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三年生編 第96話(7) [小説]

「ふうっ……」

「とてもそんな風に見えないけど」

会長が、弓削さんの表情を見ながら何度も首を傾げた。

「そうなんすよ。弓削さんに会った人は、みんなそういう
印象を持つんです」

「いつきくんも?」

「僕もしゃらもです。実生と同い年なのに礼儀正しいし、
言葉遣いとか姿勢とか、崩れたところが全くないんで」

「ふうん」

「でも、感情が見えないんですよ」

「……」

「僕やしゃらだけじゃない。りんだってばんこだって、な
んらか事情を抱えてます。いや、それはみぃんなそうなん
じゃないかと。もちろん、伯母や会長も含めて」

「ええ、そうね」

「そういうところから出てくる感情。全部は見えなくても、
どっかで漏れますよ。ポーカーフェイスって言われた僕だっ
て、最初から会長に分かるくらいには漏れてます」

「あはは。そうね」

「でも、弓削さんからは一切。そう、誰にも一切それが見
えないんですよ。あの五条さんでさえ、ぶりっ子だとみな
してましたから」

「うわ……」

「見えないんじゃなくて、見せてない。隠してる。そう見
られちゃうんです」

「……。ねえ、いつきくんは、どうしてぶりっ子じゃないっ
てことを見抜いたの?」

「会話が成立しないんですよ。相手の誘導に全部イエスで
答えちゃう」

「ええっ!?」

会長が絶句。

「ああ、これはぶりっ子じゃない。言っちゃ悪いけど意思
のない白痴だ。それが僕の出した結論です」

「それで伯母さまが?」

「はい。伯母は乾いているように見えますけど、ものすご
く情の濃い人です。そうじゃなきゃ、何の関係もないりん
やばんこのサポなんか進んでしませんよ」

「うん」

「ただ、伯母がどんなに弓削さんのことを案じても、壊さ
れ方が半端じゃない弓削さんのケアはお金や力だけじゃ解
決しない。大変……です」

「なるほど」

「弓削さんだけならなんとかなるんでしょうけど、赤ちゃ
んが絡んでしまいますから」

「手放すつもりは?」

「全くないみたいです。弓削さんの拠り所はそこしかあり
ませんから」

「そ、そういう理由……かあ」

「ええ」

「うわ……」

大抵のことはクールに冷静に考える会長が、絶句したまま
動かなくなった。
まあ、ここで何かすぐにああしろこうしろって話じゃない。
会長が弓削さんのことを頭のどこかに置いといてくれれば、
それでいいよね。


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