信州は茅野市の京都芸術大学附属康耀堂美術館を訪ねて、「この美術館、立ちいくものであるかなあ…」てなことを考えてしまったわけですが、次に立ち寄った茅野市のお隣、諏訪郡原村の八ケ岳美術館の方がさらに…てなふうに思ってしまったところでして。康耀堂美術館の方はまだしも国宝土偶を所蔵する尖石縄文考古館に隣接する立地に、いささかのアドバンテージがあるものの、こちらは…と。

 

 

木立の中に点在する彫刻群、そして奥にはもこもことした建物のつらなりが見えておりますのが八ケ岳美術館であると。コレクションとして、地元の原村出身でフランスの彫刻家・アントワーヌ・ブールデルに学んだ清水多嘉示(帰国後に日展を中心に活躍し「日本の彫刻界をリードした」ということですが、知りませんでした…)の作品を数多く展示していますけれど、位置づけとして原村歴史民俗資料館を兼ねているところから(縄文遺跡の多いエリアにあるだけに)考古学資料の展示もあるという複合的な(ごたごたした?)展示空間でもありまして。

 

 

館内で撮影可の展示物は非常に限られておりましたので、取り敢えず考古学資料からひとつ。学術的には?「顔面装飾付釣手土器」ですけれど、公募によって決まった愛称が「火の神フゥーちゃん」と。たしかに愛らしい顔つきのすぼまった口からは「ふぅ~」と息を吹き出しているような。地元小学校の三年生が命名したようでありますよ。

 

 

一方で、メインの彫刻作品は(館内では撮れないので)画像を屋外彫刻頼みになりますが、あれこれ見ていきますと、いかにもロダンやブールデルに見るフランス彫刻の伝統を受けた作家なのであるなあと。元々は絵を描いていたということで、タブロー作品にも見るべきものがあるような気がしたものです。

 

ともあれ、上の写真でなおのこと、美術館建物のもこもこ具合が感じられましょう。なんとなくアルベロベッロのトゥルッリを思わせるところがありまして…といっても、判然としないでしょうから、建物をご覧になりに出かける。そうそう、これが八ケ岳美術館の生きる道でもあろうかと思うところなのですな。ま、こちらのフライヤーの左下隅にある写真でもって、今少しご覧いただけますが。

 

 

で、訪ねたときには特別企画展として「建築家 村野藤吾と八ヶ岳美術館」展が開催(~6/2)されておりましたですが、「連続ドーム型の大変ユニークなデザイン」(同館HP)は建築家・村野藤吾によるものなのでありましたよ。先日放送されていたNHK『すこぶるアガるビル』では、村野藤吾の手による目黒区総合庁舎が取り上げられて、随所に微妙なカーブを描くものを配した空間が独特な印象を与えていましたけれど、微妙なカーブを持った非対称の連続体という点では、この美術館、村野の建築の代表作ともされるかもしれませんですね。

 

村野のこだわりは、土地選びの段階から「なるべく自然をこわさないように建てることとし…」という本人コメントにも窺えるとおりでして、丸っこい外観というのも、現地調査の時期が「残雪の寒い頃」であったことから、ほっこりした温かみと雪を被ったようすなどをイメージして造り出したのかも。また、内装に至っては、(フライヤー裏面には写真があるのですが)ドーム屋根の内側を柔らかな白いドレープで飾るように指示しているのですな。建物の屋内空間を、来場者がオブジェを見るように眺めることを意識していたのでしょうか。先に、建物を見てもらうこと自体がこの美術館の生きる道てなことを言いましたが、特異な外観のみならず、なのでありますよ。

 

特別企画という展示の中には、村野の作品と人となりを知るためのインタビュービデオが上映されているのですけれど、同美術館館長が聞きとる相手に選んだのが、(近隣・茅野市の出身だからでもありましょう)建築家の藤森照信とは!この美術館にたどり着く前に奇想の藤森建築を見て来たばかりのタイミングでしたので、なんという奇遇でありましょうかねえ。

 

ともあれ、外観としては奇想の建築という点がクローズアップされましょうけれど、中に入って左右非対称の空間に置かれた作品の数々を眺めるということはあたかも館外に広がる木立の間を逍遥するにも等しいイメージかと。それだけに、屋外展示の彫刻がたくさんあるというのも、空間のつながりが意識されていることもあるような。屋外の彫刻作品は、地元・原中学校の3年生の卒業制作として毎年新しい作品が誕生していくということですので、こちらはこの後もさらに増殖を重ねることでありましょうね。果たして、森の木立の同じ数ほどに増えていったりすることを想像するのもまた楽しからずやなのでありました。