九月の夜想曲 ~ブルームーン<九十九の涙に彩られた刻の雫>~

行間に綴られた言葉を、共に知る方へのメッセージ

『小雨降る空港に降り立って』 第十三夜

2020年05月25日 | 日記
 
 「まあ、馬のウンチみたい。」
 
 隣で、連れの男性がうんざりした表情をしている。
 
 さきほどまで退屈そうにしていた、さっちゃんの瞳が、輝きを増している。
 
 小さい子は、なぜかウンチがお好き。
 
 ウ〇〇~がお好きでしょ~♪
 
 やめましょう。その歌は。
 
 「うちの実家が、『ディアハンター』で旅館をやってるのよ。」
 
 ピンときた人は、連れの男性と、私くらいだろうか。
 
 アイランドには、変わった地名が多い。
 
 「そうですね。確かに似ていますね。
  実際に、モンゴルでは、馬糞を燃料として使用していますし。」
 
 「へえ~、そうなの?」
 
 今度は、連れの男性が食いつく。
 
 「じゃあ、これもやっぱり・・・」
 
 実家が『ディアハンター』の麦わら婦人が、暴走しそうだ。
 
 ウ〇〇~がお好きでしょ~♪
 
 だから、さっちゃん、よい子だから、その歌はやめようね。
 
 んっ?でも、時代的におかしくない?
 
 なぜ、さっちゃんがその歌を?
 
 でも、他の人たちは、気に留める風でもない。
 
 
 「これは、ピートというものです。
  シダや苔などが堆積し、永い年月をかけて泥炭になったものです。
  スコッチウイスキーなどで独特の風味を生むピートは、
  10cm堆積するのに100年程を要すると考えられています。
  今でも現地では冬の家庭用燃料として使われているそうですよ。」
 
 「ほお~」という声がこだまする。
 
 「実は、ピートは『ストーンハンティング』平野でも
  採取することが出来ます。
  それが、竹鶴政孝がこの地に蒸溜所を建設した
  理由の一つと言われています。」
 
 「ほお~」のこだまが、往復している。
 
 「この蒸溜所でも、このピートを燃料にしてるの?」
 
 ついに、アメリカンチェリー風味のハイチュウに到達した女性が、首の後ろに回した右手を左手でストレッチさせながら、問いかける。
 
 一緒に参加しているドレッドヘアの女性の雰囲気からも、二人はスポーツジム関係の友人のよう。
 
 特に詮索はしないけれど・・・(している?)
 
 「この蒸溜所では、大麦を麦芽にする工程、
  これを“モルティング”といいますが、
  この工程を行ってはいないのです。
  指定したレシピでつくられた麦芽を仕入れています。
  そういう意味では、キルン塔と呼ばれるあの三角の煙突は、
  歴史的建造物の位置づけですね。
  ここで製麦をしていましたら、あそこから、
  ピートや石炭を燃やしたときに出る煙が見えるのですが。」
 
 「そうか・・・見たかったね。」
 
 北千住の大旦那さま(勝手に命名しています)が、しみじみと仰る。
 
 
                   Written by Z

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