衝チャソフヤールがロシア軍に制圧されるのは「時間の問題」だと語った。ウクライナ軍は砲弾や兵器が不足しており「全ては備蓄と供給次第だ」と強調した。

ロシア軍を国境まで押し戻せたとしても戦争は終わらず、交渉を通じた終結しか道はないとの見方も示した。両軍は交渉の可能性を視野に、自国が「最も有利な立場」となるために攻防を続けていると述べた。

ドネツク州のロシア側実効支配地域「ドネツク人民共和国」の軍関係者は4日、タス通信に対し、チャソフヤールをロシア側が事実上包囲したと語った。チャソフヤールに入る複数の主要道路がロシア側の射程内に入っており、ウクライナ側は兵員や兵器を補充できないと説明した。

ウクライナ軍にとって、高台に位置するチャソフヤールは東部前線での重要拠点。スキビツキー氏は、ロシア軍が東部ハリコフ州や北東部スムイ州周辺でも攻撃準備を進め、兵力拡大を図っていると指摘した。【5月5日 共同】
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【双方とも、クラスター爆弾使用 相手側のインフラ施設攻撃】
互いに厳しい消耗戦が続く中で、人道的建前より軍事的有効性が優先しがちです。

****南部攻撃にクラスター弾 検事総長、ロシアを非難****
ウクライナのコスチン検事総長は4月30日、南部オデッサで29日にあったロシア軍のミサイル攻撃について、クラスター(集束)弾が使われたと発表した。クラスター弾は親爆弾から多数の子爆弾を広範囲にまき散らす。コスチン氏は「可能な限り多くの民間人を殺害しようとした」と非難した。

コスチン氏によると、弾道ミサイルの弾頭にクラスター弾が使われ、半径1.5キロにわたって金属片が飛び散った。オデッサの攻撃では5人が死亡し、30人以上が負傷した。

ロシアは2022年2月の侵攻開始の直後からクラスター弾を多用。一方のウクライナも、米国供与のクラスター弾を実戦に投入している。【5月1日 共同】
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そして戦場での陣取り合戦と並行して、発電所などインフラ施設を狙った相手方の体力消耗を意図したボディーブローのような攻撃の応酬ともなっています。

****ウクライナのエネルギー関連施設に大規模ミサイル攻撃 4つの発電所に被害、一方ロシアでは製油所などにドローン攻撃、インフラ施設への攻撃の応酬激化****
ウクライナのエネルギー関連施設にロシアのミサイルなどによる大規模な攻撃があり、4つの発電所が被害を受けました。一方、ウクライナもロシア南部の製油所などをドローンで攻撃していて、双方によるインフラ施設への攻撃の応酬が激化しています。

ウクライナのエネルギー省などによりますと、26日夜から27日未明にかけて、中部ドニプロペトロウシク州や西部リビウ州などのエネルギー関連施設に攻撃がありました。

ウクライナの電力会社によりますと、4つの火力発電所が深刻な被害を受け、発電所の作業員1人がケガをしたということです。

ゼレンスキー大統領は27日、ロシアが様々な種類のミサイルで攻撃を行った、として非難。各国に対し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」が「最低でも7基必要だ」と改めて訴えました。

一方、ロシア国防省は、26日夜、ウクライナから発射されたドローンを南部のクラスノダール地方で66機撃墜したと発表しました。また、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島でも2機のドローンを撃墜したとしています。

ロシア国営のタス通信などによりますと、クラスノダール地方では27日未明に製油所がウクライナのドローン攻撃を受け、火災が発生。部分的に操業が停止されたということです。

ロイター通信は、ウクライナ当局者の話として、ウクライナ保安局がロシアのクラスノダール地方の2つの製油所と、軍用飛行場にドローン攻撃を行ったと報じています。【4月28日 TBS NEWS DIG】
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【アメリカの支援再開でウクライナの戦線立て直し期待】
苦境にあるウクライナにとっての希望はアメリカの支援再開。

****米国が支援再開 ウクライナ“戦線立て直し”は? 最前線の兵士からは歓声も****
昨年末から途絶えていた米国からのウクライナへの軍事支援が再開される見通しとなった。(4月)24日、約610億ドル(約9兆4000億円)規模の対ウクライナ追加軍事支援予算が成立した。バイデン大統領は、「ウクライナ東部の塹壕で歓声が沸き起こっているとの報告があった。兵士は下院の採決を見ながら、歓声を上げていた」と語った。

今回の予算成立の当日、バイデン米大統領は第一弾として、10億ドル(約1580億円)の兵器供給を承認した。対空ミサイル「スティンガー」、対戦車ミサイル「TOW」、対戦車ミサイル「ジャベリン」、歩兵戦闘車「ブラッドレー」、105ミリ、155ミリの砲弾などがウクライナに供給される。

また、スナク英首相が23日にポーランドを訪問し、ウクライナに対して5億ポンド(約960億円)に及ぶ追加の軍事支援を約束した。1月に英国から実施された支援の合計は約30億ポンド(5880億円)に上る。

英国からの支援には、巡航ミサイル「ストームシャドー」などのミサイル1600発、弾薬400万発が含まれ、過去最大規模の軍事装備品の供与となる。

一方、ウクライナへの支援を協議する国際会議が26日、ドイツ西部のラムシュタイン米空軍基地で開かれ、会議に出席したゼレンスキー大統領は、「長距離兵器と防空システムが必要だ。2024年の年初以来、ロシア軍が9000発以上の誘導滑空爆弾を使用している」と報告した。

ウクライナ政府は24日、兵役の対象年齢にある男性国民に対し、パスポートの発給など領事サービスの提供を一時的に停止する規則を承認したと発表した。ロシアの侵攻により、軍の人員不足が深刻化する中、動員対象年齢の男性の帰国を促す思惑があると見られる。

また、ウクライナは今月、動員に関する法改正を実施した。徴兵年齢を27歳から25歳に引き下げた。3年後に動員が解除される条項は削除された。(後略)【4月28日 テレ朝news】
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【多数の兵役逃れ 受入国でも厳しい対応に】
上記記事後半の兵員不足の問題については、ウクライナ国民全員積極的に戦争に参加している訳ではなく、「こんな戦争で死にたくない」という者は当然に多数存在しますし、一部は兵役逃れという形にも。ウクライナ当局はそうした兵役逃れを厳しく取り締まっています。

****兵役逃れで越境30人死亡 戦死者増え戦力低下****
ウクライナ国境警備隊のデムチェンコ報道官はロシアによる2022年2月の侵攻開始後、兵役逃れでウクライナから「約30人が違法に国境を越えようとして死亡した」と述べた。地元メディアが29日に報じたインタビューで語った。

侵攻が長期化し戦死者が膨らむ中、兵員不足による戦力低下が懸念材料となっている。ゼレンスキー大統領は4月、兵力確保のため、動員対象年齢の引き下げなどに関する法案に署名した。

デムチェンコ氏は「毎日約120人の出国を拒絶している」と述べた。兵役逃れを手助けする450の犯罪集団を摘発したとも明らかにした。隣接するモルドバやルーマニアに違法に越境するには険しい山を歩き川を横切る必要があり、川でおぼれて死亡する例が少なくない。(後略)【4月30日 共同】
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越境で30人死亡というのは少ないような気もしますが、もしそういうことであれば、戦争に参加するよりはるかにリスクは低い選択ということになります。

ただ、ウクライナを支援する隣接する国のウクライナ出国者への対応は厳しくなっています。

****徴兵逃れのウクライナ人「保護しない」 ポーランド高官****
ポーランドのアンジェイ・セジュナ外務次官は4月30日、自国に滞在している徴兵を逃れたウクライナ人を「保護」しない意向を表明した。ポーランドはこの問題について、欧州連合に対応を求めている。(中略)

国連難民高等弁務官事務所によると、今年2月時点でポーランドでは95万2104人のウクライナ人が難民登録されており、このうち16%に当たる15万2656人が徴兵対象年齢に当たる。

セジュナ氏は公共放送ポーランド・テレビに対し、「わが国が徴兵忌避者を保護することは決してない」と主張。
徴兵対象年齢のウクライナ人男性の扱いについて、現時点でウクライナから正式な要請は受けていないとした上で、「要請があれば、国内法と欧州法にのっとって行動する」と述べた。

ポーランドとリトアニアは先週、それぞれ自国に滞在している徴兵対象年齢のウクライナ人男性の帰国を支援する用意があると表明した。

ポーランドのブワディスワフ・コシニャクカミシュ国防相は、ウクライナから徴兵対象者の移送支援を要請された場合、ポーランドは同意するかとの質問に対しては「すべては可能だ」と回答。4月30日には、この問題に関して「欧州の解決策」を求めた。 【5月1日 AFP】
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徴兵対象者を強制送還して戦場に送り込むのか・・・ポーランドなども悩ましい判断でしょう。自国判断ではなくEUの判断に委ねたいところ。

【アメリカ 「ゲームチェンジャー」とも期待される長距離射程のATACMS供与】
アメリカの武器支援に話を戻すと、注目されている兵器がATACMS(エイタクムス)という長距離ミサイル。

アメリカはロシア領内攻撃も可能になる長距離の兵器は出し渋っていましたが、高機動ロケット砲システム(HIMARS)に続いて、戦況の悪化に促される形で、最大射程300キロメートルとより長距離のATACMSを秘密裏に提供しているようです。

****ウクライナ「ゲームチェンジャー」の期待 米ATACMS供与、すでに実戦使用****
ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、米政府が長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与に踏み切った。米国が供与してきた兵器では最長の射程で、すでに相当数が極秘裏に輸送された。24日に米国で成立したウクライナ向け緊急支援の予算を財源にして供与量を増やす。

ウクライナが戦闘の膠着(こうちゃく)を脱し、反攻に出る「ゲームチェンジャーとなる可能性」(米紙ワシントン・ポスト)が期待されている。(中略)

ATACMSの射程は300キロ超で、占領地奥深くの露軍拠点に打撃を加えられる。ロイター通信によると、17日には前線から165キロ離れたクリミア半島の飛行場攻撃で使用された。

ウクライナは一昨年秋からATACMS供与を求めていたが、米側が在庫不足を理由に渋っていた。露国内への攻撃に使われ、米露の直接衝突に発展するリスクを懸念したとみられる。

サリバン氏によると、バイデン大統領が2月、ウクライナ領内での使用を条件に「相当数の供給」を指示し、3月に輸送を開始した。供与に踏み切ったのは、米防衛産業の供給態勢が整い、露軍が北朝鮮製の弾道ミサイルで民間インフラへの攻撃を激化させたからだとしている。

バイデン氏はロシアの侵略開始以降、西側仕様の戦車やF16戦闘機など、ウクライナが求めた兵器供与を許可するまでに長時間を要した。プーチン露大統領が軍事行動をエスカレートさせるリスクを測ったためだが、そのたびに「時機を逸した」と野党・共和党や軍事専門家に批判された。

緊急予算は、ATACMS供与をわざわざ明記し、大統領が国益上の理由で供与を中止する際には説明を求める条文も盛り込んだ。議会はバイデン氏の腰が引けるのを警戒したようだ。

米シンクタンク「戦争研究所」は24日、供与の遅れにより、露軍はATACMSの効果を減らすための「時間的猶予」を得た可能性があると指摘。その一方、「十分な量が届けば、ウクライナは露軍の補給を劣化させ、後方の航空基地を脅かせる」と分析した。【4月26日 産経】
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このATACMSにクラスター弾を積んで、支配地域から100kmほども離れた場所に集結するロシア兵を狙って大きな被害を与える様子を写す動画も拡散しています。

ロシアにとっても、ウクライナにとっても、極めて核心的重要性を持つのがクリミアですが、そのクリミアへの物資を支える大動脈がクリミア大橋。

これまでもウクライナは2022年10月と23年7月の2回、クリミア大橋への攻撃を行ってはいますが、戦術的には、射程の長いATACMSを使えば攻撃はより容易になると思われます。防空システムを突破する対応が必要にはなりますが。

****ウクライナ軍、長距離ミサイルATACMSでクリミア大橋の攻撃を計画? レーダー撹乱用の米製デコイも使用****
<4月末にもアメリカから供与を受けたばかりの長距離ミサイル「ATACMS」がクリミア半島に飛来、橋は一時通行止めに>

ウクライナ軍が先週、アメリカから供与を受けたばかりの長距離ミサイルATACMS(最大射程300キロ)を使って、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島を攻撃。これにより、ロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア大橋が一時的に通行停止となった。

クリミア大橋に関する交通情報を定期的に更新しているテレグラムのチャンネルが、4月30日午前1時25分に「クリミア大橋は一時的に車両通行止めとなっている」との情報を投稿した。その後、通行止めは解除された。ロシア国防省は、6発のATACMSを迎撃したと発表した。

道路橋と鉄道橋が並行する全長約19キロメートルのクリミア大橋は、ロシア軍の重要な補給路として利用されており、ロシア軍がウクライナ南部で攻勢を維持する上できわめて重要な存在だ。クリミア奪還を目指すウクライナ側は2022年10月と2023年7月にこのクリミア大橋を攻撃しており、今後も攻撃を行うと宣言している。

ロシア軍が占拠しているウクライナ南部ザポリッジャで活動する親ロシア団体「We Are Together With Russia(我々はロシアと共にある)」の代表で軍事ブロガーのウラジーミル・ロゴフはテレグラムに投稿を行い、ウクライナ軍が4月29日の夜間にクリミア半島に向けてATACMSを発射したと述べた。

「ウクライナ軍が今夜、クリミア共和国に向けてミサイルを発射した」とロゴフは投稿し、さらにこう続けた。「クリミア半島の上空で、ロシア軍の防空システムが作動した。最新情報によれば、我々の防空システムは素晴らしい仕事をした」

米国製のデコイでレーダー撹乱か
(中略)ロシアの軍事ブロガーの間では、ウクライナ軍がクリミア大橋の攻撃を準備しているのではないか、との危惧が高まっている。

ロシア国防省とつながりのあるテレグラムチャンネル「Rybar(リバル)」は4月下旬、ウクライナ軍がクリミア半島への新たな攻撃の準備として、ロシア軍の防空システムとレーダーをかく乱するために、電子妨害能力を持つ米国製ADM-160B MALD(ミニチュア空中発射デコイ)ミサイルを発射した可能性があると伝えた。

同チャンネルは、クリミア大橋への攻撃はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の就任式よりも前に行われる可能性があると予想している。プーチンは3月に行われたロシア大統領選挙で勝利し、5月7日に通算5期目の就任式を迎える。

「ウクライナ当局は、象徴的なものが大好きだ。それを考えると、注目度の高いクリミア大橋を再び標的にする可能性はある」とRybarは予想した。【5月2日 Newsweek】
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アメリカは能力的にはロシア領内攻撃も可能なATACMSを供与していますが、イギリスからもロシア領内攻撃を認める発言が。
「ウクライナにはイギリスが供与した兵器でロシア領内の標的を攻撃する権利があり、実際に行うかどうかはウクライナ次第だ」(5月2日 キャメロン外相)

ウクライナ側の苦戦で、米英ともになりふり構っていられない状況にもなっているようです。
5月7日のプーチン大統領の就任式・・・二日後です。何か大きな作戦が行われるのでしょうか。
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