温かい日が続いていたが、今日は少し気温が低くなった。
ようやく、厳しさを伴う修行ができる。
そう思うと、滝に行くのが億劫になる半面、それを楽しみにしている自分がいる。

毎回のように般若心経の唱える回数が増えていき、それだけ滝に打たれている時間が長くなっているのだが、いくらやってもやり足りないような気がする自分がいる。
本気で願掛けをしているつもりなのだが、どこまでやればその本気度がご神仏に伝わるのだろうかと不安になる。
その結果、より寒い日により長い時間、滝に打たれたいと言う思考になってしまう。
本気でしているなら限界までするのが修行だろう、ほどほどにしている修行などあり得ないと思っているのだ。
そうすることで報われるなら頑張ろう。

今日は気温は低いらしいが、陽なたにいると温かい。
これは寒さに体が慣れてきているからだろうか。
道中の気温計は15度を示していたが、以前に15度だったときにはもっと肌寒さを感じていたのに。
これなら山の上は10度を切っているだろうな。
水も夜の冷え込みで冷たいに違いない。
寒さのイメージをしてみる。
まだ、大丈夫だ。
意気込んで、バイクを走らせた。

山の上は予想通りひんやりとしていた。
これだこれだ、これが私の望んでいた状況だ。
そう思いながら、休憩所を覗くと浦野先生が座って何かを読んでいらした。
他には誰もいない。
やはり寒くなると滝に打たれる人は少なくなるのだろう。

今日は滝に打たれる以外に、先日分けていただいたお守りにお不動さんのエネルギーを分けて入れてもらうことがある。
別に難しい儀式をするわけではなく、お不動さんの前でお守りを両手に挟んで、エネルギーを分けて下さいとお願いするだけだ。
本堂のお不動さんに滝に入る前の挨拶をして、その続きにお守りにエネルギーを分けてもらえるようにお願いをした。
エネルギーも何も感じない私には、本当にエネルギーが入ったのかどうかは分からないが、何かにすがるときにはとにかく信じてするしかない。

さっさと行衣に着替えて、外に出ると間違いなくこのシーズン一番の冷え込み。
ひんやりとした空気が薄い行衣を通して肌にまとわりつくと、体が震えた。

休憩所前の成田山不動尊に挨拶をして、奥の滝行場に向かった。
奥の滝行場にまつられるお不動さんは出世不動尊。
出世は望んでいないが、仕事は上手く行くようにお願いしたいところだ。
滝行場の横のお堂の気温計は8度だった。
以前も8度の日はあったが、その時よりも水は冷えているのだろうな。
覚悟を決めて、お堂からお不動さんを呼び出す鈴を鳴らし挨拶をすると、お堂前に塩を撒く。
ここまで来れば引き返せない。
そういえば、今日は何もお出迎えが無いな。
落ち葉もなければ、鳥もいない。
少し寂しい気もするが、この様に滝に毎回来させてもらえていること自体が御利益。
お不動さんが導いてくれているのだ。

滝行場に入ると、一通りの作法を慣れた手つきでこなしていくと、次は滝から落ちる水に手をさらす番だ。
滝の水を睨み付ける。
どんなに冷たくても、今日も最後までやり切るんだ。
そう言い聞かせて、水に手をさらす。
腕を伝って体に冷水が流れる。
間違いなく今年一番冷たい。
でも、逃げ出すほどじゃない。
一気に背中で水を受けた。
全身に水が流れてまとわりつき、背中からお尻、太股と水が流れると、体がぐっと締め付けられて、内臓から冷えてくるように感じた。
これはあまり長くは続けられないかも。
そう思いながら、不動妙王真言を十数回唱えて般若心経に移る。
般若心経を五巻唱える当たりから、体が水に慣れてきた。
そうすると、寒さ、冷たさはほとんど感じなくなる。
とりあえず般若心経を十巻まで行くと、今日のもう一つのやりたかったことに移る。
それは、天津祝詞を唱えること。
般若心経の代わりに祝詞を唱えるとどうなるのかを、感じてみたかったのだ。
前回に数回唱えた感じでは、滝行との相性は悪くはない。
般若心経を唱えるようなリズム感はないが、呼吸の仕方の問題なのか、唱えていても体が冷えることはない。
般若心経を必死に唱えるときには、寒さに負けないようにと、唱えるのを止めると寒さが襲ってくるような恐怖があるために、早口で般若心経を唱えるのだが、祝詞の時には早口は似合わない。
ゆっくりと一言一言をはっきりと唱えることになる。
もしかすると、体が冷えてくるのではないかと思ったが、そんなことはなかった。
逆に体は温かく感じていた。
これは良い。
今日は合間合間に天津祝詞を入れよう。

般若心経は20巻に達していた。。
この感じだと際限なく唱えていられるんじゃないかと感じる。
その程度の負荷では修行になっているのだろうかと、疑問に感じながら、滝に当たっている自分がいた。
全然集中していないな。
これで御利益はあるのだろうか・・・

でも、20巻でも40巻でもそれ程変わらない疲労ならば、適当なところで打ち切るのもありだろうなとも思ってしまう。
でも、せっかく入ったのに、さっさと出るのはもったいないと思っている自分もいる。

そうこうしているうちに、25巻まで。
ここでいきなり体に変調が来た。
脚が冷えてきている。
お腹にも冷えが回っているように感じる。
やはり、冷たいと感じていなくても、確実に体は冷やされているらしい。
後、5巻唱えたら今日は出よう。
恐らく、祝詞を唱えている時間も入れると、40巻以上唱えているときと変わらないだろう。

般若心経30巻を終えたところで、滝を出た。
水に濡れて、体にまとわりつく行衣が冷たい。
ここから、脱衣所までの数十メートルが寒いのだ。
体に震えがやってくる。
脱衣所に、浦野先生が足湯を用意してくれていた。
そこに足を浸すと、足からずーっと体に暖かさが伝わってきた。
ずっとそこに立っているわけにも行かないので、休憩所に入って服を着るが、そこでまた震えが始まる。
震える手で服を不器用に着ていく。
今日もそれなりには頑張っていたんだなと、この時に感じる。
休憩所にはおばあさんの4人組みがお茶を飲んで浦野先生と談笑をしていた。
浦野先生の当番の時には、やはりこういう風景が合うなあと心が安らいだ。

奥のお不動さんに今日のお礼を伝えると、温かいお茶を頂いた。
ゆで卵も頂いたが、殻を剥く手が震えて大変だった。
30分ほど休憩をして、体を温めると、今日の最後のミッション。
護摩堂の願力不動尊に仕事のお願いをした。
まだ、体は冷えていたのだろうか、合わせる手がずっと震えていた。
これからは、もっと体が冷えるのだろうが、慣れていくのだろうか。
もし、慣れないものであるなら、冬場はバイクでは来れないな。
震える体でバイクに乗っていたら、事故に遭いかねない。
それでは、何をしに来ているのか分かったものではない。