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 ついにここまで来ました。ポアロ・シリーズの最終巻『カーテン』です。

 舞台がポアロ・シリーズ第一作と同じスタイルズ荘というのが憎い演出。

 

 読んでみると思いのほか重い雰囲気の作品でした。第一作『スタイルズ荘の殺人』から作中では何十年という月日が流れており、ポアロは介護がないと日常生活が送れないほどの状態で、ヘイスティングズも四番目の娘が成人していてそれなりの高齢です。

 ポアロの老いがかなり残酷に描写されており、ヘイスティングズも愛妻を失ってとても幸福とはいえず、またかつて殺人の舞台であったスタイルズ荘にも何か得体の知れない暗い空気が漂っており、作品全体に陰鬱さや、時が過ぎることの悲しみが刻まれている感じでしたね。

 

 ストーリーは大変おもしろかったし、よくできていました。ポアロが対峙する犯人のタイプもこういう系統は当時なかなか斬新だったんじゃないでしょうか。

 しかし、やっぱりポアロには殺人を犯してほしくはなかったし、ついでにいうとヘイスティングズにも人を殺そうとしてほしくはなかった。たとえそこに正義があったとしても。

 

 もともとアガサ・クリスティーはポアロをあまり好きじゃなかったらしいし、ポアロ・シリーズの中でも自身の分身のようなキャラクターであるアリアドニ・オリヴァ夫人の口から「自作の主人公の探偵を殺したい」というようなことを何度か言わせていますが、まぁ・・・正直、心の中で思うのは自由ですが、あまりそういうことを公言してほしくはないですよね。ポアロが好きな私としては、探偵である彼が殺人を犯すという・・・いわば晩節を汚すようなことを作者にさせられて退場するというのは、どうにも残念です。

 インパクトがある展開で、商業的には成功ではあるんでしょうけど。

 いちおう正義のために犯す殺人という形で、花を持たすような形になっているとはいえ・・・ね。

 

 ただ・・・もう一度言いますが、ストーリーとしては本当におもしろいんですよ。実によくできているんです。

 ポアロとヘイスティングズの友情がせつなくてグッとくる。

 事件が解決したことによって一人の女性の心が救われる展開なんかも、泣かせます。

 

 うーん、なんだか複雑だなぁ。ストーリー的にはおもしろいけど、展開的に納得いかないこの気持ち。

 

 あと、ヘイスティングズの娘のジュディスが、若さゆえの傲慢さと冷たさ全開な女の子で、なんだか好感が持てなかったな。博士の方も人として大事なものが欠けているし、この二人大丈夫か?とヘイスティングズじゃなくても心配になりました。

 ジュディスは根はたぶん悪い子じゃないと思うので、もう少し年を取ってくれば人の気持ちも汲める女性になるかな・・・。