「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.237 ★ 中国・上海の公園で「親の代理婚活」が名物化!収入、学歴…個人情報をチラシでばらまく深刻な事情

2024年04月04日 | 日記

DIAMOND online (王 青:日中福祉プランニング代表)

2024年4月2日

上海の人民公園 Photo:PIXTA

中国・上海の人民公園では週末になると自然発生する「親の代理見合い」が名物になっている。公園に親たちが集まって、子どもの代わりに結婚相手を探すのだ。親たちはなぜ公園に通い続けるのか。筆者は数年ぶりに週末の人民公園を訪れこの名物イベントが徐々に様変わりしているのを目の当たりにした。少子化や高齢化、世代間ギャップ……ここには中国社会のさまざまな社会課題が凝縮されている。(日中福祉プランニング代表 王 青)

「親の代理見合い」が行われる上海の人民公園 自発的に始まった「婚活」が、名物イベント化

 中国・上海の中心にある「人民広場」の北側に、「人民公園」という公園がある。面積14万平方メートルと大きく、緑豊かで、上海市民の憩いの場として親しまれている公園だ。一方、この公園は週末になると別の顔を見せる。通称「人民公園相親角」(お見合いコーナー)と呼ばれる、「親の代理見合い」が開催される場となるのだ。

 2005年頃から自発的に始まった、親たちによる「婚活」は、今やすっかり上海の名物となった。当初は地元の親たちだけが参加していたが、次第にはるばる地方からも参加者が集まるようになり、国内外の観光客からも「見てみたい」と注目を集めるほど知名度が上がっていった。インフルエンサーがカメラを手に持って実況中継をしたり、マイクを持って歌を披露する人がいたりして、賑やかに盛り上がっている。おかげで今や、土日の人民公園はいつも大変な賑わいである。

 先日、天気が良く暖かな日曜日の午後に、久しぶりに人民公園を訪れてみた。地下鉄2号線の「人民広場駅」から地上に上がり、少し歩いて人民公園の五号門に近付くと、人の声が聞こえてきた。

 大勢の人たちをかき分けて公園の中に入ると、小道の両サイドには、緑地を囲むコンクリートの段差に座った多くの親たちが見えた。彼らの足元にはA4サイズ程度の大きさの紙が置かれており、そこには自分の子どもの生年月日や身長、学歴、収入、経済力といった情報が詳細に書かれている。中には、チラシを首から下げたり手に持ったりして歩き回る親もいた。

 

上海・人民公園に集まる親たち(筆者撮影) 

 そんな親たちが、ざっと見て数百人はいる。一番目立つ見晴らしがいい場所は、地元・上海戸籍の親たちの領域になっている。奥に行くにつれて道が狭くなり、緑が茂ってうす暗くなっているあたりには地方出身の親たちが集まる。そこでは上海語の代わりに、各地の方言が聞こえてくるのだ。そして公園のもう一角、日当たりがよく広々としたスペースは「海外角」(海外コーナー)となっており、そこに置かれたチラシは全員海外在住者か、留学経験者のものだった。こんなところにも格差があるのだ。

チラシの書き方はほぼ統一 “傘に貼る”から“地面に直置き“に変わった理由

 チラシの内容は大抵似ている。例えば娘の場合は「女、上海戸籍、1989年9月生まれ、身長164cm、博士号取得、国営企業勤務、持ち家・車あり。希望する相手は身長175cm以上、学歴は修士かそれ以上、月収3万元(約60万円)以上。持ち家あり、心身ともに健康で、家庭に責任を持つ人」といった具合だ。息子の場合は「1991年生まれ、179cm、75kg。学歴は大卒、民間企業勤務。月収2万元(約40万円)、結婚用の110平方メートルのマンションを所有。希望相手は上海戸籍で5歳以上若く、身長160cm以上の容姿端麗な大卒女性」など、子どもの詳細と相手の希望条件が記載されていた。

チラシに書かれている内容は、子どもの詳細な情報と、結婚相手に求める条件(筆者撮影) 

 中には「両親は公務員で定年、健康」と親の状況を書いたり、「単親家庭出身は不可」など、相手の親に求める条件を細かく示したりするチラシも多くみられた。印象的だったのが、上海戸籍の人たちは男女問わず、相手にも上海戸籍であることを求めていた点である。これは、中国では地域間の貧富格差が大きいのに、都市部と農村部や、都市間の戸籍が固定されており、自由に移籍できないためだ。

 以前、筆者が2019年に訪れた際は、チラシを直に地面に置くのではなく、開いた傘に貼り付けていたのだが、今回はそうした傘を見かけない。気になって公園の警備員に聞いてみると「以前、親同士で喧嘩になったときに、傘を武器にして攻撃する人がいたので、危険だから禁止した」からだそうだ。

5年前に人民公園に来たときに撮影した写真。当時はチラシを地面に直に置かず、傘を開いて貼り付けていた。(2019年、筆者撮影) 

 一人なのに、何十枚ものチラシを並べている人もいた。話を聞いてみると、彼ら彼女らは「代理婚活業者」で、来られない親の代わりにチラシを扱い、興味がある人がいたら代わりに連絡先を教えるサービスを行っているのだという。料金は1枚150元(約3000円)/月で、20枚程度扱うと、月3000元(6万円)ほどの収入が得られるという。実質的にはただ公園で座っているだけなのだが、上海市の高齢者の平均年金4500元(9万円)からすると、かなりいい収入になる。

 こうした「親代理の婚活」は、上海だけでなく中国各地で行われている。親たちの多くは、子どもたちに内緒で公園に来ているのが実情だ。本人に許可を取るわけでもなく、娘や息子の学歴や収入、資産などの情報を公開しているようすは、婚活市場というよりは“物々交換市“に見える。

親世代は「子孫を残さないことは最も親不孝」と思い 子世代には「不婚不育」が拡大している

 なぜ親たちはこんな行動を取るのか、それは、「無後為大」(子孫を残さないことは最も親不孝)という中国の伝統的な家族観に起因する。しかも一人っ子政策のため、多くの家庭に子どもは一人しかいない。ここに来ている親の子どもは大抵一人っ子なのだ。

地面にチラシを並べ、座っている女性たち(筆者撮影) 

 2019年から、人民公園の「親代理見合い」現象を考察調査し続けている上海大学社会学院の計迎春教授は、「中国の家族の関係は、実は世代間関係に埋め込まれている。親子の関係は非常に密接で、結婚は本人同士の問題ではなく、家系継承と存続に関わる大きな問題だ」と説明する。

「公園にいる親はほとんどが中流家庭で、農村出身者や低所得家庭は登場しない。中流層が求める結婚の条件は、ある程度社会全体の変化や価値観を反映している。例えば、男性側は、社会的地位や収入が自分より上の女性を嫌がる。男性は経済力が大事、女性は子育ての“機械”という考え方が依然として根強いためだ」(計氏)

 中国全体で見れば結婚適齢の独身男性は女性より3000万人多いと言われているが、都市部の婚活市場においては、女性の方が圧倒的に人数が多い。

 こうした背景に加えて、相手の愛情よりも経済状況を重視する拝金主義が中国の若者の間には広がっている(https://diamond.jp/articles/-/269407)。近年、中国の政治環境の変化や経済低迷により、若者が“生きる”環境が厳しくなっている。中国国家統計局によれば、2月、若者(16~24歳)の失業率は15.3%と1月より悪化した。高い失業率や将来への不安によって、結婚や出産に対して若者が消極的に、悲観的になっているのだ(https://diamond.jp/articles/-/339036)。SNSでは「自分さえ養えないのに、どうやって家族を持てるのか」「結婚は一番コスパが悪い」といった書き込みがあふれている。若者世代では、結婚や出産を控える「不婚不育」が大きなトレンドになっている。

 実際、2022年の婚姻件数は683万組と、10年前の約半数に減った。出生数も23年には902万人と1949年の中国建国以来、過去最低を記録。7年連続で出生数が減少中で、少子化が深刻である。

 親世代と子世代でこれほど価値観にギャップがあるのに、当事者不在の「親代理の婚活」に、効果はあるのだろうか。上述の公園警備員は「成功率は低いよ。数パーセントと聞いている」と話す。「でも、ここに来れば同じ境遇の人がいるから、精神的に救われるんじゃないかな」とも。

ほとんど成立しないことは分かっているのに 親たちはなぜ公園に通い続けるのか

 それでも親たちが公園に通い続ける理由は何なのだろうか。公園で出会ったある一人の母親が、「誰かに話を聞いてほしかった」と言わんばかりに詳しく話をしてくれた。

 彼女は54歳。公園に通うようになって3年経つ。一人娘は30歳になったところだ。「だんだん難しくなってきている感じです。上海では、独身の女性のほうが男性よりも多い。女性はどうしても自分より社会的な地位や収入が高い男性を求めるから」と彼女は嘆く。

「娘は私がここに来ていることは知っているけど、まったく無関心です。我々親がいくら焦っても意味がないですよね。もうそろそろやめようかなと思っています。最近、逆に娘に説教されることが多くなりました。結婚するメリットとデメリットを比較されてね。(略)以前は、子どもが結婚しなかったら、肩身の狭い思いをしたけれど、今はみんな結婚しないから。私のような親がすごく増えているので、だんだん子どもが結婚しない現実を受け入れられるようになった」と少しホッとしたような表情を見せた。

 上述の許教授は、「調査した親の約半数は、子が結婚しないことを受け入れている。特に女親は男親よりも寛容度が高い」と指摘している。

一方、同じ人民公園で、高齢者同士がお見合いをしている

 一方、人民公園の他の一角では、高齢者同士が見合いする光景が見られた。代理見合いのエリアに負けず劣らず賑やかだ。これは近年、中国各地で見られる光景である。

 経済発展とともに都市開発が進み、昔のコミュニティが崩壊した。急速に高齢化が進む中で一人暮らしの高齢者が増え、“孤独”も大きな問題になっている中で生まれた現象といえる。真剣に伴侶を探しているというよりは、同じ状況の高齢者が集まることで、心の安らぎや孤独の解消に役立っているのだろう。

 近年の中国は、経済成長が著しく、最先端の技術を誇り、人々は豊かになった。しかし今回、人民公園の一角で見たものは、“お金が第一”な社会風潮、昔と変わらぬ人々の意識、地域間の格差・差別など、急成長した社会のさまざまなひずみであり、なんとも複雑な気持ちとなった。少子化、高齢化、世代間の価値観ギャップ――上海の公園には、現代中国の多くの社会問題がギュッと凝縮されている。

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