アップルケーキ

 

 

あれ?これって、さっきのラブレター?!

 

 

第三十四話 サプライズ

 

 

 「……もしかして、さっきの見てた?」

 

 美樹の問いには答えず、 逆に質問してきた美華に対して、美樹は少し動揺する。

 

 さっきっていいうのは、ラブレターのことやんな……。

 やっぱり、美華は千治のことが……。

 

 美樹は、意を決して小さくうなずいた。

 

「ごめん、見るつもりはなかったんやけど……」

 

 申し訳ない気がして、少しうつむいた。

 美華も、美樹につられたのか、小さな声で「そっか」と呟く。

 その声は、落ち込んでいるように聞こえた。

 

 --もしかして、うちと千治が公認の仲っていう噂を信じてるとか?!

 それは何が何でも誤解を解かなあかん!!

 

 美華に説明しなければと、美樹が顔を上げた。

 すると、タイミングを合わせたように、横断歩道の信号が青にかわった。

 

「あ、青になったし、渡ろ」

「えっ」

 

 美華はそういって歩き始める。

 その姿は、声色から想像していた表情とは違い、先ほどと同じく優しく微笑んだ表情だった。

 美樹は駆け足で自転車を押して、美華の後を追った。通学路の川沿いの細い道につながるこの横断歩道は、すぐに赤に変わってしまうのだ。

 

 すぐに追いついた美樹の姿を確認した美華は、大きく腕を上にあげて、背伸びをした。

 

「あ~ぁ、こんなにすぐにバレるとは、美樹はほんまに予想外すぎるわ」

 

 そういいながら、大きくため息をついた美華は、なぜか笑顔だ。

 美樹には、その笑顔が、何かを諦めているように感じられ、早く誤解を解かなければ、と今度はまっすぐに美華をみた。

 

「美華!美華が千治のこと好きって気づかんくてごめん!!多分わかってくれてるとは思うけど、あの噂は誤解やし!うちと千治の間には何もないから、いろいろ相談のるし、応援するから!!」

「美樹……。それは、それで、うれしいんやけど……ふふっ」

「ん?」

 

 美華の恋を応援する、と意気込む美樹に対し、美華はなぜか笑い出しそうなのをこらえるように、口を押えている。

 笑う要素がひとつも思い浮かばない美樹は、疑問符を浮かべる。

 

 うちが応援するのがうれしすぎて……っていう感じではないな?

 なんでやろう?そんな変なこと言ったつもりないんやけどな?

 

 そんなことを考えていると、美華は鞄を開けて何やら探しはじめた。

 少しがさごそとすれば、すぐに目当てのものがあったようで、取り出して美樹に手渡した。

 

「はい、美樹、これ」

「あれ?これって……千治に渡してたラブレター?」

 

 手渡されたのは、先ほど千治に渡していた手紙と全く同じものだった。

 

 あれ?これって、さっきのラブレター?!

 なんでもう一枚あるん?もしかしてあの一瞬のうちに断られたとか?!

 千治、まじ許せん――!

 

 千治が美華の告白を断り、ラブレターもすぐ返したのではと考えた。

 

 屋上で告白されてた時も、すぐに断ってたし……。

 ありえそうやな。

 あの時もちょっとは状況考えて言葉選ぶとかすればいいのに、そんなことしてなかったし。

 

 ひとり納得し、明日には何が何でも問いただしてやると、ラブレターをにらむ。

 しかし、そんな美樹の様子をみて、美華はクスクスと小さく笑っていた。先ほどからなぜそんなにおかしいのか、美樹にはまるで分らない。説明をもとめるように、首をかしげて美華を見た。

 

「ふふっ。美樹からの応援はうれしいけど、残念ながらラブレターとは違うねん」

「え!違うの?!」

「うん。でも、応援してくれてありがとうな」

「え、あ、うん……」

 

 千治への告白ではなかったらしい。美華が告白をその場で断られておらず、そのことで悲しんだりしていないことに、ほっと胸をなでおろす。

 同時に、勝手に暴走しかけていた自分が恥ずかしく、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになってしまった。

 

「じゃ、じゃぁ、この手紙は?ラブレターちゃうってことやんな」

「うん、ちゃうよ。はぁ~。ほんまはもう少し日が近くなったら渡そうと思ってたんやけどな」

「……?」

「それは、美樹宛やから、あけていいよ」

「うち宛て?」

 

 千治宛のラブレターだと思っていたその手紙は、実は美樹宛だったらしい。

 美華からの手紙はこの中学3年間では初めてかもしれない、そう思うと、うれしくて自然と頬が緩んでしまう。封を開けるのがもったいなくて、自分宛ての手紙を少し見つめてから、ゆっくりと開いた。

 封筒の中には、一枚の厚手の紙が入っていた。

 そこには、『Birthday Party 招待状』と書かれていた。日付は、12月20日――美樹の誕生日だ。

 

「これって……」

「本当はもっとサプライズみたいな感じでしたかったんやけどさ……」

 

 美華は照れながら、前髪を触っている。

 

「美樹、ずっと大変やったっていうのもあるけど、最近様子が変やってきいたし、元気になってほしくて、美樹の誕生日パーティーをすることになってん。……来てくれる?」

 

 驚きで目を丸くし、手紙と美華をみつめる。そして、美樹の知らないところで、希恵とあやと考えてくれたのではないかと思えた。最近の美樹の様子を一番近くで気にかけてくれていたのは二人だった。

 

 ――みんなに心配かけてたんや。

 知らんかったな。

 うちは、ずっとひとりぼっちじゃなかってんな。

 

「……うん、うん、行く!ありがとうっ」

 

 うれしくて涙があふれそうになるのを抑えるが、感謝の言葉は鼻声になってしまった。

 涙がこぼれないように、目元を手首で押さえて、深呼吸をした。 

 

「よかったぁ。ほんまは当日うちに遊びに来てもらって、実はサプライズパーティー!って感じで驚かせたかってんけど、大失敗やな」

「もう、十分、驚いたし、成功してるで!」

「ふふ、それやったらほんまよかった!楽しみにしといてな!」

「うん!」

 

 美華は、少しがかっりしていたようだが、美樹の笑顔をみて、また前髪を触ってはにかんだ。

 

 こんなん、嬉しすぎて当日まで待ち遠しすぎる!

 

 美華からのサプライズにより、当初千治を追いかけていたことなど、すっかり忘れてしまっていた。家について、鞄からテスト用紙を取り出し、ようやく目的が果たせてないことに気が付いた。

 

 まぁ、いっか。

 最高のサプライズもらったし。テストの勝負とか、もうどっちでも良いかも。

 

 美樹は、ベッドに横になり、改めて招待状をみつめる。

 

 あ、この招待状、あやちゃんの字や。

 ということは、たぶんデザインは希恵かな。

 場所は美華の家なんや。

 

 3人からの気持ちを同時に受けったような気がして、胸があたたかくなる。今にも3人を抱きしめたくなる衝動にかられながら、胸の中で「ありがとう」と何度もつぶやいた。

 

 

 

 

 

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久々の更新です。なのでいつもより短め。前からですが自己満足のために、一応完結させる予定ですので、気長にお付き合いください。。。美華の恋もいつか書きたいですね。

 

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