『きょうは、おおかみ』寄り添うこと


『きょうは、おおかみ』はある姉妹のおはなしです。


(ネタバレしてます)

ある日目がさめると妹バージニアはむしゃくしゃしていました。

何をみても気に障り、おおかみみたいに吠えまくります。姉のバネッサの着ている服の色にも、歯磨きするシャカシャカいう音にもイライラ。しまいには小鳥にすらピーピー泣くんじゃない!と怒るしまつ。

姉のバネッサはそんな妹をみて、(ほんとにえらそうなおおかみね)とあきれつつも、なんとか元気になってほしくてお菓子をあげたり、バイオリンを弾いてみたりあれこれ試しますがまったく機嫌はなおりません。バージニアは毛布をかぶってじっと横たわってしまいます。バネッサは隣にそっと横たわり、一緒に毛布をかぶってハリネズミのようにトゲトゲしている妹に根気よく尋ねます。

「なにか きっと あるはずよ、あかるい きもちに なれること」

バージニアはむしゃくしゃしつつも、話しているうちに

「かんぺきなばしょ」「ぜったいかなしいきもちにならないところ」に飛んでいきたい、という自分の気持ちを言葉にします。

バネッサは困ってしまいますが考えているうちにひらめきます。壁一面にバージニアの夢の場所を描くことにしたのでした。 目がさめて、描かれたそれを目にしたバージニアの心にはだんだんと光がもどり、気持ちもほぐれていきます。


絵本では、バージニアがむしゃくしゃしているシーンは白黒で描かれ、心がほぐれていくにつれて鮮やかでカラフルな絵に変わっていきますが、そのコントラストがとても印象的です。

色彩をとりもどした後の世界の描写がとてもとても美しい。


娘(6歳)はこの本がとても気に入りました。昨年6歳離れた妹がうまれたことで、姉妹という関係そのものに興味があるからでしょうか。

この本のどんなところがそんなに好きなの?と尋ねてみると、バネッサがやさしいところと絵がきれいなところ、とのこと。

バージニアみたいな気分になることある?と聞くとあるよ、とも。(そのせいかバージニアがプンプン怒っている箇所を嬉しそうに迫真の演技で何度も音読します。)。


ところで娘にはまったく知る由もありませんが、この本は実は作家バージニア・ウルフとその姉のバネッサ・ベルがモデルだそうです(原題はVirginia WOLF、バージニア・ウルフのウルフのスペルはWOOLF、WOLFは狼)。

バージニアウルフは神経衰弱と鬱に苦しみ、最後は自殺をします。

それを知ったうえで、バージニアの気分が落ち込んでいる時の言葉

「いえがしずむ。ひっくりかえって。ひかりがきえる。こころがかげる。」

を読むと、精神の病のきざしが垣間見える気がします。そして自分では制御できない気分の落ち込む苦しさが胸に迫ります。

生涯にわたり精神疾患に苦しんだバージニアにとって、幼い頃自分にただひたすら寄り添ってくれたバネッサの存在。そしてそのバネッサとふたりで想像の世界で遊んだ記憶は生きていくうえで大きな力となったに違いないと思えてなりません。


二人の娘たちがこの二人のように、苦しいときにお互い寄り添い支えあってくれたらうれしいな。でもそれ以前にわたしが上手に苦しい誰かにちゃんと寄り添える人間なのだろうか、などと考えた印象深い美しい一冊でした。

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