後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔663〕江古田映画祭オープニング映画「福田村事件」は、複合的重層的な差別構造を考えさせられる秀作です。

2024年03月09日 | 映画鑑賞

 2月24日(土)、以前にこのブログでお知らせした江古田映画祭のオープニングで映画「福田村事件」を観ました。会場はギャラリー古籐の真向かいにある武蔵大学の地下ホール。スクリーンが3つもある広い講義室でした。この映画はさすがに評判が高く、満席まではいきませんが、かなりの人を集めていました。
 ドキュメンタリー映画を数多く手がけてきた森達也監督による初めての劇映画でした。
 100年前、関東大震災の時に、 朝鮮人に間違えられて虐殺された被差別部落民の物語ですが、しかしながらそう単純な話ではなさそうです。彼らは香川県の讃岐からの薬の行商人一行ということで、根底には行商人差別も横たわっていました。
 練りに練られた脚本は佐伯俊道・荒井晴彦・井上惇一3氏の合作で、12稿までいったということでした。侃々諤々、脚本はどんどん書き換えられたようです。
 映画は、朝鮮から帰国した主人公夫婦、行商人、福田村(現・野田市)の村民、地元新聞記者などそれぞれの視点が複雑に絡み合っていました。
 なぜ虐殺がこんなのどかな田舎で起こってしまったのか、映画は息もつかさずドラマチックに展開していきます。少々どぎつく感じる性愛場面なども多く、飽きさせません。

 役者も一流俳優が勢揃いでした。井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、柄本明、ピエール瀧、豊原功補など。そして映画初出演の水道橋博士が虐殺を先導する役で凄みを出していました。本人の主張と真逆で、意外性があり適役でした。日本では外国と異なり、役者はこうした差別的事件をテーマにする映画出演を敬遠する傾向があるようですが、よくこれだけの役者が集まったものです。

 「福田村事件」を鑑賞して感心したことが3つありました。1つ目は映画そのもの、2つ目にシンポジウム、3つ目は当日販売していたパンフレットです。
 映画についてはもう書きましたので、シンポジウムに触れましょう。登壇者は脚本を書いたお三方、司会は武蔵大学の永田浩三さんでした。永田さんはこの映画を見るのは4回目で、福田村には学生たちと訪ねたということです。東京新聞に福田村事件のほぼ唯一の文献『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』(辻野弥生、五月書房新社)の書評を書いています。事件のことを実に詳しくご存じで、うまく登壇者の考えを引き出し整理していました。脚本家たちは監督の森達也さんについても忌憚なくコメントしていました。
 家に帰ってパンフレットを読んでまたうなりました。ゲストをそれぞれ迎えての監督や脚本家たちの対談や鼎談が実に率直でおもしろいのです。当たり障りのない談義はひとつもなく、けっこう批判的でシビアなことばも飛び交っていました。「主な参考文献」も大いに役に立つし、それに脚本が付いて1500円でお買い得でした。関東大震災を中心とした年表も充実しています。この時虐殺された数千人のなかには、朝鮮人、中国人だけではなく労働者や社会主義者、アナキストなど一網打尽にされているのです。(亀戸事件、大杉榮・伊藤野枝などの甘粕事件、金子文子・朴烈事件、など)

 こうした悲劇をなかったことのように振る舞う、現東京都知事にも是非とも見せたい映画でした。


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