与太郎の館 - 短編小説・SF小説・随筆など -

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第7章(最終章) ~ 夢の島 ~

 

 

 

<2970年 無人島>

無人島に雷が落ちて、Q太郎は蘇った。

 

「東京タワーのアンテナを折る」という、Q太郎のわけの分からないミッションが、またしても始まった。

かに見えたが・・・。

少しQ太郎の様子が違う。

 

Q太郎は、海岸線とは逆の方向へ進み、森の中に消えた。

そして2時間ほどすると、何やらたくさんの物を引きずりながら、森から出てきた。

伐採したばかりの数本の木材と、掘り出したばかりの多くの芋類だった。

Q太郎は、海岸線までそれらを運ぶと、木材でイカダを作り、その上に芋を積んだ。

 

Q太郎がなぜこのような奇妙な行動をとったかは分らない。

どうも、100年前に山田会長がQ太郎に詰め込んだ石焼き芋が、プログラムに何か影響を及ぼしているようだった。

 

Q太郎は、長い紐の端を自分の胴体に結びつけ、もう一方の端をイカダに結んだ。

泳いでイカダを引っ張り、太平洋を渡るつもりらしい。

 

Q太郎は足から海に入り、水平線に向かって歩きはじめた。

海水が胸の高さに達した時、泳ぐために両腕を高速回転させた。

Q太郎に内蔵されたAIは、腕の回転数、トルク、いかだの重量を瞬時に計算し、

「東京湾ニハ35時間デ到着シマス」と告げた。

 

Q太郎は、腕を高速回転させながら体を前に倒し、泳ぎ始めると同時に沈んだ。

鉄は水に沈む。

そのことをAIは見落としていた。

 

Q太郎は、こんどは巌流島に向かう宮本武蔵のように、イカダを一本の櫂(かい)で漕ぎ、歩くより遅いスピートで進んだ。

そして予定より約1ヶ月半遅れて、芋を乗せたイカダを引きずりながら、深夜の東京湾に到着した。

もしも東京湾で佐々木小次郎が待っていたら、あまりの遅さに怒り狂っていただろう。

しかしQ太郎を待つ者は誰もいない。

Q太郎は、芋を乗せたイカダを引きずりながら、東京タワーを目指した。

 

東京タワーに到着したQ太郎は砂利を集めて熱し、芋を焼いた。

翌朝、東京タワー遺跡を見物に来た人達は、物珍しげにQ太郎の周りに集まってきた。

2970年に暮らす人たちは、芋という植物の存在は知っていたが、それが食べ物だという認識はない。

するとQ太郎は焼き上がった芋を、目の前の5歳くらいの女の子に差し出した。

 

女の子はいい匂いがするので、思わず口にした。

「おいしい! ママ、これおいしいよ!」

「だめですよ!知らないロボットから物をもらって食べてはいけません!」

ママはそう言いながら娘の持っている芋をつまんで食べた。

おいしかった。

 

すると次から次へと人が集まり、、またたく間に芋がなくなった。

Q太郎は、再び無人島に行き、芋を持って3ヶ月後に東京タワーに戻ってきた。

そしてまた芋を焼き、人々に振るまった。

その噂が口コミで広がり、Q太郎が来たことを聞きつけた多くの人たちが、東京タワーの周りに集まった。

 

その人気に目をつけたのが大手食品会社の社長だった。

「芋が食べられることを初めて知ったなぁ。こんな美味しい芋をどこから運んでくるのだろう?」

そう思った社長は、2人の名探偵、金田一光彦と、浅見耕助を雇い、密かにQ太郎の後をつけさせたのである。

 

この2970年という時代は、科学が飛躍的に発達している時代である。

乗り物に目的地さえ告げれば、世界中のどこへでも空を飛んで瞬時に移動してくれる。

 

しかし、歩くより遅いイカダを尾行するのに、超スピードの乗り物など何の役にも立たない。

そこで金田一は考えた。

 

金田一

浅見くん。私たちもイカダをつくろう。

そして気づかれないように、イカダで尾行しよう。

 

浅見

え?、あ、はい。

さ、さすが金田一さんです。

普通の人が考えつかないようなことを考えますね。

大賛成です。

 

金田一

そう思うかね。

私には、一瞬で思いつくことだがね。

ワッハッハッハ・・・。

 

金田一は、浅見の忖度に気づかず、満足そうに笑ったが、もくろみは見事に外れた。

 

この時代、生身の人間がイカダで太平洋を渡るなどあり得ない。

目立たないどころか、上空を飛び交う多くの人々の目に止まり、その動画がSNSで配信された。

テレビのニュースにもなり、テレビ局の未来型無人ヘリが毎日上空を飛び、二人にカメラを向けた。

 

その状況の中で二人は、Q太郎に気づかれないように一定の距離を保ち、Q太郎を何度も見失いながら後を追いかけた。

その道中、何度も嵐で難破しそうになりながら、ようやく1ヶ月半後に無人島に到着した。

 

ヒゲはぼうぼう、服はボロボロ、漂流者のような姿で、二人は無人島の浜辺に立った。

テレビ局の未来型無人ヘリは、二人の疲れ果てたアップの姿をライブ映像で世界に流し、去っていった。

 

金田一

浅見くん、私が立てた作戦は成功したようだね。

見つからずに、尾行することが出来たようだ。

 

浅見

あ、はい、その通りですね、金田一さん。

世界中に映像が流れてしまいましたけど、ロボットには気づかれずに尾行できたようです。

普通の人ならレーダーを使うでしょうけれども、そんな素人のような尾行をしたら、我々名探偵の名に傷がつきますよ。はい。

 

金田一

よく言った浅見くん! その通り!

君も名探偵と言われるだけのことはある。

大したもんだ。ワッハッハ・・・。

 

浅見

あ、ありがとうございます。

ハッハッハ・・・。

 

浅見の言うとおり、レーダーで監視すればQ太郎の行き先は簡単に分かったはずだし、場所が特定できてから乗り物で移動すれば、1分もかからずに無人島に着いていたはずだ。

そうすれば、人に気づかれることなく、危険な目にも遭わず、さらに1ヶ月半を無駄にせずに尾行できたはずである。

浅見はそれが分かっていながら忖度したことを、内心後悔した。

 

無人島の海岸についたQ太郎は、イカダを引きずりながら森の中へ入って行った。

金田一と浅見は、Q太郎のあとを、そうっと尾行した。

すると突然森がひらけ、一面に芋畑が広がった。

 

驚いた顔で呆然と立っている二人に向かって、Q太郎は振り返って語りかけた。

 

Q太郎

金田一サン、浅見サン、ヨウコソ。

 

金田一

え!俺たちの名前を知っているのか?

 

Q太郎

ハイ、イカダニ乗ッテ来ラレタノデスヨネ。

嵐ノ時ニ、オタスケシマシタ。

ゴブジデナニヨリデス。

 

金田一

ああ・・・・・・そ、そうだね。助けてくれたのは知っていたよ。

・・・・・・ありがとう。

でも、名探偵というのはだね、たとえ尾行に気づかれても、それでも根性で尾行を続けるものなんだ。

それがプロというものだ。

そうだよね、浅見くん。

ワッハッハッハ・・・・

 

浅見

金田一さん・・・・。もうやめましょう。

私は分かっていましたよ、バカバカしい追跡方法だって。

レーダーで追跡すれば、1ヶ月半無駄にしなくて済んだし、乗り物で来れば帰りも一瞬で帰れたでしょう。

金田一さんの言うことを聞いてイカダにしたけど、自分たちが尾行しているロボットに助けられるなんて、どこが名探偵なんですか?

助けれくれたロボットにまで見栄を張ることはないでしょう。

 

金田一

浅見くん、何を言うんだね。

私だって、君が考えた作戦など、はじめから分かっていたよ。

直ぐに思いついたよ、・・・・・・もちろん。

でもね、名探偵というのは、足で稼ぐもんだろう。

そう思わないかね。浅見くん。

 

浅見

まあ、そうですけど・・・。

(浅見は無駄だと思って口をつぐんだ)

 

金田一

やっぱりそう思うだろう。

勉強になったかね。

ワッハッハッハ・・・・ワッハッハッハ・・・・・はぁ・・・・・・

でも・・・・・・

浅見くんの言うとおりかもしれないなぁ。

名探偵と人から言われるのも大変だよ。

名探偵のメンツを守らなければいけないからな。

いっそのこと、この自然豊かな無人島で暮らせたら、メンツなど気にする必要などないんだがなぁ。

 

金田一は、疲れていたせいか急に弱気になった。

 

浅見

そうですよ、金田一さん。

いっそのこと探偵なんかやめましょうよ。

 

金田一

え? 名探偵のこの俺が探偵をやめるだと?

これから難事件が起こったら、いったい誰が解決するんだ。

 

浅見

金田一さん。

私たちはイカダで尾行して、ボロボロになった姿を、映像で世界中に流されたんですよ。

心配しなくても、今後、我々に難事件を依頼する人などいませんよ。

難事件どころか、浮気の調査依頼だってこないでしょう。

 

金田一

そんなものかなあ・・・。

まあ、未練もあるけど、思い切ってやめてみるか。

 

イカダでの航海中、見栄ばかり張っている金田一に、浅見はうんざりしていたが、無人島に来てから二人は急に打ち解けて、心の距離が近づいた。

浅見は、こんどはQ太郎に話しかけた。

 

浅見

ところで、あんた何ていう名前のロボットなんだ?

ロボットは、「鉄人あずさ28号」と「丁半太郎」しか知らないけど。

 

Q太郎

私ハ、Q太郎ト申シマス。

2870年製のロボットです。

 

Q太郎は、2870年に作られた街の監視ロボットで、人の道案内をしたり、警察に協力したりする公共用監視ロボットだったこと、そしてその100年後に蘇ったことを二人に語った。

しかしQ太郎は、蘇るに至った経緯については知らない。

電源がOFFになったことと、電源がONになって蘇ったことだけが、Q太郎のAIに記録されていただけである。

 

浅見

なるほど、監視用ロボットだから、尾行している私たちが逆に監視されていたということかあ。

メインコンピュータにアクセスして、私たちの名前も分かったってことだね。

それじゃ隠しようがないな。

でも100年前の監視用ロボットが、なんで芋なんか焼いて配ってんの?

 

Q太郎

分カリマセン。

ソレガ、私ノミッションデス。

 

金田一

まあ、いいじゃないか。

それよりも、いい案を思いついた。

せっかく無人島に命がけで来たんだ。

みんなでここで暮らさないか。

食べ物に困ることはなさそうだし。

そうだ!ここに楽園を造ろう。

 

浅見

楽園?

 

金田一

そう、芋の楽園だよ。

 

浅見

なるほど。いいね、やりましょう。

Q太郎も協力してくれないか?

一緒に楽園をつくろう。

 

Q太郎

ワタシは、東京タワーデ、芋ヲ配ラナケレバナリマセン。

ソノヨウニ、プログラムサレテイマス。

 

浅見

構わないよ。

私たちはずっとここにいるから、Q太郎は時々東京タワーに行って芋を配ってくればいい。

 

こうして、無人島で芋畑の開墾がはじまった。

さつま芋、じゃが芋、紫芋、里芋など、さまざまな芋が、この無人島で栽培された。

すると飛行中の人々の目に止まり、「何をやっているんだろう?」と、立ち寄る人達が増え、噂はまたたく間に広がった。

噂を聞いて無人島に訪れる人達に、金田一、浅見、Q太郎は、焼きたての芋を販売し、飛ぶように売れた。

次第に無人島は栄えていき、島に移り住む人たちがどんどん増えていった。

無人島はこうして、世界の観光名所となったのである

 

さらにはサミット会議も開かれるようになり、人々はこの島を「夢の芋島」と呼ぶようになった。

そしてローマ字のような和製英語、「Yume Imo Irand」という名前で世界遺産に登録されたのである。

 

一人の焼き芋屋のおじさんが、時空を超えて未来に石焼き芋を届けたことによって、

東京タワー遺跡は救われ、財前と森田の立場は守られ、山田の汚名は返上され、

そしてただの無人島が世界遺産になったのである。

 

この芋屋与兵衛の「英雄伝説」を永遠に語り継ぐべく、

「ターミネーター外伝」として世に残すものである。

 

終わり

 

~ エピローグ ~

 

芋屋与兵衛の功績を世に残すために、映画「ターミネータ外伝」の制作に乗り出し、脚本のつもりで書いて映画会社送り、後日訪問したのだが、担当者に丁重に断られてしまった。

 

断られた理由は、

1、SF映画とは言えない、という評論家の意見が多い。

2、制作を引き受ける映画監督がいない。

3、主役を引き受ける俳優がいない。

4、時空を移動したのは、ターミネーターではなく、焼き芋屋のおじさんだった。

ということだった。

 

だが、私が推測するには、映画会社が断った本当の理由は、「ターミネーター」の名前を使用する許可申請の手続きが難しいからだろう。

先ほどお茶を出してくれた女の子が、遠くで同僚とヒソヒソ話をしている。

きっと、申請手続きを渋っている映画担当者にやきもきしているのだろう。

そう思った私は、映画会社の人に、「私が、ジェームズ・キャメロン監督と直接交渉しましょうか?」

と言ったが、「それだけはやめてください」と止めるのだ。

そこでしかたなく、この芋屋与兵衛の英雄伝説を、ブログとして書き残すことにしたのである。

 

しかしこの先、何が起こるか分からない。

このブログを読んだ映画関係者の方から声がかかるかも知れない。

そのときのために、

僭越ながら一応希望するキャストだけは書いておきたい。

 

◇◇◇◇◇

希望キャスト

 

芋屋与兵衛  (加藤一ニ三)

Q太郎 (声:澤部 佑)

鉄人あずさ28号 (声:厚切りジェイソン)

財前六三郎 (マキタスポーツ)

森田添削 (森田健作)

山田次郎 (坂田利夫)

金田一光彦 (志茂田景樹)

浅見耕助 (ゴルゴ松本)

クラブのママ明美 (やしろ優)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

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