美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

馬渡裕子新作絵画展 「蟹座のスペクタクル」 6/29(木)〜7/9(日) 杜の未来舎ぎゃらりい

2023-06-30 18:35:06 | レビュー/感想

時代の兆しを鋭い感性で読み取ってきた馬渡作品、さて次の展開は。独特の幻の世界が、細部にわたって習熟した技術によって物質的リアリティを持って迫ってきます。*先の1年、デ・スティル・コーフィーのポストカードに掲載された作品 、そしてこれまで20年間に亘り、隔月で同ポストカードに描いてきた作品120枚のうち今画家の手元にある36枚も展示しています。

蟹座 キャンバス 油彩 45.5×45.5  120,000円(額装なし)

馬渡さんの絵を見ているうちに、いわゆる日本の伝統的なミニマリズム演劇、能の世界を思い浮かべた。初期の頃からそういう気配はあったのだが、近年の作品は習熟した能役者によって演じられた演目に近いものがある。能役者の磨かれ切り詰められた仕草と口上が、見るものの想像力を刺激して、心に響く幻の世界を作り出す。シンプルな色と形だけで構成された絵の世界であるが、能と似通った演劇的空間へと誘う。

馬渡さんの一連の作品は二つの系列に分けられる。一つはほぼ隔月で描き続けてるコーヒー豆店の宣伝用ポストカード。それは1ヶ月のカレンダー仕様となっていて、カレンダーを入れるレイアウトスペースを確保する、その月に応じた季節や祭事を意識したモチーフにする、またコーヒー豆店の広告であること(必ずコーヒーカップや豆が出てくるのはそのため)などの制約がある。そういう制約がかえって絵に緊張感を齎してきたようにも思える。同時に、ぬいぐるみ的な動物やキャラが描かれていると、若い女性からも「可愛い」という声が上がる。絵としてのレベルの高さを確保しつつ、一般のファン層も理屈なく引き込むエンタテーメントの要素を持っている画家は珍しい。ユーモア、エスプリ、あるいは和語に直せば、浮世絵や俳画にも見られるような肩の力が抜けた「諧謔」の要素もあって、かつて彼女の作品を続けて求めてくださったフランス人のコレクターがいたのも納得できる。

もう一つは、彼女とモノや画像との偶然の出会いに基づいて描かれた作品で、ときに世に起こる事象の予見であったり、何かのアレゴリーとして現実のディープな読みへと誘う作品もある。毎年何が出てくるかちょっと怖くて、楽しみなシュールな作品系列ではある。今回の展示は「蟹」、「雲」、「煙」が主題となっているが、何が彼女にこれらのモチーフを選ばせたのかは彼女自身も説明はつかないだろうが、人の深層に渦巻く何かを感知し画像の形で無意識に掴み出す才覚が彼女にはあるようだ。天性のセンスに長年に渡る技術的熟練が加わって、それらはアワアワとした幻ではない物質的リアリティーが感ぜられるものになっている。

馬渡裕子の油彩作品コレクション 作品のお求めは下記サイトから

杜の未来舎ぎゃらりい

 


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