澤田ふじ子氏は豊富な語彙力と的確な描写が魅力の実力派作家である。

西陣織に関係する仕事をしていたということで、着物や小物などの描写には特に鋭いものがある。

 

その澤田氏が「なぜ時代小説を書くのか」という問いに答えたことがある。

 

「質問を受けるたび、わたしはいつも曖昧な返答をしてきました。一言で質問者を納得させる答えがなかったからです。しかし、ここで簡単に言えることは、いつも古い時代について、知識としての興味をもちつづけていたことや、良質の時代小説(歴史小説)を、注意深くよんできたことでした。動機となったのは、古い時代の絵画や彫刻、また陶芸や民芸品に対する深い興味でした。そうしたものを出発として、わたしは時代小説を書きはじめました」

 

とある。さらには、

 

「もう少し、どうして時代ものを書くかを明かすと、現代であれ古い時代であれ、この世に生きている人間の諸相には、さして変わりがないと考えているところに、根本の因子があるようだ」

 

「人間ドラマのまわりを装うものが、今日的なものか、あるいは古い時代のものかだけの違いで、全く異なってみえる二つは、人間において一つになりうると考えるのである」

 

「わたくしは風景を眺めるとき、そこを通りすぎていった時代と人々に思いをはせるのである」

 

とも書いている。

 

示唆に富んだ言葉だが、個人的に最後に一文には強い共感を覚えた。

 

討たれざるもの(中公文庫)澤田ふじ子

 

↓ よろしかったら、クリックをよろしくお願いいたします。

人気ブログランキング