お前の夢で眠ろうか 5

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「よっ、良太ちゃん」
「あ、ヤギさん、すみません、実は工藤がまだでして」
「ドラマ、本決まりだって?  まああと二時間はかかるだろ。メシ行こ、メシ」
 良太の返事も聞かずに前を行く通称〝ヤギ〟こと無精髭の下柳はここMBCテレビ生え抜きのディレクターだ。
 工藤は彼の二年後輩にあたる。
 ドキュメンタリー番組の企画の打ち合せでアポを入れてあったのだが、工藤は別枠の新しいドラマ制作の企画会議に入ったっきりだ。
 とっくに午後の一時をまわり、下柳との約束の時間も過ぎてしまっている。
 忙しい仕事の合間を縫って何とか大学も卒業し、入社して一年ともなれば、最初は背筋がむずむずした「良太ちゃん」という呼びかけにも慣れた。
 局近くのカフェレストランは下柳の馴染みらしく、顔を覗かせるとすかさず奥の席に案内される。
「それで? 嘉人でいけそう?」
「来年は大河ドラマ収録期間中を除けば、夏から映画入るんですが、スケジュール的には何とか」
 ドキュメンタリー番組枠に、工藤が呈した企画はスカンジナビアの人間探訪というもので、青山プロダクションの看板俳優、志村嘉人をナビゲーターに起用し、約一年間に渡ってのロケになる予定だ。
 工藤が忙しい時は、代わりに良太がこうしておおよその話を進めたりすることも最近ではよくあることだ。
 勿論、相手が工藤でなければ話にならないということも少なくないが。
 堅い内容の番組を扱うことが多く、高視聴率を取ることは二の次だという下柳は、工藤がMBCを辞めてからもつきつはなれつ、組んで仕事をすることが多かった。
 互いに言いたいことを言える悪友というところなのだろう。
「スタッフはどう?」
「一応ピックアップしたスタッフには打診してあります。スポンサーは『フジタ自動車』と『水野製薬』がメインで、英報堂の黒木さんにも話をとおしてあります。企画会議は下柳さんのご都合に合わせて調整すると工藤が言ってました」
「良太ちゃんは優しいなあ。工藤のガキがそんな気遣いするか」

 


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