「ほう、それで?」
明らかに笑いをかみ殺した震えた声で聞いてきた。
「それで・・って、これだよ」
左頬の痛々しい大きな絆創膏を指さして見せると、もう耐えられないとばかりに友人のオノイチは声にならない声で爆笑した。
「お・・・お前、猫と付き合ったんかよ。」
絆創膏の下は別れた美香の爪でつけられたミミズ腫れ。
「うるせ~よ」
口を尖らせると傷に響く。
すると、やっと笑いを収めたはずのオノイチが、再び腹を抱える。
・・・・笑い袋か、貴様は。
ああ、やってらんね~。
それにしても、あれだけ悪態を付けるものかね?女ってのは何人と付き合っても謎が多い生き物だ。
でもまぁ、今回ストーカーにはなりそうになかったのは良かった。
煙草に火をつけて一服。
空に紫煙が登ってゆく。
今日は秋晴れと言う言葉がピッタリに良い日だなぁ。
と、やっと気持ちを切り替えていたのに、横でシャッター音。
見ると、目じりに薄っすら涙をためたオノイチがスマホで撮っていた。
「・・・・んだよ。」
「いやぁ、いい男ぶりだなぁっと思ってね。
俺一人で楽しむのは勿体ないだろ?」
ひーひー言いながらオノイチが言う。
ああ、はいはい。
勝手にしてくれ。
もうネタにされるのも慣れた。
隠したところで事実は変わらん。
少なくとも、オノイチをはじめとした数人の友人らで楽しむ程度の事だ。
怒る気にもならない。
それよりも・・・
「なぁ、何か仕事ないかな?」
「ん~、なんかと言ってもなぁ・・・。
え~~~と、そうだ。
榎本、覚えているか?」
「え?
ああ、うん。」
「なんかさ、店の方で短期で人が欲しいって言っていたぜ。」
「短期・・。どのくらい?」
「ん~、長くて数か月だって言っていたような?ちょっと待てよ、連絡先教えるから。」
「因みに、業種は?」
「バーだったかな?
客商売。お前向きだろ。・・・あった、ほら名刺。」
数日後から働く事になったところで、俺の運命を変える出会いが待っていた。