見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2024万博記念公園・ローズフェスタ

2024-05-19 20:14:40 | なごみ写真帖

週末に有休1日を付けて、2泊3日で関西方面に出かけてきた。例によって、駆け足で滋賀~京都~奈良~大阪を大回り。今日は大阪の民博と大阪日本民芸館を見てきた。両館の間にあるのが「平和のバラ園」で、ちょうど花盛り! 東京や横浜にもバラ園があるが、見たことのないような花の量に圧倒されてしまった。万博記念公園には何度も来ているのに、こんな場所があることを初めて知った。

1970年の万博開催時、世界9か国から平和を願って贈られたレガシーのバラが発祥らしいのだが、ホームページに「2019年4月にリニューアルオープン」とあるのを見ると、整備されたのは最近なのかもしれない。

バラ以外の植物もあり。

小雨がぱらつく天気だったが、花は喜んでいたかも。「ローズフェスタ」は6月初旬まで続くそうだ。

訪ねたところの記事は、これから少しずつ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

休館カウントダウン/復刻開館記念展(出光美術館)

2024-05-15 21:51:40 | 行ったもの(美術館・見仏)

出光美術館 出光美術館の軌跡 ここから、さきへI『復刻開館記念展 仙厓・古唐津・オリエント』(2024年4月23日~5月19日)

 冒頭の掲示を読んで、え!と衝撃を受けてしまった。特設サイト「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」にも掲載されているとおり、「1966年秋、東京・丸の内の帝劇ビル9階に開館して以来、皆さまに親しまれてきた出光美術館は、ビルの建替計画に伴い、2024年12月をもって、しばらくのあいだ休館する運びとなりました」というのである。この特設サイトの公開は3月26日だが、全く気づいていなかった。同館は、今年4月から10月まで、美術館のこれまでの歩みを4つの展覧会に分けて振り返りながら、コレクションを代表する作品の数々を展示予定だという。

 本展は、1966年の開館記念展の出品作品と展示構成を意識しながら企画されている。同館は、第1室に中国の美術、第2室に仙厓の遺墨、第3室に古唐津(唐津焼)、ロビーに中近東の美術を展示する構想のもとに始まった。今回は、第1室にずらり30件ほどの古唐津が並ぶ。私はさすがに58年前の開館記念展は見ていないが、2017年の『古唐津』展は見ている。出光佐三が古唐津を集め始めるきっかけとなった『絵唐津丸十文茶碗』や、大好きな『絵唐津柿文三耳壺(水指)』に久しぶりに対面した。『絵唐津ぐりぐり文茶碗』は、今回初めて意識したもの。朝鮮王朝時代の粉青鉄絵の唐草文に源がある、という解説が添えられていたが、私は装飾古墳を思い出した。

 朝鮮唐津と呼ばれる一群も好きだ。『朝鮮唐津耳付壺(水指)』は、鉄錆のような茶色い地肌に黒飴釉と、白濁した藁灰釉がざっくり掛かっていて、その飾り気のなさがとてもよい。手元に置いて愛玩したい。

 第2室は仙厓で、おなじみの書画の名品が並ぶ中、私は、草書の二字書『無事』が気に入った。お守りにほしいなあ。グッズ化してくれないだろうか。現在の出光美術館は、ロビーに隣接した「朝夕庵」という茶室を備えているが、開館当時は展示室内に「茶神亭」という茶室があったそうで、どちらも仙厓揮毫の扁額に由来する。なお、同館が谷口吉郎氏の設計であることを初めて知った。

 第3室は、まず中国磁器で、唐時代の三彩騎馬人物が4件。人物の服装やポーズがいろいろで面白かった。男性2、女性2と解説にあったが、1件は男装の女性ではないかと首をひねった。あとは青磁、磁州窯、青花など一般的なコレクションだが、『紫紅釉稜花盆』(鈞窯、明時代初期)が目についた。出光佐三が中国磁器を蒐集するきっかけとなった品で「どういうものか鈞窯が好きで」と語っていたそうだ。このひとの「好き」へのこだわりは、おもしろくて好き。

 さらに開館記念展を飾ったというのが、古代中国の青銅器とオリエント(西アジア)の文物。青銅器コレクションは全く記憶になかったし、オリエントの土偶・陶磁・金属・ガラス器も楽しかった。オリエントらしい、首の細い水注の多様なバリエーションが印象に残った。

 それにしても、ビルの建て替え後の美術館の再開計画が明らかになっていないのがとても気になる。いまの雰囲気が好きなので、あまり変わってほしくないのだが、時代の流れには逆らえないんだろうなあ…。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2024年4-5月展覧会拾遺(その2)

2024-05-13 21:26:37 | 行ったもの(美術館・見仏)

サントリー美術館 コレクション展『名品ときたま迷品』(2024年4月17日~6月16日)

 「生活の中の美」を基本理念とするサントリー美術館コレクションの「メイヒン」を一堂に会し、さまざまな角度から多彩な魅力を紹介する。会場の冒頭に展示されているのは、本展のポスターにも写真が使われている『鞠・鞠挟』一組(江戸時代)。蹴鞠の鞠を漆塗の木枠に吊るしたものである。これは名品扱いか迷品扱いか不明だが、2019年の『遊びの流儀 遊楽図の系譜』で見た記憶がある。『泰西王侯騎馬図屛風』(前期)『かるかや』『酒伝童子絵巻』など、屏風と絵巻は文句なしの名品揃い。光悦の『赤楽茶碗(銘:熟柿)』は、同館所蔵であることを忘れていたので、たじろいでしまった。和洋のガラス工芸も楽しかったが、薩摩切子には緑色が少ないという解説が気になった。和ガラス一般にはあるのに不思議である。

町田市立国際版画美術館 企画展『版画の青春 小野忠重と版画運動-激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち-』(2024年3月16日~5月19日)

 1930-40年代に活動した「新版画集団」と「造型版画協会」による版画運動を、リーダーであった小野忠重の旧蔵品を中心に紹介する。小野忠重をはじめ、多数の作家が紹介されているが、無理に名前を覚えようとせず、ぼんやり作品を眺めた。暗い世相を思わせる、強烈で毒々しい作品もあるけれど、全般的には明るく抒情的な作品が多くて癒された。展示作品の所蔵館としてリストに登場する小野忠重版画館は、杉並区阿佐ヶ谷にある、小野の旧居を改造した美術館だが、現在は展示活動はされていないようだ。それでもコレクションが維持されていてよかった。

東京国立博物館 特別展『法然と極楽浄土』(2024年4月16日~6月9日)

 令和6年(2024)に浄土宗開宗850年を迎えることを機に、法然による浄土宗の立教開宗から、弟子たちによる諸派の創設と教義の確立、徳川将軍家の帰依によって大きく発展を遂げるまでの、浄土宗850年におよぶ歴史を、全国の浄土宗諸寺院等が所蔵する貴重な名宝によってたどる。当麻寺(當麻寺)の国宝『綴織當麻曼荼羅』が見たかったので、連休中に出かけた(~5/6展示)。照明の具合か、当麻寺の本堂はもちろん、奈良博で見たときよりも図像が判別しやすかったように思う。

 楽しかったのは、鎌倉~室町時代に制作された『法然上人絵伝』等々の絵画資料。法然の伝記とはあまり関係なく、中世の人々の生活の細部が分かってとても面白い(家の中にどのくらい畳が敷かれていたか、宴会のお膳に何が載ったか、誰が履物を履いていたか、など)。

 写真撮影可能で盛り上がっていたのは、香川・法然寺(四国に配流になった法然にちなむ)から出開帳の仏涅槃群像。全26躯で、這っているイタチとかコウモリとかカタツムリ(でかい)もいる。

反対側にはヘビにウサギにネコ。

 しかし、法然寺のホームページを見にいったら、彩色されたキジやニワトリ、天井の隅には、雲に乗って下りてくる摩耶夫人も取り付けられており、全82躯で構成されているという。これは現地に見に行かないと! 四国霊場はほぼ未踏地なので、ゆっくり回りたいなあ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2024年4-5月展覧会拾遺(その1)

2024-05-12 21:25:53 | 行ったもの(美術館・見仏)

すっかり書き漏らしてしまったものも多いのだが、連休前後に行ったものを中心に。

根津美術館 特別展『国宝・燕子花図屏風 デザインの日本美術』(2024年4月13日〜5月12日)

 最終日の今日、ようやくチケットが取れて見て来た。恒例の国宝『燕子花屏風』の展示に加え、取り合わせにも選りすぐりの名品が並ぶ。伊年印『四季草花図屏風』はやっぱりいいなあ。草花の愛らしさ・美しさが完璧。ん?見慣れないものがある?と思ったのは『桜芥子図襖』(大田区龍子美術館)で、4面の金地襖の上半分は満開の桜の枝で覆われていいる。下半分には紅白の芥子のほか、アザミ、スミレ、タンポポなどの草花。伊年印、宗達工房の作品だが、川端龍子は妻子のための持仏堂と仏間の仕切りに用いていたそうだ。

 展示室5は「地球の裏側からこんにちは!-根津美術館のアンデス染織-」という新機軸。もっとも展示品は、根津嘉一郎が昭和初期に収集したものだという。バラカス・ワリ・チム・チャンカ・インカなど、該当する文化名で分類されていたが、一番古いバラカス文化(紀元前~前3世紀)の図柄が意外とポップで楽しかった。ボーダーシャツにホットパンツの女子みたいな人物文様もあった。遠山記念館から特別出陳の『羽毛縫付裂 双頭動物文様』(ワリ文化、8~11世紀)にもびっくり。胴の前後に頭のついたオオカミみたいな動物が、背景も含め、色とりどりの鳥の羽根で描き出されていた。

静嘉堂文庫美術館 静嘉堂文庫竣工100年・特別展『画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎 「地獄極楽めぐり図」からリアル武四郎涅槃図まで』(2024年4月13日~6月9日)

 同館が所蔵する松浦武四郎ゆかりの品と、松坂市の松浦武四郎記念館の所蔵品をあわせて展示。なので、けっこう初めて見るものもあった。武四郎と暁斎の交流は明治の初め頃からで、有名な『武四郎涅槃図』(武四郎記念館所蔵)は暁斎が描いた。2013年の静嘉堂の展示でも、2018年に北海道博物館で見た展示でも、この涅槃図は写真パネルだったので、実物を見るのは初めてかもしれない。意外と小さいな、という印象だった。川喜多半泥子の祖父・川喜多石水が武四郎の幼なじみだったというのは初めて知った。石水美術館、千歳文庫、覚えておこう。

永青文庫 初夏展『殿さまのスケッチブック』(2024年4月27日~6月23日)

 熊本藩6代藩主・細川重賢(しげかた、1720-85)をはじめ、細川家の殿さまが残した「リアル」な博物図譜を多数公開。『毛介綺煥(もうかいきかん)』は半紙等に描いた動物・魚介類を切り抜いて、別紙に貼り付けて整理したもの。日付と由来が記録されているのがおもしろい。狼の図には「猟師某以鉄砲打殺之」とあり、ワニ(?)の図には「紅毛人持来。ダリヤウ(鼉龍だな)ノ生写」とあった。同じように植物のスケッチを貼り込んだ『百卉侔状(ひゃっきぼうじょう)』には、なぜか多様なトウガラシが50種以上集められていた。図譜だけでなく、押し花帖や天草の白鶴浜で集めた無数の小さな貝の標本箱もあった。

国立歴史民俗博物館 企画展示『歴博色尽くし』(2024年3月12日~5月6日)

 建造物、染織工芸、浮世絵、漆工芸、考古遺物など歴博の多彩な館蔵資料を紹介し、その「いろ・つや・かたち」が示す人間の営みについて考える。最も印象に残ったのは装飾古墳の壁画再現展示だった。王塚古墳も珍敷塚(めずらしづか)古墳も九州・福岡県にあるもの。慣れ親しんだ「日本史」の概念が音を立てて崩れるようなインパクトだった。こういうの、複製でいいからもっと関東の人間にも見せてほしい。あと、鉄隕石に由来する隕鉄でつくった脇差があることを初めて知ったが、仙侠ドラマの「陰鉄」を思い出した。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三味線の美音を浴びる/文楽・和田合戦女舞鶴、他

2024-05-11 22:04:48 | 行ったもの2(講演・公演)

シアター1010 国立劇場令和6年5月文楽公演(2024年5月11日、11:00~)

 急に思い立って、5月文楽公演を見て来た。昨年10月末に国立劇場が休館になってから、東京の文楽公演は、さまざまな劇場を代替に使用している。今季は、昨年12月公演に続いて、シアター1010(せんじゅ)での開催。北千住駅前でとても便利な立地だった。

 1等席にあまりいい座席が残っていなかったので、2等席(2階の最後列)を取ってみた。視界はこんな感じ。文楽の舞台を「見下ろす」のは初体験で、どうなんだろう?と思ったが、音響は問題なかった。舞台の奥まで見えてしまう(舞台下駄を履いた人形遣いの足元とか、腰を下ろして待機している黒子さん)のは、もの珍しくて面白かったが、初心者にはあまりお勧めしない。ただ、舞台の上に表示される字幕が自然と視界に入って見やすいのはよかった。

・Aプロ『寿柱立万歳』

 旅の太夫と才蔵が登場し、数え歌ふうに神名・仏名を並べて、家屋の柱立てを寿ぐ。「豊竹若太夫襲名披露公演にようこそ」というセリフを盛り込んで、公演の幕開きを祝う。

・豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上

 あらためて幕が開くと、金屏風(豊竹座の紋入り)を背負い、緋毛氈の上に、鮮やかな緑の裃を着けた技芸員たちが並ぶ。中央は主役の新若太夫さんだが、文楽の襲名披露では、主役は何も喋らないのだ、と途中で思い出した。向かって左端(下手)に座った呂勢太夫さんが口上を述べ、太夫部の錣太夫さん、三味線の団七さん、人形遣いの勘十郎さんが、それぞれ笑えるエピソードを交えて、祝辞を述べた。2列目に控えていたのは(おそらく)お弟子さんや一門の皆さん。ふと、この場に咲太夫さんの姿がないことに気づいて、悲しくなってしまった。

・『和田合戦女舞鶴(わだかっせんおんなまいづる)・市若初陣の段』

 床は若太夫と清介。主役の板額を勘十郎。物語は鎌倉時代、頼朝・頼家亡きあと、三代将軍実朝と尼公政子が政務を執っていたが、御家人たちの対立が深まっていた。御家人・荏柄平太は実朝の妹・斎姫に横恋慕し、思い通りにならないと姫を殺してしまう。平太の妻と息子・公暁は尼公政子の館に匿われていたが、大江広元は御家人の幼い子供たちを軍勢に仕立てて、政子の館を攻めさせる。板額は政子に仕える女武者だったが、軍勢の中に我が子の市若丸がいるのを見つけて館に招き入れる。ところが、政子の話によれば、公暁は頼家の忘れ形見で、ひそかに平太夫婦に預けて育てさせていたのだった。市若丸は自分が平太の子であると誤解して腹を切り、結果的に公暁の身代わり首となって公暁を救う。

 よくある子供の身代わり譚だが、やっぱりグロテスクだなあ…と思う。もちろん脚本は、主君のための身代わり死を全肯定しているわけではなくて、板額は「でかした」と息子を称賛しつつ「なんの因果で武士(もののふ)の子とは生まれて来たことぞ」と嘆くのだが。こういう演目は、徐々にすたれてもいいんじゃないかと思っている。

・『近頃河原の建引(ちかごろかわらのたてひき)・堀川猿廻しの段/道行涙の編笠』

 「堀川猿廻しの段」は、前を織太夫、藤蔵、清公、切を錣太夫、宗助、寛太郎。前半は織太夫さんの美声を楽しむ。後半は錣太夫さんの声質にぴったりの人情ドラマ。おしゅん、伝兵衛の門出を祝って、猿廻しの与次郎が2匹のサルに演じさせる芸(黒子の人形遣いが両手で表現する)がとても楽しい。サル役の人形遣いはプログラムに名前が載らないのだが、誰なのかなあ。「道行涙の編笠」は34年ぶりの上演で、私は初めて見た。しっとりと哀切な舞踊劇。

 今回、どの演目も三味線が華やかで楽しかった。『和田合戦』は、正直、若太夫さんの語りより、清介さんの三味線の切れ味のほうが強く印象に残っている。「堀川猿廻し」は2組のツレ弾きを楽しめた。

 若太夫さんへご祝儀の飾りつけ。坂東玉三郎さん、詩人の高橋睦郎さん、阪大の仲野徹さんなどの名前を見つけた。

 シアター1010は、客席は飲食禁止だが、ホワイエでは飲食できる。あとゲートの外に売店があってお菓子や飲み物を売っている(本格的なお弁当はなし)。オリジナルカクテル500円をいただいてしまった。ピーチ味かな?シャンパンみたいにさわやかで美味。国立劇場でも幕間に軽いアルコールが飲めるといいのに、とずっと思っていたので、大満足。

 なお、7月の歌舞伎公演、12月の文楽公演は、私の地元・江東区で行われるらしい。今から楽しみである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

これこそスタンダード/茶の湯の美学(三井記念美術館)

2024-05-08 21:40:05 | 行ったもの(美術館・見仏)

三井記念美術館 『茶の湯の美学-利休・織部・遠州の茶道具-』(2024年4月18日~6月16日)

 同館の「茶の湯」展覧会は、久しぶりのような気がして調べたら、2022年の『茶の湯の陶磁器~“景色”を愛でる~』以来、2年ぶりだった。大河ドラマ関連展や明治工芸もいいけれど、やっぱり、同館コレクションの深みと厚みを感じるには、スタンダードな「茶の湯」展が一番だと思う。本展は、利休・織部・遠州3人の美意識を、利休の「わび・さびの美」、織部の「破格の美」、遠州の「綺麗さび」と捉えて構成されている。

 展示室1の冒頭には、伝・利休所持『古銅桃底花入』。桃底 (ももぞこ)は、細口で、耳がなく、高台がなく、畳付の部分が内側に丸く窪んだ、無紋のものをいうらしいが、ネットで検索した画像よりもずんぐりと小型で、首のまわりに簡素な雲紋が刻まれている。いかにも利休好みらしい、無駄を削ぎ落した黒の美学。長次郎の『黒楽茶碗(銘:俊寛)』の黒もひたすら美しい。同じく長次郎の『黒楽口寄香炉』(伝・利休所持)は、カヌレみたいで美味しそうだった。

 それから、伊賀の花入があると思ったら『伊賀耳付花入(銘:業平)』だった。昨秋、五島美術館の『古伊賀 破格のやきもの』展で見たものだ。正面向きは砂っぽいざらざらした印象なのに対して、裏側はつるっとしていて釉薬の色の変化がよく分かる。『伊賀耳付水指(銘:閑居)』は、タヌキか子グマか、茶色い毛並みの動物がうずくまっているような印象。

 『大井戸茶碗(銘:須弥、別名:十文字)』は、古田織部が、大きすぎる井戸茶碗を十字に割って切り詰めたと言われるもの。レーザーカッターもない時代に、そんなことができるのか? 逸話としては「破格」だが、真上から覗き込むと、補修の跡が抽象絵画の小品のようで愛らしい。小堀遠州箱書を持つ『高取面取茶碗』は、黄味がかった、とろりとした肌合いで、なるほど「綺麗さび」とはこういうものか、と納得する。本展のポスターやチケットは、「わび・さび」の『俊寛』、「破格」の『十文字』、「綺麗さび」の『高取』という3つの茶碗を縦に並べた楽しいデザインになっている。

 展示室2は、国宝『志野茶碗(銘:卯花墻)』の指定席。展示室3(如庵茶室)は、織田有楽関連の茶道具で統一されていて、2月に見たサントリー美術館の展示を思い出す(三井記念美術館は「織田有楽」呼びなのだな)。展示室4は、利休の美意識「わび・さび」特集で、利休の消息・ゆかりの茶道具などが勢ぞろいしており、『聚楽第図屏風』も久しぶりに見ることができた。この1室は全て撮影OKという大盤振る舞い。律義に全展示品を撮影していた男性は研究者だったのだろうか?

 続いて織部の美意識「破格の美」だが、私は志野・織部よりも伊賀・信楽に心が躍る。『伊賀耳付花入(銘:夜叉神)』も出ていた。遠州の美意識「綺麗さび」のセクションには、マルチな才能を発揮した文化人らしく、墨蹟・絵賛・短冊・消息など、茶道具以外にも多様な作品が並んでいた。遠州自筆の和歌色紙(自詠および古歌)4点は初公開だという。

 連休の最終日、中年のご婦人が娘くらいの連れに蘊蓄を語っていたり、微笑を絶やさない西洋人の中年カップルがいたり、客層を観察するのも面白かった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

2024-05-06 21:58:08 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『警察栄誉』全38集(愛奇藝他、2022年)

 中国の視聴者レビューサイト「豆瓣」で、2022年ドラマの最高得点を獲得した作品だが、なんとなく自分の好みでないような気がして手を出さずにいた。今年4月、『甘くないボクらの日常~警察栄誉~』のタイトルで日本向けのDVD-BOXが発売されたが、ラブコメ路線を想像させる宣伝ビジュアルに対して、いや、そういうドラマじゃないし、という不満のコメントをSNSで見かけた。それで、逆に興味が湧いて、視聴を始めたのである。

 舞台は架空の都市・平陵市(ロケ地は青島)、ほどほどに発展した地方の中級都市の設定である。八里河派出所に4人の新人警察官が実習生として配属された(日本でいう派出所より規模が大きく、食堂もあり、おそらく20~30人が勤務している)。王守一所長は、警察の伝統に従い、4人の新人の師父を定める。北京大学の修士を卒業した秀才の楊樹には、頭脳より武闘派の曹健軍。農村育ちの趙継偉には、地域コミュニティの御用聞き担当・張志傑。殉職した警官を父親に持つ夏潔(女性)には、かつて夏潔の父親を師父としていた程浩。何かと目端の利く李大為(張若昀)には、出世と無縁の老警察・陳新城(寧理)。

 新人たちは、人情の機微が分からず、四角四面に対応して住民の不興を買ったり、逆に住民の個人生活に深入りし過ぎたり、功名心に駆られて危険を犯したり、はじめは失敗の連続。そのたびに所長は、上司の命令に必ず従い、規律ある行動を取るのが警察の本分であることを繰り返し言明する。夏潔の母親は、夫の殉職を苦い思い出として、娘が危険な現場に出ることを恐れており、師父の程浩も王所長も、夏潔の扱いに慎重にならざるを得ない。夏潔自身はそれが不満。李大為も母親と二人暮らしで、自由人の父親は、李大為が幼い頃に家出していたが、なぜかその父親が戻ってくる。夏潔と李大為は、仕事だけでなく、家庭(親子関係)の悩みにも直面することになる。

 こうして若者の悩みと成長を描いて最終話まで行くのかと思ったら、全然違った。新人たちは、比較的早い段階で警察の一員らしい行動を身につける(親子関係の解決はもう少し先)。そこから、むしろ師父たちの「仕事と家庭」に焦点が移ってゆく。李大為の師父・陳新城は単身生活。妻は一人娘の佳佳を連れて離婚し、資産家と再婚していた。しかし佳佳が義理の父親から性的ハラスメントを受けていることが分かり、陳新城は佳佳を引き取って、父娘水入らずの生活を始める。この過程では、年齢的に佳佳に近い李大為が、悩みの多い師父にアドバイスする立場になっていて、愉快だった。

 楊樹の師父・曹健軍と妻・周慧の家庭生活は円満だったが、周慧の母親は、二人の娘のうち、稼ぎのよい妹婿を贔屓にしていた。妹婿が買春容疑で摘発されても、それを揉み消す力のない曹健軍を軽蔑するばかり。妻と自分の面子を立てるため、なんとか仕事上で大きな功績を上げ、栄誉を得ようとする曹健軍。だが、酒席の後、レストランの駐車場で車を移動させようとして接触事故を起こしてしまう。飲酒運転の罪が確定し、警察は免職に。派出所の同僚たちは、寛大な措置を願い出るが、王所長は、警察は法を執行する立場であるからこそ、原則を曲げてはならないと説く。そして曹健軍には、過去を忘れて生きろと諭し、民間の警備員の職を紹介する。しかし警察の日々を忘れることができない曹健軍。

 【ネタバレ】その頃、八里河派出所では、陳新城と李大為がずっと追ってきた連続女性強姦殺人犯の証拠が整い、いよいよ隠れ家に踏み込むことになった。そこに武器もなく防具もない一民間人の身で、一緒に参加させてほしいとやってくる曹健軍。断り切れずに許してしまう陳新城。結果、李大為の命を守って凶弾に倒れたのは曹健軍だった。そして、曹健軍の棺は八里河派出所に迎えられ、同僚の敬礼に送られて墓地へ出発していった。

 この結末は、予想できたが辛かった。曹健軍は、警察官としても、ひとりの人間としても理想から程遠い、ダメなやつなのだが、それだけに愛おしい存在だった。八里河派出所の面々は、いずれも現実世界の隣人のような人間味があり、味わい深い登場人物が多かった。王所長は、いつもテキトーなことを言っているようで、部下をよく見て最適な指導法を考えている。教導員の葉葦(女性)が、一時、父親の介護で離職を考えるのも、いかにもありそうな話だった。ベテランの警察官も、ふつうに仕事と家庭の間で、悩みながら生活しているのである。

 なお、彼らは「民事警察」で、凶悪犯罪は「刑事警察」に引き渡す仕組みになっている。中国の「民事警察」は所掌が非常に広くて、あらゆる困り事の相談窓口になっていること、庶民が強気で訴え出ること、何でも撮影してネットに上げる風潮など、中国社会の世相が分かる点も面白かった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地域の仏像、埴輪、近代洋画/令和6年新指定国宝・重要文化財(東京国立博物館)

2024-05-05 14:46:36 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館・本館特別1-2室、11室 特別企画『令和6年新指定国宝・重要文化財』(2024年4月23日~5月12日)

 連休の1日、特別展『法然と極楽浄土』を見ようと思って行ったのだが、会期の短いこの展示を優先することにした。「新指定国宝・重要文化財」の展示は、コロナ禍の近年、開催時期や展示室を変えていたが、以前の方式に戻ったようである(→令和5年の記事)。

 文化庁のホームページによれば、今年は、美術工芸品6件を国宝に、美術工芸品36件を重要文化財に、さらに1件の美術工芸品1件を登録有形文化財に登録することが、文化審議会から答申された(2024年3月15日)。本展は、この国宝・重要文化財指定予定品を紹介するものである。

 本館1階、11室(彫刻)の入口に「令和6年新指定国宝・重要文化財」の大きな掲示が出ていたので、インフォメーションデスクで目録を貰いつつ、「この部屋だけですか?」と聞くと「特別1・2室もです」と教えてくれた。11室に入ってすぐ目に入るのは木造牛頭天王坐像(平安時代、重文)(中日新聞2024/3/16、画像あり)。一瞬、馬頭?と思ったら、頭上に載っているのは牛だった。三面十二臂で、左右に日月を掲げ、斧や弓や数珠や、さまざまな品を持ち、蓮華座(?)に坐して片足を踏み下げる。その台座を背中に載せて、うずくまっているのは虎。くわっと口を開けて牙を剥き出してはいるのだが、耳が寝てるし、長い尻尾も下がり気味だし、そもそも前足をたたんだ香箱座りなので、あまり威圧感がない。福井県・八坂神社とあっても、どこだか全然分からなかったが、越前町(鯖江市の西)らしい。同じ八坂神社からもう1件、木造女神坐像も重文に指定されていた。唐装の女神で、頭上に十一面観音みたいな菩薩面を戴く不思議な像(参考:織田文化歴史館)。

 法隆寺・玉虫厨子安置の小さな銅造観音菩薩立像が重文になり、京都・大報恩寺(千本釈迦堂)の木造六観音菩薩像(展示は准胝観音)と木造地蔵菩薩立像が国宝になるなど、なつかしくて嬉しい展示もあったが、印象に残ったのは、静岡・南禅寺伝来の諸像。木造十一面観音立像は奈良時代の作だという。現地の工人か造仏僧によるものと見られ、プロポーションはアンバランスだが、顔立ちが妙にリアルに人間くさい。木造二天王(展示は1躯)は大きな目に愛嬌があって惹かれる。「河津平安の仏像展示館」という施設で見られるようだ。

 彫刻以外も充実していて面白かった。考古資料は6件が重文指定へ。『千葉県殿塚古墳・姫塚古墳出土埴輪』の中に、さりげなく「異形の人物埴輪」というキャプションをつけたものが2点あって、そのうち1点は「はいもとろう人」とも呼ばれるそうだ。ちょっと諸星大二郎的な想像力を刺激されて好き。多賀城碑が国宝になり(写真展示のみ)多賀城関連の出土品や木簡・文書が重文に指定されたのは、2024年が多賀城創建1300年に当たるのを見込んでのお祝いかな。

 根津美術館所蔵の『百草蒔絵薬箪笥』は内容品と一括で重文指定。『紙本著色天子摂関大臣影』(三の丸尚蔵館)は、期待したのだが現物は出ていなかった。新しいものでは油絵の『羽衣天女』(1890年、兵庫県立美術館、写真のみ)が指定されて喜ばしい。小野竹喬『波切村』(1918年、竹喬美術館)が指定されたのは、美術史的な評価があるのだろうけど、私はこのひとの作品が単純に好きなので嬉しい。

 結局、この日は常設展示とミュージアムシアター『VR作品・洛中洛外図屛風 舟木本』で疲れて引き上げることにした。特別展はまた次回。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蔵出し図録もお楽しみ/洋風画という風(板橋区立美術館)

2024-05-03 22:08:12 | 行ったもの(美術館・見仏)

板橋区立美術館 『歸空庵コレクションによる 洋風画という風-近世絵画に根づいたエキゾチズムー』(2024年5月3日~6月16日)

 今日から始まった展覧会をさっそく見て来た。この春の板美は、いつもの江戸絵画ではなくて『シュルレアリスムと日本』展(2024年3月2日~4月14日)から始まったのだが、これは京都で見たので、東京展は見送ってしまった。

 さて本展は、江戸絵画好きにはおなじみの「歸空庵コレクション」から選りすぐりの作品を展示し、近世絵画に新鮮な風を送り込み、これまでにない表現を切り拓いた洋風画の魅力に迫る。展示リストによれば、全73件のうち1件だけが板美の所蔵で、あとは歸空庵コレクション(同館寄託)である。うち19件は、新たに寄託されたものだという。

 私は何度も同館に通っているので、もちろん見たことのある作品が多かった。しかし滅多に見られない作品揃いなので、テンションが上がりっぱなしだった。入ってすぐの展示ロビーには初期洋風画の『西洋風俗図』(17世紀)から4面。隠者それとも羊飼いの足元にネズミみたいに小さな羊の群れが描かれた作品には「遠近法とは?」というキャプションが添えられていて微笑してしまった。梅湾竹直公(不詳)の『西洋婦人図』は円形の画面に西洋人の男女を描く。男性が全然魅力的に見えないオヤジで、女性は従者の少年とアイコンタクトをしているように見える。

 本展のポスターになっている、安田田麒『象のいる異国風景図』も好きな作品。背中に人を載せた象は見る者にお尻を向けていて、特徴である長い鼻も大きな耳も見えないのだが、ちゃんと象だと分かる。川原慶賀の百面相みたいな『蘭人図』2件も面白かった。何かの模写かもしれないけれど、西洋人を間近に見ていた川原慶賀ならではの作品のような気もする。

 続く第2室は、秋田蘭画から司馬江漢。小野田直武の『新蕨飛虻図』とか『恵比寿図』とか、エキゾチックというより怪しげで気持ち悪くて好き。司馬江漢『西洋風景人物図屏風』は、余白を大きくとり、墨画淡彩に近い雰囲気でサラリと描いたもの。見た記憶がないと思ったら新規寄託品だった。

 第3室は、石川大浪、孟高兄弟を中心に(この二人の名前は、かつて神戸市立博物館の展示で覚えた)。あと世界各国の風俗(だいたい男女ペア)を描いた図巻・屏風も楽しい。これは広渡湖秀『万国人物貼交屏風』から「大清」の図。「大明」と男性の風俗ははっきり描き分けているのだが、女性はあまり違いがない。また「韃靼」の男女は別に描かれている。

 第4室には、亜欧堂田善、安田雷州が出ていて嬉しかった。田善の『三囲雪景図』はいいなあ。遠くに小さく見える筑波山、枯れた田んぼの中の鴫(?)3羽もかわいい。

 第1室(ロビー)に戻って、色彩のきれいな西洋都市風景画のシリーズがあるなと思ったら、作者は春木南溟だった。府中市美術館の江戸絵画展で覚えた名前。オランダ銅版画の模写らしい。

 ほかにも気になる作品が多数あったので、図録があれば買っていこうと思ったら、入口には『歸空庵コレクション 日本洋画史展』の図録が積んであった。奥付は平成16年(2004)8月刊行。前文によると、平成2年(1990)から寄託を受けてきた歸空庵コレクションを「一挙公開」した展覧会だったらしい。思わずスマホで自分のブログを検索したが、私はこの展覧会は見に来ていないようだ。それなら、買っていくか! 半分ほどが白黒図版なのは残念だが、安村敏信先生の解説つきだし、半額割引(750円)のお買得セールだったので。

 そして帰宅後もこの図録をパラパラ眺めている。今回の展覧会には出ていなかったが、別の展覧会で見た記憶のよみがえるものもあり、逆に全く記憶がなくて、見たい!と思うものもあった。気になったのは亜欧堂田善の『異人引き馬図』(絹本著色、図版は白黒)で、え!これは李公麟『五馬図巻』の第2馬図の模写ではないか!! 2019年に東博で「発見」された『五馬図巻』は、清末まで北京の宮廷にあったはずなので、田善は何かの模本を手本にしたのだろう。ずいぶん陰影を濃くして洋風にアレンジしているのがおもしろい。

 こんなに楽しめる展覧会なのに入場無料、全点撮影可。5月6日までは、都営地下鉄ワンデーパス(500円)を使うと、巣鴨~西高島平往復より安くなることも付け加えておく。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

水道橋でイタリアンとワイン飲み放題

2024-05-02 20:30:12 | 食べたもの(銘菓・名産)

今年の連休は遠出の予定が入っていないかわり、近場で友人と旧交を温めている。昨日はむかしの職場仲間と水道橋駅前の「ワイン処Oasi(オアジ)」へ。これまで和食ディナーを2回体験しているが、今回はイタリアンで3時間飲み放題つきのコースだった。

自家製サングリア2種(赤と白)、ワイン、ワインカクテルなどをたっぷり楽しんだ。

話題は「膝が痛い」「耳が遠くなった」「老後の生活資金をどうするか」など、完全に高齢者のお悩み談義。それでも趣味や推し活に励む余裕があるのは幸いである。5年後や10年後も、こうやって元気な仲間と楽しい時間を過ごせるといいなあ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする