波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

夕日に火傷した白鳥

2018-12-19 09:39:56 | 超短編




 ここはМ湖の畔。数人の女子高生が、傷ついた白鳥の保護という活動で来ている。
 双眼鏡を覗いて、
「あそこにいる鳥が、おかしな動きをしている」
 などと叫んで、彼女たちなりの診断を下してボートを駆って行くのである。
 今も草木の繁茂する向こう岸に、一羽の負傷した白鳥がいると言って、三人乗りのボートで出かけて行った。
 ぼくは大学生の奉仕員として、湖畔に来ていた。しかしぼくたちは、白鳥のためというより、白鳥の救助に来ている彼女たちを見守るためといったほうがよかった。遅くなると、実家まで送り届けなければならなかった。
 ぼくたちが学生という若い身の上なので、送っていった家の母親から胡乱な目で見られることもあった。そんなときぼくは、
「お嬢さんは今日、大きな働きをされましたよ。火傷した白鳥を救ったのですよ」
 などと、その家の娘がぼくに話したままに教えたりした。
「白鳥が湖で火傷したの?」
 と母親がぎらりと目を光らせて娘を見、それからぼくを見た。
「ええ、夕日があまりに輝いていたので、夕日に羽根を火傷したと、勘違いしたようなんですよ」
 とぼくが説明を入れる。
「勘違いじゃなくってよ。ボートで近づいたらぐったりしていたから、捕まえて手当してあげたわ。それで咬まれて、こんな傷をした」
 と娘は手の甲の傷を母親に見せた。
「本当に白鳥でしょうね」
 母親は胡散臭そうに言って、ぼくに白目を向けた。ぼくは仲間の待つ湖畔に向けて車を走らせた。娘を家まで送った感謝どころか、冷たくあしらわれたようなものだった。おまけに女子高生の救助仲間から、
「あなたが余計なこと言ったので、あの子保護活動も足止めされたわ」
 と白眼視された。ぼくは正当な評定がくだらないからこそ、奉仕の精神なのだと、考えるようになった。そう自分に言い聞かせ、その後も奉仕をつづけている。

end


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