らぶばなです。みなさまお元気ですか? 引きこもり生活は精神的に辛いですが、コロナに負けずにがんばりましょう。アッシュ視点のお話を創作しております。楽しんでいただけたら幸いです。
今までの二次小説の目次(インデックス)はこちらをご参照ください。
「俺が守りたかった世界、願った未来(2)」
ショーターの店に行ったのは二週間ぶりだった。扉を開くと、ジュッジュッと食材を炒める音と共にやや強めの香辛料と調味料の匂いが漂ってきた。
入り口で立ち尽くす俺の姿を見つけたショーターが厨房から手を振り、こっちへ来いと手招きする。
「よぉ〜、アッシュ! 久しぶりだな! 英二ならもう来てるぜぇ」
そう言って窓際のテーブルを指差すと、英二はすでに席に着いていた。こっちに気づいていないのかメニューを真剣に眺めている。
「真面目に働いているんだな、ショーター。シャオリンは元気か?」
「あぁ、どんどん美人になってくぜ。。。将来女優になって稼いでもらわないとな」
「はは、とんだ親バカだな。。。まだ4ヶ月だろうが」
ショーターはガールフレンドとの間に子供ができ、籍を入れた。まだ結婚式はあげてないが、実家の店を継ぐべくマーディアに毎日しごかれているようだ。
紫色の逆立てた髪で赤ん坊にミルクをあげているのかと思うと少しシュールな気もするが、ショーターは相変わらずひょうきんで周りを明るくしてくれるムードメーカーだ。きっと楽しい家庭を築いていくだろう。
「日頃の修行の成果を見せてもらおうじゃないか。」
「おう、まかせとけ」
ようやく俺に気づいた英二は控えめに手を振った。さっきからメニューとにらめっこしてたことが俺にバレていると思ったのだろう。ちょっと照れ臭そうに笑った。
「やぁ、アッシュ。気づかなくてごめんね」。
俺はクスッと微笑みながら英二の向かいの席についた。ショーターに向かって、「ビール2本!」と言ってから メニューを手に取った。
「オニイチャン、一体どれだけ腹空かせてんの? かわいそうだから奢ってやるよ。」
俺の言葉に目を輝かせた英二は、嬉しそうにメニューを指差し始めた。
「やったぁ!!えーっと。。。蒸し餃子でしょ、チャーハンでしょ、ラーメンでしょ、回鍋肉もいいなぁ、あー、でも蒸し鶏のサラダも捨てがたい。。。」
「おいおい、どれだけ食うんだよ。。。。太るぜ?」
俺はわざと英二の腹回りや二の腕をじーっと見つめた。俺の視線に気づいた英二は「うぅー」と唸りながら恥ずかしそうに俯いた。食欲を取るか体型の維持を取るか葛藤しているようだ。
もともと細身の英二は少々太ったところで全く問題ないのだが、こいつは俺の美意識の高さをよく分かっている。少しいじめすぎたかと思い、俺はちょっと大げさにアハハと笑った。
「冗談だ。。。おい、また何かで悩んでいるのかよ?オニイチャン」
英二はストレスがたまると食欲が出てくる。いわゆる”やけ食い”をする時がたまにある。きっと何か気がかりなことがあるのだろう。
俺に隠し事は通用しないと理解したのか、英二は頰に空気をぷくっと膨らませた。その顔、まるで餌を頬張っているリスみたいだぜ? 納得していない表情をみせながらも、英二は勘弁したようにため息をついた。
「君には何でもお見通しだなぁ。。。その通りさ。今日は授業でリチャード先生に小言を言われてしまったよ」
「どうして?」
「君は写真の技術を追求しようとしすぎだって。もっと僕が感じたものを自由に表現した方がいいって」
「。。。でも、俺はお前の写真、好きだけどな」
これは俺の本当の気持ちだ。英二の写真からは温かな気持ちが伝わってくるからだ。俺のよく知っている街が全く違うものに見えてしまうから不思議だ。
「。。。。へへっ、君にそう言われると嬉しいよ。ね、また僕の写真のモデルになってくれない?」
「えー、また?この間もやっただろう?」
「だって、君以上に素敵なモデルなんていないもの。ね、お願い!僕を助けると思って!」
肘をテーブルにつき、両手を合わせて英二は頼み込んできた。アーモンド型の大きな瞳が俺のを捉える。こうなると俺は何も言い返すことができなくなる。
「。。。。分かったよ」
(いつもこの手でやられている気がする。。。)
「やったぁ! アッシュ、ありがとう!」
英二は俺の両手を握ってブンブンと振りだした。
「おいおい。。。ガキかよ?」
俺は呆れながらも、英二の役に立てていることが本当は嬉しかった。
***
翌日、俺は再びグリフのいる病院へ顔を出した。ちょうどリハビリを終えたグリフは車椅子に乗って病室に戻るところだった。
「グリフ!今日の調子はどうだ?」
「アスラン。。。良い。来てくれ。。。て、あり。。。がとう」
まだ流暢ではないものの、グリフは自分の言葉で俺に話しかけてくれた。
グリフの背後からヒョコッと小さな顔が飛び出してきた。
「アッシュ!今来たのか? 」
「よぉ、スキップ。悪いな、面倒かけて」
「何言ってんだよ。俺は慣れてるから。。。それにボ。。。いや、アッシュがたんまり小遣いくれるから助かってるよ。悪いと思うのならもっとチップをはずんでくれてもいいんだぜ?」
そう言いながらスキップはウインクをした。
「考えておくよ」
俺は笑いながらスキップと交代して兄貴の車椅子を押した。
スキップを帰らせた後、俺は病室の窓とドアを開けて空気を入れ替えた。以前は発作を起こしたグリフが飛び降りるかもしれないからと絶対に開けることはしなかった。
爽やかな冷たい風が部屋を通り抜けていて心地よい。グリフも目をやや細めているが、表情は柔らかい。
テーブルの上には俺の仲間たちからの贈り物やメッセージカードで溢れていた。グリフの身に起きた奇跡と、それを祝ってくれる人々の気持ちがとにかくありがたかった。これらはグリフを励まし、元の生活に戻るための活力になるだろう。
ふと、グリフが俺をじっと見ていることに気がついた。
「どうしたんだ? 着替えか?」
グリフは首を左右に振った。そして微笑んだ。
「聞かせ。。。て。 アスランの友達の。。こと。エイ。。ジ」
「あぁ、英二のことか。前にいまあいつとルームシェアをしているって話したよな? いまあいつはカメラを勉強するためにアートスクールに通っていて。。。」
ふだん無口なことが多い俺だが、英二に関しては別だ。次から次へと言葉が自然に口から出てくる。俺は英二との思い出や今の現状を語り出した。
グリフは俺の話したことをどれぐらい理解しているのか分からない。俺は確認することも忘れて、とにかく英二について熱く語りまくった。なぁ、兄貴。俺はよくあんたの前で泣いていたよな。でも、本当はこんな風にもっと楽しいことを話したかったんだよ。聞いてもらいたかったんだよ。
ようやくハッと我に返った俺は、グリフの表情を確認した。グリフは穏やかに微笑んでいた。俺の話がどれぐらい伝わったかは分からないが、どうやら俺に大事な友達ができたことが嬉しくてたまらないようだ。
(俺はガキか…)
なんだか恥ずかしくなってきた俺は、冷蔵庫からペットボトルを2本取り出してそのうちの1つをグリフに渡した。
冷たい水が喉を通ると、なんだか少し冷静になれたような気がした。
「そろそろ窓を閉めるか。。。」
ふと窓から、よく見なれた黒い頭が目に付いた。それは英二だった。グリフの見舞いに行くと話していたのを思い出した。
俺は窓から手を振ろうとしたが、英二は連れが二人いた。一人は同じアジア系の女で、もう一人はヒスパニック系の男だ。カジュアルな服装をしていて、カメラバッグをそれぞれ抱えている。どうやらスクールの友達らしい。
楽しそうに談笑している英二を見ると、なんだか別世界にあいつがいるように思える。仕方のないことだが、なんだか背中が冷やっとした。
しばらく見ていると、英二は友達と別れて病院の敷地に入ってきた。俺を見つけると、いつものように顔をくしゃっとさせてとびきりの笑顔を見せてくれた。それを見て、ようやく俺は安心できた。
「英二!」
俺は満面の笑顔で窓から手を振った。
*続*
(あとがき)
お読みいただきありがとうございます。今回は出来るだけアッシュの内面を丁寧に書いていきたいなぁと思っています。一体どれだけ寂しがり屋なんだ、アッシュは。。。
お付き合いいただきありがとうございます。よければ小説へのご感想、リクエスト等お聞かせくださいね。フィッシャー様とのおしゃべりから素敵なネタが浮かぶことも多いですので。。。お気軽につぶやいてくださいませ!!
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