肌寒い曇天の下、能登川の猪子山へ。
樹々は落葉し、下草は刈り取られ、足元には枯葉ばかりが絡みつく中、真冬に咲く椿の花だけが赤く染まっていた。
殺風景な場所に冷たい小雨が地面を濡らしていた。
真新しい丸木を踏むのも躊躇われる。
帰りは別の道で。
もう十年近く、そう訴えかけてる。
あなたの嫌いな大人になんかはなってはいないだろうね。
どんな大人ならば、受け入れてもらえるのだろう?
今の自分さえ受け入れられない親父にそう問いかける資格はない。
でも、理由なき反抗は大人でもするんだよ。
良くも悪くも大人って、意地を張り通して我を強くしてきた存在。
物事をありのままに見つめることは、そんなフィルターのかかった心には至極困難なこと。
生まれたばかりの赤ん坊のような透き通った瞳とやわらかな頭を取り戻せたら、赤児のようにきっと急激な成長ができるだろうに。
ただ、自然の中に身を置くと、ほんの少しだけ遠くの記憶を呼び戻せる気がする。
純朴な素直な心。
駆け引きばかりの世の中に、心通いあう商売だってあり得る。
そう信じている大人だっている。
それを甘いと笑わば笑え。
「大人なんてキライ」
それは大人の発する言葉でもある。