2020年11月4日水曜日

インフラ建設ラッシュは無駄を生んだか?




はじめに

 1998年からの中国都市部の住宅民営化と2003年からの財産権の付与により、都市家族は自由に住宅を購入したり売却したり出来る様になります。特に自由市場価格で住宅を売却する事は彼ら都市家族に莫大な利益をもたらしたのです。こうした経済的背景から住宅への需要が生じ、住宅の建設ブームを巻き起こしました。
 そして同時期に住宅建設と共に急激に進んだのがインフラ建設でした。1997年に起きたアジア通貨危機に対応するための財政刺激策として、中国政府がインフラへの支出を加速させたのです。1997年から2014年までに急速かつ大規模に建設が進められたインフラには国営高速道路、港、発電所、インターネット網、高速旅客鉄道などがありました。これによって物流が大規模化・効率化され、中国経済も急速に成長していく事になります。またこれに伴い中国市民の生活は急激に便利になって行きました。
 しかし、このインフラ建設ラッシュ劇の動機には純粋な需要以外の部分もありました。例えば地方政府は当時の極めて低い利息率や急激に上昇する地価などを利用して容易にインフラ投資が出来たのです。また多くの地方政府の役人達は不必要なインフラを敢えて大量に建て、それによってその地方都市の管理階層における地位を無理やり高め、それに属する自分達の出世に繋げようとしていた事も動機の一つです。
 今回はこの大規模かつ急速なインフラ建設劇の中で中国が本当に必要なインフラをどれだけ建てる事が出来ていたのかを見ていきます。

熱狂的なインフラ建設に対する非難

 冒頭でもお話しした様に、中国の近年のインフラ建設ラッシュには地方政府に勤める役人たちの出世欲や利権などが絡んでおり、建設されたインフラ全てが中国市民の需要だけに応えたものであるとは言えない部分が結構あります。
 では中国で1998年以降建設されてきたインフラの内、一体どれだけが有用で、どれだけが無駄なのでしょうか?
 実際にはこの20年で導入されたインフラの多くは役に立っているし利益もきちんと生んでいます。しかし、中国の熱狂的なインフラ建設は、その規模が余りにも大きく、必要量であるとはとても信じられない為、しばしば非難の対象となってきました。

インフラ建設過剰であると非難する前に考慮すべき事

 中国のインフラ建設を過剰であるとか無駄であるとか非難する前に考慮しなければならない中国特有の背景があります。それは即ち中国と言う国の規模です。中国の国土の広さはアラスカも含めたアメリカ合衆国と同じ位であり、正に大陸規模の国です。そして人口はアメリカ合衆国の実に4倍以上を抱えています。だから、一見中国のインフラの量が過剰に見えても、人口一人当たりの基準でそれを見れば、無駄や浪費があるとは一概には言えないのです。
 例えばインフラの一種であるインターネット網について言えば、中国のインターネット利用者数は2014年時点で6億5,000万人に達しており、現在も拡大し続けています。アメリカ合衆国と同じくらいの広さの国に、その人口の2倍程のインターネット利用者がいるのですから、建設規模が大きくなるのは当然です。また人口密度が高ければ消費電力もそれだけ必要になりますから、それを賄う為には発電所をあちらこちらに建設しなければなりません。そして膨大な生産性を持つ中国国内の工場や農場から出荷される製品や農産物の輸送、輸出には道路や鉄道、港も必要になります。こうして考えると日本やアメリカに住んでいる人から見て建設過剰であっても、実際に中国の人口規模・経済規模から見るとそれは必要量なのかもしれないという事が分かります。

中国以外の先進国の常識

 中国のインフラ建設への投資はあまりにも軽はずみに行われている様に見えるかもしれません。
 しかしそれはアメリカやイギリス、日本などの裕福ないわゆる通常の先進国から見た場合の意見です。逆にこれらの国々の特徴とは何でしょうか?まず一つ目に中国とは違いゆっくりとした成長率で発展してきた国という事が言えます。二つ目にそれらの国々の主要となっている産業は三次産業であるサービス業であるという事があります。さらに三つ目に、これらの国々ではインフラが建設されたのが随分昔であり、今となってはインフラなどあって当たり前であると思われているという事も言えます。
 中国の場合これらはどれも当てはまらないのです。中国では経済成長が前例のないほど急速であり、主要な産業は農業や製造業、建設業などを主とした一次・二次産業です。そして中国ではインフラはまだ若く、本格的に建設が始まって20年程しか経っていません。

中国の経済成長速度と必要なインフラの容量

 中国のインフラ建設の熱狂を理解する為には先進国の常識では考えにくい規模とスピードで中国が発展してきた事をまず知らなければなりません。
 中国の過去30年間の経済成長率はその殆どの期間で年平均10%でした。これは7年毎にその国の経済規模が2倍になる事を意味します。経済成長率以外の条件が私達の国と同じであると仮定すれば、単純に考えて、中国ではこの30年間、7年毎に必要なインフラの容量が2倍に膨らんできたという事です。改革開放が始まった1978年のインフラ容量を1とすると、7年後には2、14年後には4、21年後には8、28年後には16の容量のインフラが必要になります。この凄まじい需要の拡大の仕方を見れば、例え信じられない程にインフラ建設の規模が大きくても、それが必要量であるという事が何となく想像できます。

まとめ

 建設過剰と言われる中国のインフラが、実際どの位需要に則した無駄のない物であるかを見てきました。
 まず結論として、この20年で建てられた中国のインフラはその殆どがきちんと機能しており、利益も出していました。従って無駄はそれ程ない様です。
 これを“過剰”や“無駄”と言ってしまう前にまず考えないといけない事は、中国の広大な国土や14億人と言う人口規模、年10%と言う経済成長速度、そしてまだ主要な産業が1次産業、2次産業である経済であるという事、さらにインフラがまだ当たり前ではない地域が国内にあるという事でした。
 こうした条件下では、7年毎に必要なインフラ容量が2倍に膨らむ為、こうした需要に応じる為には一見過剰ともいえる規模のインフラ建設が必要である事が分かりました。






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