氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

なぜ賃上げなのに「海外なんて高くて行けない」

「まず賃金が上がる。その結果、消費が活発化し、企業収益が伸びる。それを元手に企業が成長のための投資を行うことで、生産性が上がり、賃金が持続的に上がるという好循環が実現する」「今、我々は、デフレから完全に脱却する千載一遇の歴史的チャンスを手にしています」

安倍内閣以来、10年以上にわたって言い続けながら実現しなかった「経済好循環」を達成すると力強く宣言したのです。  

確かに大企業を中心に賃上げが進んでおり、連合が3月15日に公表した春闘の第1回集計では、賃上げ率が5.28%と1991年以来33年ぶりの5%超えとなりました。

第1回集計は積極的に賃上げに応じた大企業が多く含まれるので、最終的に全体で5%を超えるかどうかは微妙ですが、前年に続いて賃上げムードが高まっていることは確かです。

だが一方で、物価も上昇を続け、総務省が3月22日に発表した2月の消費者物価指数は、「生鮮食品を除く総合」で前年同月比2.8%の上昇でした。

政府は巨額の補助金を投じてガソリンや電気料金の抑制を行っているから、実態を見るには、その効果が除外される「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数がふさわしいが、これは3.2%上昇しています。  

中小企業の賃上げは大手並みとはいかないので、この物価上昇率を賃上げ率が超えられるかどうかが大きな焦点になっています。いくら名目の賃金が上がっても、物価上昇に追いつかなければ、消費量を増やすことは難しいから、岸田首相のいう賃金上昇の結果「消費が活発化」することには繋がらりません。  

今、政府も日銀も歴史的に稀な「実験」を行っています。物価の上昇を許容することで経済好循環が始まる、としているのです。

岸田首相の発言も「物価と賃金の好循環を回し、新たな経済ステージに移行する」と言うのです。新たなステージとは、「賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を、社会全体に定着させ」ることです。  

本当に「物価が上がれば、賃金が上がる」のでしょうか。確かに、儲かっているのに賃上げをせず、内部留保を蓄えてきた大企業は、物価上昇で困窮する社員の不満を和らげるために賃上げをする余力があるでしょう。

しかし、多くの中小企業は物価上昇の中でそれに上乗せして賃上げを行う余力に乏しく、政府は企業に対して、コスト増加分を価格に転嫁することを「奨励」しています。

下請け会社の納入価格引き上げを受け入れるよう中小企業庁公正取引委員会を使ってハッパもかけています。

だが、考えれば分かることだが、そうして価格転嫁が進めばさらに物価が上昇するわけで、結局は賃金上昇率が物価上昇率に追いつかないということになります。

物価を上昇させれば「物価と賃金の好循環」が起きるというのは経済政策的には過去にない実験です。  

日銀はゼロ金利政策の解除を決め、金利上昇が起きるのかと思いきや、植田和男総裁は「マイナス金利政策を解除しても当面緩和状態は続く」と発言しています。

通常は物価上昇、つまりインフレを抑えるために金利を引き上げるというのが教科書通りの手法ですが、金融緩和状態が続くといいます。この発言を受けて、外国為替市場では円安が進んでいます。

マイナス金利を解除すれば日米金利差が縮小して円高になると言ってきたエコノミストや為替アナリストの見立ては外れました。ドル円相場は1ドル=152円直前まで円安が進み、1990年以来34年ぶりの円安水準になりました。

政府と日銀は一体となって「円安・物価引き上げ」政策を採っています。円安が進めば、輸入物価は上昇し、タイムラグを置いて消費者物価が上昇します。岸田首相が言う「物価が上がれば、賃金が上がる」という理論を実践しているようにみえます。  

だがそうした円安政策は、日本人を貧しくしているだけではないでしょうか。1ドル=151円台後半が34年ぶりと報道されていますが、これは正しくありません。34年前の1ドルと現在の1ドルではまったく価値が違うからです。

しかもここ数年の米国でのインフレによってさらにドルの価値は下がっています。つまり、日本円の価値は34年前どころかさらに下落しています。  

それを示すのが「実質実効為替レート」。円の実力を示す指数です。これによれば、2020年を100とした指数で2024年2月は70.25と2023年11月の71.44を下回って過去最低を記録しました。

1ドル=360円だった1970年1月の75.02を大きく下回っています。円の力は1ドル=360円時代よりもさらに劣化しているのです。

海外へ行ってレストランに入れば、日本円の弱さを痛感します。 

逆に言えば、日本の株高も物価高も「円の劣化」の反映と言える。円建ての株価が大きく上昇していますが、ドル建てで見れば上昇率が低いのです。

もちろんドル自体も劣化しているから、それでも過剰評価かもしれません。例えば、世界史上の初期から通貨として価値保存に使われてきた金1グラムの円建て小売価格は、1月4日に1万375円だったものが3月27日には1万1773円になりました。

13%も上昇しています。日経平均株価の20%の上昇のうち、13%は「円の劣化」で説明が付くということになります。  

つまり、株価が大きく上昇しているのは、日本経済が復活すると世界の投資家が見ている結果というわけではないのです。  

今、日本株やマンション価格の高騰を「バブルだ」という人がいますが1980年代後半のバブルを知っている人からすれば、その様相はまったく違うと感じるでしょう。

当時、土地や株価など資産価格の上昇は広く一般庶民の消費行動も大きく変え、まさに消費バブルが起きました。1台500万円以上の高級車が飛ぶように売れ、日産の自動車の名称から「シーマ現象」と呼ばれました。

消費に一気に火がつき、企業収益も一気に改善し、その後の大幅な金利の引き上げや不動産融資の規制強化で一気に「バブル」が潰れることになります。

今の株価上昇を「バブル」だと呼ぶとすれば、かつてのバブルとはまったく様相の違う「円劣化バブル」と言えます。

そんな円劣化が悪性のインフレ(物価上昇)に火をつければ、一般庶民の生活は一段と苦しくなり、消費を増やすどころか、生活を守るために倹約に拍車をかけ、消費を抑える方向に行きます。

もちろん、株高の恩恵を受ける富裕層は消費を増やすかもしれませんが、日本経済全体としての好循環が始まるのかどうか不明です。  

円の劣化はドルなど外貨で稼げる企業や人の収入を実態以上に大きく見せ、海外子会社が同じ利益を上げていても、円安が進めば円建ての利益は増えます。

しかし、大半の企業は日本円に転換して利益を国内に持ち込むわけではないので、日本の従業員の給与が増やせるわけではありません。

また、日本国内だけで商売をしている会社やそうした企業の従業員は、円の劣化によるコスト上昇を価格に転嫁すれば、販売自体が落ち込むことになりかねず、値上げすらできません。国内型産業は、円の劣化がモロにマイナスになります。  

物価上昇を起こせば賃金が上がり、生活が良くなる――。今政府が進めている「壮大な実験」がどんな結果をもたらすことになるのか。その結果が出る時に日本の国民がどんな影響を受けるのか、今の段階では見通せません。

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