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日本が滅びる前に──明石モデルがひらく国家の未来

泉房穂,2023,日本が滅びる前に──明石モデルがひらく国家の未来,集英社.(4.17.24)

 国がやらなければ、明石市がやる。
 そんな意気込みで、泉さんは、18歳以下の子ども医療費の無償化、第二子以降の保育料の無償化、中学校の給食費の無償化等、子ども福祉の充実をはかり、レストラン等のバリアフリー化費用助成等、障がい者が排除されないまちづくりを行い、そのほかにも、シンママ世帯への養育費立替、旧優生保護法下での強制不妊手術等の被害者の救済等、住民本位の市政を推進してきた。

 本書は、泉さんが12年間の市政を振り返る自伝であり、社会の変え方──日本の政治をあきらめていたすべての人へと多分に重複する内容となっているので、どちらかを読んでおけばじゅうぶんだろう。

 泉さんが、子ども福祉の向上をはかったのは、地域経済の担い手、支え手は、中間層であり、その中間層の暮らしを改善、保全しなければ、明石市の将来はないとの読みがあった。
 従来どおり、既得権益層を優遇する市政を展開する限り、住民の生活は窮乏化し、中間層は下層へと転落していく。
 個人消費のボリュームゾーンである中間層を衰退させるのは、さらなる少子化と人口減少、市の税収の減少、地域経済の衰退を加速するだけである。
 この認識は、社会経済学的な視点からも、まったく正しい。

 2000年に施行された地方分権一括法により、地方自治体は国家と同格の存在として認証された。
 しかし、中央官僚による統治が続き、地方交付税交付金や各種補助金の財源差配の権限を中央官庁が掌握する日本では、自治体の創意工夫の芽はことごとく摘み取られることとなってしまった。

 また、日本国憲法では、「地方自治の本旨」が団体自治と住民自治にある旨規定されている。
 団体自治とは、自治体が国民国家の主権との関係において行使する主体的な統治であり、住民自治とは、住民自らの意思による自治体の統治を意味する。

 泉さんが市政で推進したのは、この二つの自治の実現であり、ごく当たり前の首長の責任を果たしてきたに過ぎない。
 あらためて、この当たり前のことが希有な取り組みとして注目される、日本社会の異常さに気づかされる。

 それにしても、泉さんは生きるエネルギーに満ち溢れた人だ。
 多少は脚色が入っているのかもしれないが、重度障がいの弟のケアをとおして、社会の冷酷さに憤り、石井紘基さんの秘書となって政治家を志す。
 石井さんの助言に従い、司法試験受験を決意し、見事弁護士となる。
 さらに、社会福祉士の資格も取得し、明石市市長として市政改革に12年間取り組む。

 やはりスゴい人だ。

3期12年にわたり兵庫県明石市長をつとめた著者。
「所得制限なしの5つの無料化」など子育て施策の充実を図った結果、明石市は10年連続の人口増、7年連続の地価上昇、8年連続の税収増などを実現した。
しかし、日本全体を見渡せばこの間、出生率も人口も減り続け、「失われた30年」といわれる経済事情を背景に賃金も生活水準も上がらず、物価高、大増税の中、疲弊ムードが漂っている。
なぜこうなってしまったのか?
著者が直言する閉塞打破に必要なこと、日本再生の道とは?
市民にやさしい社会を実現するための泉流ケンカ政治学、そのエッセンスが詰まった希望の一冊。

目次
第1章 シルバー民主主義から子育て民主主義へ
第2章 「明石モデル」をつくれた理由
第3章 地方再生に方程式はない
第4章 「地方」と「国」の関係をつくり直す
第5章 日本が滅びる前に

「はじめに」より
2023年になってから、全国の市町村でこれまでにない新しい動きが起こっています。
明石市が実施した子育て支援の施策を取り入れる動きが、ドミノを倒すかのように広がり始めているのです。
子どもの存在を無視してきた社会。
その社会がようやく子どもに目を向け始めています。
この動きは、今後地方から国を変えていく大きな流れを形づくっていくのではないか。
安心して子育てができる社会が実現すれば、絶望的なまでに落ち込んだ出生率は必ず回復するはず。
将来、歴史を後から振り返ってみるならば、この流れは日本社会が転換するひとつの大きなきっかけになるやもしれません。


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