第1部 現代に奇跡が起こった

2 世の中の現象はすべて必然であり、偶然はありえない

【 空中から大黒天像が出現した 】

　昭和五一年一一月二五日。

　私はT・S先生宅を訪れていた。

　七～八人の友人とともに食事を楽しみながら、夜ふけまで話し込んでいた。

　すると、T・S先生が、ふと、

　『ゴーッといっているよ』

　と言うのである。

　たしかに、どこかからかすかにゴーッという低い響きが聞こえてくる。

　しかも、だんだん近づいてくるように思われる。

　『おい、大地震の前兆か？』

　誰かの不安気な声。

　しかし、そうではない。

　その奇妙な響きは、地面の下ではなく、上の方から近づいてくるのだ。

　まるで海鳴りのような響き。

　私は奇跡の到来を確信した。

　突然、すさまじいまでの光の渦があたりを包んだ。

　全員、思わず手で顔を覆う。

　やがて光は徐々に収束していった。

　そしてその光の球が、私の前で最後の強烈な光線を発したかと思うと、フッと消えた。

　全員、茫然自失している。

　『あっ！

　大黒様が現れた！』

　誰かが叫んだ。

　なんと私の目の前のテーブルには、木の香りも新しい大黒天像が現れていたのである。

　先ほどまで何もなかった場所に、大黒天像が忽然と出現した。

　思いもかけぬこの奇跡の顕示は、いったい何を意味するというのだろうか。

　恐る恐る皆は、大黒天像を眺めていた。

　誰かが素っ頓狂な声をあげた。

　『見ろよ！

　この大黒様、政木さんと同じ顔してるじゃないか！』

　たしかに、粗削りではあるが、私にそっくりである。

　と、その時、信じられないことが再び起きた。

　『おい、目の上を見ろ！』

　全員の見ている前で、大黒天像の眉の部分が、徐々に削られ、完成されていくではないか！

　まるで見えない手がそこにあるかのように、像の眉は太くなり、濃くなってゆく。

　気がつくと、全員の目からボロボロと涙が溢れ出ていた。

　私も友人達も、こみ上げてくる熱いものを抑えることができなかった。

　私のために、神が大黒像を授けられたのだ。

　こんなことが現実にあるのだろうか。

　空中から大黒様が出現する。

　そんなことが現世にあるのだろうか。

　これをどうすれば科学的に説明できるのだろうか。

　まだ理由も意味もわからないが、とてつもない奇跡を、人生を変え得るような啓示を、今、自分達は目の当りにしているのだ。

　感動と畏怖の念が、全員の胸を激しく揺さぶった。

　皆の勧めで大黒天像を家に持って帰ると、息子がたくさん撮影した。

　それから二週間後のことである。

　食事中に、大黒様がひとりでに横向きに方向を変えた。

　『大黒様が動いた』

　と大騒ぎになったが、よく見ると、何だかおかしい。

　どこか変わったように思う。

　持ち上げてみると、台の裏に書いてあった発生年月日等の文字が削り取られて消えている。

　台の下には削ったと思われる削り屑がある。

　写真を持ってきて見くらべてみると、左指先が変わり、右の耳が仕上がっている。

　そして、台の前方の傷もなくなり、完全に仕上がった状態となった。

　後に、周囲に落ちていた削り屑のようなものを調べてみると、自然界には存在しない物質であることがわかった。

　強いていうなら、空気がギュッと圧縮されたもののようにも思われたが、その物質もいつの間にか消失してしまった。
 

　第二の大黒天像出現は昭和五二年二月七日、私の家にT・S先生が宿泊していた日のことである。

　午前二時半頃だった。

　T・S先生は既に眠りにつき、私もそろそろ寝ようかと思っていると、どこからか、

　『政木よ……、政木よ』

　と、かすかにささやくような声がする。

　キョロキョロと周囲を見回しても誰もいない。

　さらに声は大きくなった。

　T・S先生の方を見ると、眠っている先生の右手が少し持ち上がり、白く光った掌の中から大黒様が湧き出ているではないか。

　『政木にこれを授くぞ』

　と声量のある男性の大きな声が天井から響いてくる。

　私はびっくりして、大声で

　『早く来てくれ、皆、早く二階へ来てくれ』

　と、家族を呼んだ。

　部屋に入ってきた長男も、そこに大黒像の出現を確認した。

　『ご神示が出るから記録してくれ』

　と、私は長男に命じた。

　すると、それを待ちかねていたように、ご神示の朗々たる声が天井付近から聞こえてきた。


　政木家にこれを授くぞ------

　やまいをいやすために我出現せり

　汝（なんじ）に神秘の力を示さんがためなり、汝、なやみのとこをたたみ捨てよ

　汝の心と同じ神の喜びたる心の聖なるみことを汝無心の心を心として、

　我汝のすべてをいやすものなり

　この現象たる妙生の掌より生み出したるものなり

　信ずる心あらば我歓喜とすぞ

　（ここ三行は不明）

　信仰たるものは迷いの心を捨て、一筋の道にこれを説き……

　神なり力大いなり

　風を吹き……氷山を解かすことも自在なり

　天より糸を垂れ水に浮かべる小さき浮きに立てる針に糸を通すことも自在なり

　我のみことのりを信ずる心こそ誠の心なり


　皆、荘厳の思いに打たれ、頭をたれていた。

初版発行：1994年11月25日
10版発行：1995年11月20日
著者：政木和三
発行者：松元淳
発行所：産能大学出版部
　　　　東京都世田谷区等々力 6-39-15
印刷：倉敷印刷
製本：豊文社
ISBN 4-382-05260-2
© 1994 Printed in Japan