ウクライナ戦争の200日(小林 悠・著) | 今日は何を読むのやら?(雨彦の読み散らかしの記)

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ウクライナ戦争が始まったのは、北京の冬期オリンピックが閉幕した2022年2月。

もう2年以上が経つという時に、開戦後「200日」、約半年後に刊行された本を読もうとする私は、(いつもながら)ズレている。

しかし、なにごとも、「遅すぎる」とすぐに諦めてしまうのもよくない。

 

そう思いながら読んでみたこの本だが、けっして賞味期限切れの書物ではなかった。

最初の半年の時点では予想されなかったような出来事が、その後にはもちろん多く起きてきているが、一貫して変わらないことがあることもわかる。

 

想定を上回るほど圧倒的な火力(そして核兵器も)を保有し、「本気を出せば勝てるが、あえてそうしない」というポーズを見せながら、執拗な攻撃をやめないロシア。

 

一方、火力ではロシアに大きく劣るが、西側からの軍事援助、ドローンやジャベリン(携帯型ミサイル)やなどの新型兵器、そして地の利を生かしながら、必死に反撃を続けるウクライナ。

 

緒戦でのロシアの作戦失敗がその後の戦況に大きく響いたという側面もあるが、ウクライナ戦争は膠着状態に入りこみ、終結の出口の光は見えない。

 

それにしても、この大きく戦争がこれほど長期化するという予想が、当初どれだけあっただろうか。

(もともと、これほど悲惨で野蛮な戦争が、この時代に起きること自体が予想外だったということもあるが)

 

初期には、ロシアの政権が早期に倒れるなどという予想が語られたこともあったが、そうした異変も起ってはいない。

そして昨年秋から続くイスラエルのガザ侵攻も加わり、世界はますます混迷し、危機は深まっている。

 

本書のあとがき(「おわりに」)で、小林氏は言う:

「本書に収められた対談は、開戦後のかなり初期段階でなされたものを含んでおり、それゆえに情報が誤っていたり、見通しを外したりしています。

そうした間違いも、本書では基本的に当時のままを再録しました」

「戦争が始まってから一カ月時点、あるいは三カ月時点で我々が何を考えていたのか。何を恐れていたのか、これもまた本書が伝えたい「空気感」であるからです。その上で、収められた七本の対談がホログラムのようにして何らかの立体像を読者の中に結ぶなら、本書の目論見は成功ということになるでしょう」

この本は、ロシアの軍事・安全保障の専門家である小林氏と、様々なジャンルの識者との対談形式になっていて、前回に取り上げた「訂正する力」の著者・東浩紀氏も対談者の一人として冒頭に登場する。

 

東氏が「訂正する力」で語られている通り、対談は語り手の本音を表出させる。

「テルマエ・ロマエ」の漫画家・ヤマザキマリ氏、アニメ「この世界の片隅に」の監督・片渕須直氏など、様々な人物が対談相手になっているが、対話を通して対談者の中からプリズムの光のように引き出されてくる言葉は、これまで抱いていたこの戦争への見方が、無自覚に偏りがちだったことを教えてくれる。

 

確かに、このひどい戦争を始めたのはプーチン大統領であり、ロシア国内にもこの戦争に反対する人々も少なからずいる。また、憲法に書き込まれた民主主義の実現を求める声もある。

一方で、現政権がメディア統制や情報操作、政敵の排除などの権謀術数だけで、国民の強い支持を維持することもまた難しいだろう。

 

けっして、ロシアのウクライナ侵攻に正義があると考えることはできない。

どんな理不尽な戦争にも、正義があると主張することはできるだろうし、その土地に住む罪のない人たちの生活を踏みにじる戦争に、「正義」という言葉を当てることは空しい。

 

しかし、同時に知っておかなければいけないことは、ロシアにウクライナ侵攻を踏み切らせた背景には、東西冷戦への勝利の成果を過信した西側世界の誤算があるということだ。

かつて冷戦を終わらせ、生前はウクライナ戦争の停止をよびかけていたゴルバチョフ元大統領(2022年8月死去)も、NATOの東方拡大を批判していた。

たとえプーチンが一人倒れたとしても、根本的には変わらない問題、対立構造がある。

 

 

中国情勢に詳しいルポライターの安田峰敏氏や、ドイツ人通訳・翻訳者のマライ・メントライン氏との対談でも示されているように、日本も含め西側諸国の多くの人は、これまでロシアの人たちの考え方を理解してきていなかったし、今もその無理解が大きく変わったとは言い難い。

 

また、米国との対立が深まる中国が、ロシアとの連携を強めているが、中国の人たちが西側世界に対して抱いている心情についても、十分に理解できているとは思えない。

 

対立する相手を、ただ憎んだり、恐れているだけでは、次の道を思い描くこともできない。

 

その意味で、この戦争について考えることは、ロシアとウクライナの関係だけでなく、現代世界のありかたについて理解を深めるためにも重要なのだと思う。

 

一日も早く戦争が終結して欲しいという願いも空しく時が流れてきているが、今も続く戦争から目をそらしてはいけないだろう。

 

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今日もお読みいただき、ありがとうございました。

 


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