「まあ、馬のウンチみたい。」
隣で、連れの男性がうんざりした表情をしている。
さきほどまで退屈そうにしていた、さっちゃんの瞳が、輝きを増している。
小さい子は、なぜかウンチがお好き。
ウ〇〇~がお好きでしょ~♪
やめましょう。その歌は。
「うちの実家が、『ディアハンター』で旅館をやってるのよ。」
ピンときた人は、連れの男性と、私くらいだろうか。
アイランドには、変わった地名が多い。
「そうですね。確かに似ていますね。
実際に、モンゴルでは、馬糞を燃料として使用していますし。」
「へえ~、そうなの?」
今度は、連れの男性が食いつく。
「じゃあ、これもやっぱり・・・」
実家が『ディアハンター』の麦わら婦人が、暴走しそうだ。
ウ〇〇~がお好きでしょ~♪
だから、さっちゃん、よい子だから、その歌はやめようね。
んっ?でも、時代的におかしくない?
なぜ、さっちゃんがその歌を?
でも、他の人たちは、気に留める風でもない。
「これは、ピートというものです。
シダや苔などが堆積し、永い年月をかけて泥炭になったものです。
スコッチウイスキーなどで独特の風味を生むピートは、
10cm堆積するのに100年程を要すると考えられています。
今でも現地では冬の家庭用燃料として使われているそうですよ。」
「ほお~」という声がこだまする。
「実は、ピートは『ストーンハンティング』平野でも
採取することが出来ます。
それが、竹鶴政孝がこの地に蒸溜所を建設した
理由の一つと言われています。」
「ほお~」のこだまが、往復している。
「この蒸溜所でも、このピートを燃料にしてるの?」
ついに、アメリカンチェリー風味のハイチュウに到達した女性が、首の後ろに回した右手を左手でストレッチさせながら、問いかける。
一緒に参加しているドレッドヘアの女性の雰囲気からも、二人はスポーツジム関係の友人のよう。
特に詮索はしないけれど・・・(している?)
「この蒸溜所では、大麦を麦芽にする工程、
これを“モルティング”といいますが、
この工程を行ってはいないのです。
指定したレシピでつくられた麦芽を仕入れています。
そういう意味では、キルン塔と呼ばれるあの三角の煙突は、
歴史的建造物の位置づけですね。
ここで製麦をしていましたら、あそこから、
ピートや石炭を燃やしたときに出る煙が見えるのですが。」
「そうか・・・見たかったね。」
北千住の大旦那さま(勝手に命名しています)が、しみじみと仰る。
Written by Z