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いわゆる「司法権の限界」と呼ばれる論点に関連する判例が,一部変更されることとなりました。

 

「司法権の限界」とは,簡単に紹介しておきますと,本来であれば裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に該当するにもかかわらず,何らかの理由により裁判をやってくれないという話です。

 

この度,地方議会の懲罰の一つである出席停止処分については司法審査の対象とならないと判断した最大判昭35.10.19(憲法判例百選Ⅱ(第7版)181,令和3年版有斐閣判例六法・有斐閣判例六法Professional憲法76条3番)が変更され,出席停止処分についても司法審査の対象となると判断されました。

 

事案
A市議会の議員であったXが,A市議会から科された23日間の出席停止の懲罰(本件処分)が違憲,違法であるとして,Yを相手に,その取消しを求めるとともに,議会議員の議員報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例(本件条例)に基づき,議員報酬のうち本件処分による減額分の支払を求める事案である。

 

争点普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となり得るか

 

判旨憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則として,その施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則を採用しており,普通地方公共団体の議会は,憲法にその設置の根拠を有する議事機関として,住民の代表である議員により構成され,所定の重要事項について当該地方公共団体の意思を決定するなどの権能を有する。
そして,議会の運営に関する事項については,議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,その性質上,議会の自律的な権能が尊重されるべきであるところ,議員に対する懲罰は,会議体としての議会内の秩序を保持し,もってその運営を円滑にすることを目的として科されるものであり,その権能は上記の自律的な権能の一内容を構成する。

他方,普通地方公共団体の議会の議員は,当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され……,議会に議案を提出することができ……,議会の議事については,特別の定めがある場合を除き,出席議員の過半数でこれを決することができる……。
そして,議会は,条例を設け又は改廃すること,予算を定めること,所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない……ほか,当該普通地方公共団体の事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができ,同事務に関する調査を行うことができる……。
議員は,憲法上の住民自治の原則を具現化するため,議会が行う上記の各事項等について,議事に参与し,議決に加わるなどして,住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである。

出席停止の懲罰は,上記の責務を負う公選の議員に対し,議会がその権能において科する処分であり,これが科されると,当該議員はその期間,会議及び委員会への出席が停止され,議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず,住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。
このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと,これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。

そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を判断することができるというべきである。

したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。

 

宇賀克也裁判官の補足意見①法律上の争訟 略

②国会との相違
国会については,国権の最高機関(憲法41条)としての自律性を憲法が尊重していることは明確であり,憲法自身が議員の資格争訟の裁判権を議院に付与し(憲法55条),議員が議院で行った演説,討論又は表決についての院外での免責規定を設けている(憲法51条)。
しかし,地方議会については,憲法55条や51条のような規定は設けられておらず,憲法は,自律性の点において,国会と地方議会を同視していないことは明らかである。

③住民自治
地方議会について自律性の根拠を憲法に求めるとなると,憲法92条の「地方自治の本旨」以外にないと思われる。
「地方自治の本旨」の意味については,様々な議論があるが,その核心部分が,団体自治と住民自治であることには異論はない。
また,団体自治は,それ自身が目的というよりも,住民自治を実現するための手段として位置付けることができよう。
住民自治といっても,直接民主制を採用することは困難であり,我が国では,国のみならず地方公共団体においても,間接民主制を基本としており,他方,地方公共団体においては,条例の制定又は改廃を求める直接請求制度等,国以上に直接民主制的要素が導入されており,住民自治の要請に配慮がされている。
この観点からすると,住民が選挙で地方議会議員を選出し,その議員が有権者の意思を反映して,議会に出席して発言し,表決を行うことは,当該議員にとっての権利であると同時に,住民自治の実現にとって必要不可欠であるということができる。
もとより地方議会議員の活動は,議会に出席し,そこで発言し,投票することに限られるわけではないが,それが地方議会議員の本質的責務であると理解されていることは,正当な理由なく議会を欠席することが一般に懲罰事由とされていることからも明らかである。

したがって,地方議会議員を出席停止にすることは,地方議会議員の本質的責務の履行を不可能にするものであり,それは,同時に当該議員に投票した有権者の意思の反映を制約するものとなり,住民自治を阻害することになる。

「地方自治の本旨」としての住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎付けながら,住民自治を阻害する結果を招くことは背理であるので,これにより地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象外とすることを根拠付けることはできないと考える。

④議会の裁量
地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象としても,地方議会の自律性を全面的に否定することにはならない。
懲罰の実体判断については,議会に裁量が認められ,裁量権の行使が違法になるのは,それが逸脱又は濫用に当たる場合に限られ,地方議会の自律性は,裁量権の余地を大きくする方向に作用する。
したがって,地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象とした場合,濫用的な懲罰は抑止されることが期待できるが,過度に地方議会の自律性を阻害することにはならないと考える。