「・・忙しい父親はほとんど家にいなくて。料理のヘタな母親。子供たちはほとんどお手伝いさんのゴハンで大きくなってって。いくら金持ちでももっと普通の親がいいなあって思ったこともありましたけど、」
真緒は箸を置いてお茶を飲んだ。
「今思えば。幸せですよね。ほんと。贅沢ですよ、」
ふふっと笑った。
「ウチの母親は。早くに親を亡くして町中華を営む親戚に引き取られてたんです。店を手伝わないといけないと思って部活動もやっていなかったんだけど一度演劇部で助っ人で出ることになって。そしたら学校中がちょっと騒ぎになるくらいの評判になっちゃったんですって。それで。本格的に演技の勉強したらどうかって誘われて。小さな劇団に入ることになって。まあ。そこでも評判になったんでしょうね。北都の社長を継いだばかりのお父さんが直々にその演劇を見に来た・・ってことなんですけど。」
昼ご飯抜きだったので本当はめちゃくちゃお腹が空いていて真緒は初音よりも早く食事を終えてしまった。
「・・昔の映画で一ノ瀬ゆかりさんは見たことがあります。わき役でもすごく光っていて。若い頃からすごい実力派女優だったんですよね、」
「まあ。天才女優って言われてたみたい。お父さんはその才能に惚れこんで。・・まあ。いつの間に彼女自身にも惚れぬいてしまった、ということなんでしょうけれども。」
デザートの抹茶プリンに手を付けた。
「でも。当時っていうか今もだと思うけどプロダクションの社長が自分トコの女優に手を出すっていうのがタブーで。めっちゃバッシングあったらしいの。しかも。妊娠させちゃったし。これからハリウッドにも挑戦かってくらい絶頂だった女優を。そのころホントに大変だったみたい。社内でも揉めちゃって。」
ふうっとため息をついた。
「でも。貫いたんですよね。人気とイメージが商売のこの世界。父は母を守り、会社も守った。今思うとすごいなって。」
「・・大変だったでしょうね、」
初音もそれを想像してつくづく言った。
「しかも。真太郎めっちゃ身体弱かったから。結局お母さん完全に芸能界から引退しちゃって。『天才女優を葬った』とかなんとか言われ放題だったみたいよ。でも。お母さん自身芝居は好きだったけど芸能界にはあんまり興味なかったのよね。それよりも。温かい家庭の方が大事だったって。自分が家族の縁がなかったから。子供たちに囲まれてのんびりと過ごすことがすごく幸せで。とにかく。お父さんのことを本当に愛してるってわかる。今も、ずっと。」
ふと笑みがこぼれる。
真緒は両親の馴れ初めを初音に語ります・・
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