ホジキンリンパ腫は治りやすいがんのひとつですが、一定の割合で再発したり難治性と診断されたりする患者がいます。近年、このような患者を対象とした治療法の研究が進んでおり、治療の選択肢が広がっています。
大量化学療法(HDCT)および自家造血幹細胞移植後(ASCT)に再発したホジキンリンパ腫患者の治療選択肢
- 再発した古典的ホジキンリンパ腫患者の病状改善
- 再発・難治性ホジキンリンパ腫患者に対するPD-1抗体・PD-L1抗体による初期単剤治療臨床試験
- 再発・難治性ホジキンリンパ腫患者を対象とした初期単剤治療臨床試験で評価された薬剤
再発した古典的ホジキンリンパ腫患者の病状改善
過去においては、自家造血幹細胞移植(ASCT)後に病気の進行が見られた古典的ホジキンリンパ腫患者は、その後の病状が悪化の一途をたどるのが常でした。しかし近年においては、ASCT後に再発しても再発後の病状に改善が見られるようになりました。
この病状の改善には、抗体薬物複合体やPD-1経路阻害薬などの新規薬剤の使用が大きく寄与しています。
抗体薬物複合体ブレンツキシマブベドチン
ブレンツキシマブベドチンは、CD30を標的とする抗体薬物複合体です。とりわけ、移植後に再発したホジキンリンパ腫患者に対して効果的な治療として確立されています。この薬剤の評価は、自家造血幹細胞移植(ASCT)後の患者グループを対象に初の臨床試験において行われましたが、有意な臨床活性が示されました。
ブレンツキシマブベドチンのピボタル第II相試験は、自家造血幹細胞移植(ASCT)に失敗したホジキンリンパ腫患者を対象として行われました。その結果、患者の4分の3に臨床反応が認められ、患者の3分の1が完全奏効(CR)に達しました。
同様に、PD-1とPD-L1またはPD-L2との相互作用を阻害する抗体を用いた治療でも、同じく自家造血幹細胞移植(ASCT)に失敗したホジキンリンパ腫患者において、非常に高い臨床反応が認められました(下記の表を参照)。
PD-1阻害薬ペムブロリズマブ
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)を用いたPD-1阻害の有効性は、再発・難治性古典的ホジキンリンパ腫患者を対象に、最近行われたブレンツキシマブベドチンの有効性に関するランダム化試験で比較されました。その試験において、ブレンツキシマブベドチンを用いた治療と比べてペムブロリズマブを用いた治療は、無増悪生存期間(PFS)が大幅に改善しました。この結果を受けて、PD-1阻害薬を用いた阻害療法が、自家造血幹細胞移植後に再発した患者や自家造血幹細胞移植が不適格な患者において、優先されるべき最初の治療選択肢となることが裏付けられました。
再発・難治性ホジキンリンパ腫患者に対するPD-1抗体・PD-L1抗体による初期単剤治療臨床試験
以下の表は、再発または難治性ホジキンリンパ腫患者を対象とし、抗プログラムデスリガンド1(PD-1)抗体またはPD-L1抗体を用いた初期単剤治療臨床試験の結果を抜粋したものです。
薬剤名 | 治療を受けた 患者数 | 奏効率 | 完全 奏効率 | 無増悪生存期間/無増悪生存期率* |
ペムブロリズマブ (第II相) | 210人 | 71.9% | 27.6% | 13.7ヶ月 (中央値) |
ニボルマブ (第II相) | 243人 | 69% | 16% | 14.7ヶ月 (中央値) |
シンチリマブ (第II相) | 96人 | 80.4% | 34% | 77.6% (6ヶ月無増悪生存率) |
チスレリズマブ (第II相) | 70人 | 87.1% | 62.9% | 74.5%(9ヶ月無増悪生存率) |
カムレリズマブ (第II相) | 75人 | 76% | 26.7% | 2.5ヶ月 (中央値) |
アベルマブ (第Ib相) | 31人 | 41.9% | 19.4% | 5.7ヶ月 (中央値) |
※無増悪生存期間または無増悪生存率(PFS)とは、治療中(治療後)にがんが進行せず安定した状態である期間または割合のことです。
上記以外の新しい有望なアプローチ
上記以外の有望なアプローチには、併用法、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)、新しい抗体薬物複合体などがあります。
ブレンツキシマブベドチンは、ニボルマブとイピリムマブの2種類の免疫チェックポイント阻害薬と併用し、再発・難治性ホジキンリンパ腫の治療に用いられています。この3剤併用療法の有効性は、非常に有望であることが明らかになっています。
CAR-T細胞療法の研究はまだ初期段階にありますが、非常に有望な臨床活性があり、安全であることが示されています。
ADCT-301(カミダンルマブテシリン)はCD25を標的とする抗体薬物複合体で、ピロロベンゾジアゼピン2量体の毒素と結合します。再発・難治性古典的ホジキンリンパ腫患者を対象とした最初の臨床試験において、有望な臨床活性が認められています。
再発・難治性ホジキンリンパ腫患者を対象とした初期単剤治療臨床試験で評価された薬剤
ペムブロリズマブ
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、メラノーマ、肺がん、頭頸部がん、ホジキンリンパ腫、胃がん、子宮頸がん、特定の種類の乳がんなど、様々な腫瘍性疾患の管理および治療に用いられます。がん免疫療法に分類されるヒト化抗体で、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる標的治療薬の一種です。
ニボルマブ
ニボルマブ(オプジーボ)は、免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法の一種)と呼ばれる標的治療薬の一種です。モノクローナル抗体で、T細胞と呼ばれる免疫細胞の表面にあるPD-1というタンパク質に結合します。がん細胞により免疫系が抑制されないようにする働きがあるので、免疫系はがん細胞を攻撃して死滅させることができます。
シンチリマブ
シンチリマブは、最低でも二次化学療法に失敗した後の再発・難治性古典的ホジキンリンパ腫の治療に適応される薬剤です。完全なヒト型IgG4モノクローナル抗体で、PD-1に結合することで、PD-1とそのリガンド(PD-L1およびPL-L2)との相互作用を阻害し、内因性の抗腫瘍T細胞応答を回復させます。
チスレリズマブ
チスレリズマブは、チセルリズマブなどの商品名で販売されているヒト型IgG4抗ヒトPD-1モノクローナル抗体です。マクロファージ上のFcガンマ受容体(FcγR)との結合を最小限にするよう特別に設計されています。前臨床試験において、マクロファージ上のFcガンマ受容体に結合すると、抗体依存性マクロファージ仲介のエフェクターT細胞死滅が活性化されることにより、PD-1抗体の抗腫瘍活性が損なわれることが証明されています。
チスレリズマブは、固形がんおよび血液がんの広範な治療薬として、単剤療法および他の治療薬との併用療法として研究開発が進んでいます。
カムレリズマブ
カムレリズマブ(AiRuiKa™)は、江蘇恒瑞医薬股份有限公司が開発しているPD-1阻害剤です。最近、中国で再発・難治性古典的ホジキンリンパ腫の治療薬として条件付き承認を受けました。B細胞リンパ腫、食道扁平上皮がん、胃腺・食道胃接合部腺がん、肝細胞がん、上咽頭がん、非扁平上皮非小細胞肺がんなど、ホジキンリンパ腫以外の様々な悪性腫瘍の治療薬としても研究されています。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、進行した肝細胞がんに対し、カムレリズマブの希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)指定を2021年4月に承認しました。
アベルマブ
アベルマブは、完全なヒト型IgG1抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体薬です。研究により、抗体依存性細胞介在性細胞傷害活性(ADCC)がある可能性が示されています。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫療法の一種で、免疫系によるがん細胞の攻撃を阻止するタンパク質を阻害する働きがあり、免疫系を構成する細胞によるがん細胞の攻撃を可能にし、死滅へと導くことができます。