そんな日々の、四月のとある夕方のこと。
散歩に出かけるため、わたしはピピの庭のフェンスの扉を開けました。
すると、その庭の真ん中に
「仁王立ちッ!!」
というかんじで、ピピが四つ足をふんばり、とはいえ仁王様の足は二本ですからピピのように四本だと仁王様二人分、仁王二倍立ちという迫力で、わたしの正面に立っていました。
二倍仁王ピピから、これから繰り出す散歩への期待感が、火炎のようにムラムラと立ちのぼっています。
わたしはその二倍仁王に近づくと、そのムラムラの、まだまだ太りすぎでプリプリした背中のその両わきを
「つるつるっ!!」
と素早く撫でました。ついでに
「ピーピキーー!!」
と、高い声を出しました。
「はっ・・・!!」
バチバチッ!!
ピピ仁王の火炎が弾け、散歩の引き綱をとりにピピの寝箱のあたりまで歩いていくわたしのその一歩ごと
「がうがうがうがう!!」
恐ろしい顔で飛びついてきます。
やっとこさ、引き綱にたどりついたわたしがそれを手にすると、今度は
「はうっはうっ!!はうっはううっ!!」
頭を激しくふりまわし、ピピ仁王は引き綱を首輪につけさせないのです。
その上
「ぎゅるぎゅるぎゅるっ」
鼻の上にたくさんのしわを集め、わたしの腕を
「がふっがふっ」
噛んでくるのです。
とうとう、わたしは怒りました。
「ぴしゃっ!!」
引き綱を、地面に投げ捨てます。
ピピの動きが、ふっと止まりました。
「もう、しらない!」
わたしは捨てぜりふを残すと、すたすた歩いてフェンスの扉へ戻りました。
そして扉を開け、ピピの庭を出ざまに振り向きました。