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三年生編 第98話(6) [小説]

あの、こわそうなお父さんが爆裂かあ。それも見たいなあ。
わはははは!

「じゃあ、しゃらのアパートに寄って、それから伺います」

「あれ?」

今度は、先輩が首を傾げた。

「アパートって……何かあったのかい?」

「しゃらのお父さんがやってる理髪店は、林さんていう人
から借りてたとこだったので、そこを買い取って今新しい
お店と家を建ててる最中なんですよ」

「おおっ! そりゃあ、めでたい! じゃあ、今は仮住ま
いってことね」

「はい!」

しゃらが、さっきまでの不機嫌顔なんかどっかに置き忘れ
てきたーみたいな感じで、目尻を下げて笑った。

「なるほどなあ。ちょっといない間に、いろいろ変わっちゃ
うんだなあ」

先輩がぽそっと言ったこと。
僕もしゃらも、思わず黙り込んでしまった。

そうなんだよね。
ぽんいちに入学して、中庭プロジェクトの立ち上げに奔走
して、その時に先輩と出会った。
僕と中庭の付き合いには、いつも先輩がセットだったんだ。

虎ロープで封鎖した時の騒動、台風のあとの鎮護と鳳凰の
招聘、羅刹門の亀裂封鎖……。
同じプロジェクトメンバーということじゃ収まらない数々
の数奇な縁があって。

でも。先輩が卒業していなくなっても、中庭もプロジェク
トもまだ残ってる。
先輩がいなくなってしまっても……ね。

僕はそれが無性に寂しかったんだ。

今先輩が覚えている疎外感や寂しさみたいなものは、来年
僕やしゃらを激しく蝕むだろう。
僕らは、その変化を乗り越えることが出来るんだろうか。

「おっと」

三人してお通夜みたいな雰囲気になっちゃったのを嫌気し
たんだろう。
先輩が、ぶるっと首を振って笑顔を取り戻した。

「さっさと行こう。そんなに時間の余裕ないし」

「あ、すみません」

「じゃあ、先に実家に行ってるから、後で来て」

「はあい!」

先輩は、賑やかに何か歌いながら、坂口の商店街の奥に突っ
込んでいった。

「うわ……まるっきりイメージ変わっちゃったあ」

まだ信じられないっていう風に、しゃらが固く目をつぶっ
てる。

「まあね。酒田先輩とか恩納先輩とかは大学入ってもあん
まり変わってなかったから、そのコントラストもあるんで
しょ」

「そっかあ」

僕は、さっき散々しゃらにどやされたその逆をねじ込むこ
とにする。

「てかさー。来年はしゃらもああなるんだぜ? 心配だな
あ」

「きゃははっ! ないない」

けらけら笑ったしゃらが、手をぱたぱた振って否定する。

「うちは、お父さんがすっごい厳しいもん。あんな格好し
たら家に入れてもらえない」

「あわわ」

「わたしも、そんなに冒険したくないしー」

「ふうん」

それはちょっと意外だった。
デートの時には気合い入れてキメてくるタイプだったから、
てっきりそっち方面に興味があるんだと思ってたんだけど
な。
付き合いが長くなっても、分かんないことはまだまだある
ね。

「いっき、早く行こ。先輩、待たせちゃう」

「お、そだな。やばやば」

ばたばたばたっ!


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